〔いんさいど世界〕 イラク石油法を視野に ISG オイリー・ダメコン報告
ベーカー元国務長官による「イラク・スタディー・グループ(ISG)」の報告なるものが、12月6日に発表された。
主流メディアの目は、当初「2008年の第一四半期における米軍撤退」にばかり注がれていたが、ここに来て、ISGの提言のほんとうの狙いが明らかになってきている。
「米軍撤退」に加え、シリア・イランとの協議、パレスチナ問題への言及など「柔軟姿勢」をちらつかせながら、新石油法の年内成立を図る――これが、ベーカー氏の狙いである。
ターゲットはあくまでも、埋蔵量世界第2位のイラクの石油。
今回のISG報告とはつまり、ブッシュ政権のずさんな戦争計画による破局のダメージ・コントロールを図る一方、「石油確保」という、米国のイラク軍事侵攻の理由を明確化させた、「オイリーなダメコン報告」以外の何ものでもない。
米紙ロサンゼルス・タイムズの報道(電子版、12月8日つけ)によれば、ISG報告の79項目に及ぶさまざまな「勧告」のうち、たとえば「第63勧告」に、ベーカー氏らの意図が透けて見える。
同勧告は、米政府(ブッシュ政権)に対し、イラクの政府指導者たちに国内石油産業を民間の事業として再編成することを支援させ、国際社会及び、「国際エネルギー企業」による投資を促進させる、ことを求めている。
イラクの石油産業は1972年に国営化されており、それを抜本的に見直す新石油法案の検討作業は現在、大詰めを迎えている。
ISG勧告は、その法案を早期に成立させ、イラクの石油権益を石油メジャーに売り渡す後押しをせよ、とブッシュ政権に求めているわけだ。
ISG報告にはほかにも、石油がらみで驚くべき勧告が盛られている。
たとえば「第62勧告」。
米国の平和運動家、トム・ヘイドン氏の指摘によれば、同勧告は、ブッシュ政権に対して、「投資のために金融と法的な枠組み」を創設する石油法の条文整備にについて「支援すべきである」と言い切り、IMFとともにイラク・エネルギー資源に対する統制撤廃を進めるよう求めている。
露骨すぎるほど露骨な「勧告」である、といえよう。
ベーカー長官がイラク戦争開始後、日本を含む世界19ヵ国(パリ・クラブ)に対するイラクの対外債務1200億ドルの80%を帳消しにするのと引き換えに、イラクの経済運営をIMFの管理下に置く工作をした当事者である。
IMFによる縛りをかけておいて、イラクの石油利権を確保する……借金、棒引きはそのための布石だったわけだ。
それでは、現在、米国の圧力下、法案整備が進められている「新石油法」の中身とは、どんなものか?
フィナンシャル・タイムズ(FT、電子版、12月7日つけ)によれば、「生産サービス協定(PSA)」を柱とした「歴史的」なものになるのだそうだ。
石油を国営化した現行法を完全に覆し、石油開発を長期にわたって外国資本の手に委ねる――それが「PSA」である。
新石油法とは、石油メジャーを潤す「PSA=ネオ植民地主義協定」(注・FT紙の表現ではありません)を軸とする新法であるわけだ。
イラクの石油は地表に近いところにあり生産しやすく、しかも硫黄分の少ない「最も甘い」ものだという。それが手付かずのまま、地下に眠っている! だから、サダムの手から、それを奪う!
言うまでもなくベーカー長官は、石油資本の代弁者であり、ブッシュ大統領、チェイニー副大統領と政治基盤を同じくする人物だ。
そのベーカー氏がまとめたISG報告とはつまり、ブッシュ政権を追い込むものではなく、その場しのぎの「助け舟」に過ぎない。
イランやシリアにいい顔をしながら、とりあえず新石油法さえ通せばいい。それが、このタイミングでISG報告が出されたほんとうの意味である。
主流メディアがこぞって報じた「2008年初めの撤退」にしても、引き揚げるのは戦闘部隊だけであって「防護の兵力」は残すと言っている。
米軍は何を「防護」するため残留するのか?
答えははっきりしている。石油関連施設――それだけは間違いなく、半永久的に守り抜くはずである。