〔For the Record〕 「社会的ビジネス(social business)」が世界を救う モハマド・ユヌス氏、かく語りき ノーベル平和賞 受賞演説
「グラミン銀行」の創始者、バングラデシュのモハマド・ユヌス氏が12月10日、同銀行の9人の代表(借り手)とともに、ノーベル平和賞を受賞した。
ユヌス氏は、ノルウェーのオスロで開かれた授賞式での記念演説のなかで、利潤の最大化ではなく、公正な社会の実現を目指す「社会的ビジネス(social business)」こそが、貧困にあえぐ世界の人々を救い、この世に平和をもたらすものだと強調、貧困を「博物館」の中だけの過去の遺物とするよう、全世界の人々の決起を促した。
演説(ノーベル・レクチャー)の冒頭、ユヌス氏は、700万人に及ぶ「グラミン銀行」の借り手を代表して9人の仲間が同氏とともに授賞式の場に臨んでいることを紹介。
この日の「受賞」が世界中で苦闘する数億人の貧しい女性に対し「最高の栄誉と尊厳」をもたらしたと述べ、この日が彼女たちにとって「歴史的な瞬間」であると指摘した。
そのうえでユヌス氏は、「貧困は平和に対する脅威」であるにもかかわらず、世界の所得分配の極端な偏りを見せ、「世界の所得の94%が全人口の60%に行き渡り、残る6%だけが40%の人々に配分されている」現状を批判。
さらに、国連が2000年に採択した「2015年までに世界の貧困を半減させる」目標はどこに消えたかと述べ、世界の指導者の関心が「貧困」から「テロとの闘い」にシフトしている現実を厳しく指弾した。
ユヌス氏は「不満・敵意・怒り」を呼び覚ます「貧困」は、「あらゆる人権の不在」を意味すると主張、大多数派である貧しい人々に対して「機会を創造すること」が、過去30年間のグラミン銀行の活動だったと語り、同銀行の歴史を振り返った。
1974年にバングラデシュを襲った飢饉を尻目に、大学の教室で「エレガントな経済理論」を講義することができなくなった同氏が、最初に行った個人的な融資の総計は、米ドルでたった27ドル。それで、「金貸し」にすがり、「奴隷労働」を続けざるを得ない周囲の貧困者、47人を助けることができたという。
そうして始まったユヌス氏の活動は1983年、「グラミン銀行(村の銀行)」のかたちに結実。いまや700万人の借り手(その97%が女性)を擁する大銀行へと成長した。預金残高は貸付残高の1.43倍。返済率は99%。借り手の58%が「貧困線」を突破、自立の道へと進んだという。
物乞いの女性85000人にも、無利子、あるとき払いで融資し、すでに5000人が行商などで実を立てているそうだ。
ユヌス氏の「グラミン銀行」は、ICT(インターネット通信テクノロジー)に活かした貧困撲滅にも取り組み、携帯電話の「グラミン・テレフォン」を設立、現在、30万人の女性が融資をもとに携帯電話のオーナーとなり、地元の村でレンタル事業を営んでいる。
ユヌス氏は「グラミン銀行」の歴史と現状をスケッチしたあと、「市場経済」について「市場の自由の強化」に賛意を示しながら、「市場のプレーヤー」に対して、「利潤の最大化」を求める「一次元的な人間」でしかないとの「概念的な制約」が加えられていると批判。
「利潤」最大化のビジネスではない、「世界」そして「民衆」に目を向けた「社会的なビジネス」もあり得べきであり、そうした「新しいビジネス」によって、世界の社会・経済問題のほとんどに対処できると語った。
ユヌス氏は「グラミン銀行」もまた、そうした「社会的ビジネス」であるとしたうえで、その傘下の「社会的ビジネス」として新たに「ヨーグルト工場」と「眼科チェーン」を展開していると報告。
こんごの「社会的ビジネス」が取り組むべき課題として①「社会的株式市場」の創設②「社会的なウオール・ストリート・ジャーナル」の創刊③「社会的ビジネス」の多国籍的展開――などの夢を語った。
こうしたうえでユヌス氏は、貧困は貧しい人々によってつくられたものではなく、「貧しい人は盆栽のようなものだ」との喩えを引きながら、「人間のキャパシティーを過小評価する」「理論的な枠組み」や「経済・社会システム」によって産み出されたものだと批判。
「グラミン」は同氏に対して、「人間の創造性に対する揺るぎのない信念」をもたらしたとして、貧しい人々の「エネルギーと創造性の解放」で世界の貧困を撲滅し、貧困を博物館送りしようと呼びかけた。
⇒
http://nobelprize.org/nobel_prizes/peace/laureates/2006/yunus-lecture.html
Posted by 大沼安史 at 06:24 午後 | Permalink
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 〔For the Record〕 「社会的ビジネス(social business)」が世界を救う モハマド・ユヌス氏、かく語りき ノーベル平和賞 受賞演説 :