〔いんさいど世界〕 霧のロンドン ミステリー ロシア人亡命者の毒殺を図る スシ・バーが舞台 プーチン氏の刺客か?
英国の首都、ロンドンで暗殺(未遂)事件が起きました。ロシア人亡命者が何者かに毒を盛られたのです。舞台とされるのは、市内中心部の「SUSHI(スシ)・バー」。狙われた人物は、ロシアのプーチン政権に対する、新たな告発を準備していたといいます。
霧のロンドンでいったい何があったのか?
きょうはその深層に迫ってみたいと思います。
ロシア人亡命者に対する暗殺未遂事件は、11月20日に英国のメディアが一斉に報じたことで明るみに出ました。
まるで冷戦のころを思わせる「毒殺」事件とあって、英国内だけでなく世界中から注目されました。
くだんのロシア人亡命者はいまなお生死の境をさ迷っています。
何者かに毒を盛られたのは、アレキサンダー・リトビネンコ氏(44歳、50歳説も)。
ロシアの秘密警察KGBとその後継組織であるFSB(連邦安全保障局)の高官を務めた人物で、1988年にモスクワで記者会見し、FSBの上司がロシアの富豪、ベレゾフスキー氏の暗殺指令を出したことを暴露、2000年にロンドンに逃れ、つい先月、英国籍を取得した人です。
一貫してプーチン大統領のよる権力的な支配体制を批判、2001年には著書(ロシア国内では発禁)のなかで、クレムリンに大統領直轄の秘密暗殺部隊があることを指摘するなど、プーチン批判を続けて来ました。
で、そのリトビネンコ氏が急に具合が悪くなり、病院にかつぎこまれたのは、11月1日のこと。
その日の午後3時ころ、ロンドン中心部、ピカデリー・サーカス(広場)にある、「イツ」というスシ・バーで、イタリア人と会い、食事をして帰宅後、苦しみだしたといいます。
病院の検査の結果、「タリウム」という毒物が盛られたことで骨髄が破壊され、白血球をつくれなくなり、面会した人によると、脱毛などでまるで「幽霊」のような変わり果てた姿になっているといいます。生死の確率は50・50。容態は悪化しており、予断を許さない状況だといいます。
まだ意識がはっきりしていた段階でリトビネンコ氏が語っていたところによると、イタリア人のマリオ・スカラメラという人物と、同広場で落ち合い、立ち話もなんなのでとスシー・バーに入りました。
スシ・バーにはリトビネンコ氏が誘ったそうです。
スシ・バーではリトビネンコ氏は食事をしましたが、スカラメラという人は水だけを飲んで何も食べなかったそうです。スカラメラ氏は、先月(10月)、モスクワで何者かに射殺されたロシア人女性ジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤさんの暗殺実行犯グループの「名簿」と称するものを、リトビネンコ氏に手渡したそうですが、スシ・バーにいる間、とても緊張していたといいます。
スカラメラ氏がリトビネンコ氏にコンタクトをとってきてのは、ごく最近のこと。イタリアからなぜわざわざロンドンまで出てきたのか、わかっていません。
こうした状況から、ひとつの可能性として、スカラメラというこのイタリア人がリトビネンコ氏の隙を見て、粉末のタリウムをスシか何かのなかに混入したとことが考えられますが、ハッキリしていません。スシ・バーには店内に防犯カメラが設置されていませんでした。
リトビネンコ氏は元KGD/FSBエージェントという暗い影を引きずっている人ですが、実はこのスカラメラという人も謎に満ちた人物です。
このスカラメラ氏、イタリアではけっこう有名な人で、「冷戦」時代のイタリアにおけるKGBの活動を調査委員会に加わったり、ソ連海軍の駆逐艦がナポリ湾に核魚雷を置き去りにしたと告発したり、反ロシア活動に従事している人物。
2年前にはスカラメラ氏自身、暗殺されかかったこともあるそうです。
スカラメラ氏はイタリアに帰国後、ローマの英国大使館で身の潔白を主張したあと、自ら暗殺されるのを恐れ、どこかへ雲隠れしたそうです。
そんなスカラメラ氏がどうして、同じ反ロシアの立場に立つ、リトビネンコ氏の暗殺を企てたのか、解せない部分もありますが、リトビネンコ氏は毒を盛られた当日、実はもうひとり、ロシア人ジャーナリストとロンドン市内で会っている事実も判明し、事態はより複雑化しています。
リトビネンコ氏はモスクワからロンドンに来て、トンボ帰りしたジャーナリストと接触している。その際、毒を盛られた可能性も否定できないわけです。
いずれにせよ、リトビネンコ氏はアンナ・ポリトコフスカヤさん射殺事件のあと、真相究明に執念を燃やしていたといいます。
アンナさんの暗殺とリトビネンコ氏の毒殺未遂事件は、深いところでつながっている。そう見て構わないと思います。
まるで、ジョン・ルカレのスパイ小説のような展開ですが、ロンドンでは1978年にも、ブルガリアからの亡命者が傘の先に仕掛けられた毒物で暗殺される事件が起きています。
霧のロンドン。闇もまた深し、といったところでしょうか。
Posted by 大沼安史 at 10:20 午前 1.いんさいど世界 | Permalink
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