〔コラム 机の上の空〕 イラクで戦傷 両足切断のヘリ・パイロット、タミー・ダクワースさん、届かず 共和党の牙城で善戦
米国の中間選挙で、ブッシュ政権の「イラク戦争」に対し、米国民の審判が下りました。結果は「NO!」。
下院議員選挙では民主党が躍進し、議会の過半数を制しました。
イリノイ州のシカゴ郊外の下院選挙区では、イラク戦争帰りの女性が民主党から立候補し、全米、いや全世界から注目を集めました。
両足義足の元米軍ヘリ・パイロット、タミー・ダクワースさん(37歳)。
イラク戦争に参加し、辛くも一命をとりとめ、生還した方です。
タミーさんは父親が米海兵隊員の、軍人の家庭に育ちました。母親はタイ人の女性。
そう、ゴルフのタイガー・ウッズのような人ですね。
大学院で国際関係論を専攻した方ですが、イリノイ州兵に志願、米軍のヘリ、「ブラック・ホーク」のパイロットとして、イラクに出征しました。
階級は少佐。つまり指揮官の立場であったわけです。
数十人の部下とともに、バグダッドで任務についていました。
そんなタミーさんのヘリが、レジスタンスの発射したロケット手榴弾で撃墜されたのは、2004年11月12日のこと。
そのときの彼女の最後の記憶は、「操縦ペダルが踏めない、あれっ、どうしたんだろう」だったそうです。
不時着したヘリから救出されたタミーさんは、そのまま8日間、人事不省、意識不明の重態を続けます。
そして両足切断……。
片方の脚は付け根に近い部分から消えていました。
タミーさんが今回の中間選挙に立候補することを決意したのは、イラク戦争を現場において体験した者として、なんとしても止めさせたかったからです。
政治にはズブの素人の彼女でしたが、民主党の候補として名乗りを上げ、「イラクからの撤退」を掲げて、共和党の牙城である選挙区で選挙戦に挑みました。
新たな「戦場」は、シカゴ郊外の富裕層が住む選挙区。過去、32年間にわたり、共和党が制していたところです。
そこでタミーさんは闘った。
善戦の結果は、惜敗。4000票ほどの差をつけられ、ついに届きませんでした。
得票率は49%でしたから、ほんとうに「あと一歩」というところでした。
選挙資金が足りなかったなどいろいろ言われていますが、とにかく残念なことです。
しかし、選挙区での闘いには負けましたが、タミーさんがいち選挙区を越え、今回の中間選挙全般に大きな影響を与え続けたことは間違いところです。
TVで彼女の存在を知り、選挙区が違うので彼女を直接、支持するわけにはいかないものの、ある決断を胸に、投票所へ向かった人々も、少なくなかったはずです。
その意味で、タミーさんは議員にはなれなかったけれど、選挙に挑んだ一市民としては、完璧に勝った!
ブッシュ政権を追い詰めた。
タミーさんの果敢な闘いに、アメリカのデモクラシーにおける草の根の底力のようなものを感じざるを得ません。
希望はまだある。
タミーさん、ありがとう。
イラク反戦に立ち上がってくれて、ありがとう。
Posted by 大沼安史 at 08:45 午前 3.コラム机の上の空 | Permalink