〔いんさいど世界〕 アーミッシュの人々の赦し 自殺した射殺犯の妻 マリーさんら遺族を支え励ます マリーさんが感謝の言葉 復讐ではなく愛を 感動広げる「アーミッシュ・イグザンプル」
「アーミッシュ・イグザンプル」……アーミッシュの人々が示した模範。
そんな言葉が、アメリカで広がり出しています。
わたしたちもまた、アーミッシュの人々が示した、あの「赦しと愛」に学ばなければならない。報復・復讐では何も生まれてこない――そんな考え方が、人々の胸に宿りはじめています。
きょうは、そんな「アーミッシュ・イグザンプル」の話を紹介したいと思います。
アーミッシュの人々を襲ったあの事件、まだ覚えていますよね。
今月(10月)2日、アメリカのペンシルバニア州のアーミッシュの村で起きた悲劇のことです。
村の学校に、近くにすむミルク配送ドライバーのチャールズ・ロバーツという32歳の男が銃を持って押し入り、女の子たちを人質にとったあと、10人に銃撃を加え、その場で自殺を図る事件が起きました。
銃撃で少女5人が殺害、残る5人も重軽傷を負う、凶悪な事件がアーミッシュの村を襲ったのです。
日本でもけっこう報道された事件なので、ご存知の方も多いとは思いますが、ここでちょっと、おさらいをしておくと、アーミッシュの人たちというのは、スイスから移住してきたドイツ系の人々で、メノナイト派の敬虔なクリスチャンです。
現代文明の汚染をさけ、電気も車もない、質素な暮らしを営んでいる人たちです。
そんな人たちが自分たちの娘を、孫を殺されてどう反応したか?
これも、もう、とっくにご存知のこととは思いますが、アーミッシュの人たちは驚くべき対応をしたのです。
現地からの報道によりますと、アーミッシュの村人たちは、事件から「数時間後」には、チャールズ容疑者の自宅を訪問し、妻のマリーさんを慰め、励ましました。
マリーさんは、チャールズ容疑者との間に3人に子を持つ母親。
同じ人の子の親として、自分の夫が学校で子どもたちを殺したという事件に衝撃を受け、絶望と悲嘆の底へ突き落とされていたはずです。
その彼女を、アーミッシュの人たちは支えた……。
夫の罪を赦して、彼女の心の支えとなった……。
なかなかできることじゃありませんよね。
アーミッシュの人たちの励ましはそれだけではありませんでした。
殺害された少女たちの葬儀にマリーさんを招待しました。
そして7日に行われたチャールズ容疑者の埋葬には、40人近くが参列し、マリーさんと3人の子どもたちとともに、チャールズ容疑者の死を悼んだのです。
チャールズ容疑者が葬られたのは、9年前に、幼くして亡くなった娘さんのハート型の墓石のそばでした。
チャールズ容疑者はこの娘さんの死をきっかけに、神を呪い、自分を呪い、世界を憎むようになったのだそうです。(昔、親戚の少女に性的ないたずらをしたことが心の傷として残っており、それが事件のもうひとつの引き金になったとの説もありますが、警察は確認していません)
その葬儀の印象を、参列者のひとりは、こう語っています。
「それは愛でした。赦しでした。心からの赦しが、遺族に対して向けられたのです。それを見てわたしも、思わず跪き、泣いてしまいました」
殺されたアーミッシュの少女たちも、相手を赦す勇気を示しました。負傷しながら生き延びた少女らの証言によりますと、最年長の13歳のマリアンさんは「わたしを撃って。ほかの子は逃がして」と、前に進み出たそうです。マリアンさんの妹のバービーさん(11歳)も自分から進み出て、負傷しました。
マリアンさんたちはチャールズ容疑者に、こうも訊いたそうです。
「どうして、こんなことをするの?」と。
これに対してチャールズ容疑者はこう答えた。
「神のことを怒っている」と。
自ら銃口の前に進み出たマリアンさんの心の中には、チャールズ容疑者に対する憐れみがあったのかも知れません。
負傷したバービーさんが病院のベッドから起き上がり、自宅に戻った14日、マリーさんはアーミッシュの人々に対し、感謝のメッセージを発表しました。
そのマリーさんのメッセージが、アーミッシュの人々の愛に「応答」するものとして、ニュースとなって福音のように伝わり、世界に感動の輪を広げました。
その一部を紹介します。
「みなさんのわたしたち家族に対する愛は、わたしたちがほんとうに必要とした癒し(ヒーリング)をくださいました。みなさんからの贈り物は、言葉で言い尽くせないほど、わたしたちのハートを温めてくれたのです。みなさんの思いやり(コンパッション)は、わたしたち家族を、地域社会を越えてゆき、いま世界を変えようとしています。そのことにつき、わたしたちは、みなさんに、心からの感謝をささげるものです」
事件のあと、このアーミッシュの人々に対し、全世界から――ベトナムやアルゼンチンからも、共感と励ましの声が寄せられたそうです。病院の費用を心配して、地元の関係機関に義捐金を寄せてくれた人もかなりの数に上ったそうです。
アーミッシュの人たちの赦しと愛は、マリーさんのいうように、まさに世界各地へと広がり、憎悪と復讐心にまみれた世界を変えようとしているのかも知れません。
そのマリーさんの声明が発表された同じ14日に、アメリカのアイオワ州の田舎町で、1家5人が家族のひとり息子に殺される事件が起きました。
19日に行われてその葬儀で、カトリックの司祭が説教のなかで、アーミッシュの人々の「愛と赦し」に触れ、こう言いました。
「わたしたちの生が大きな傷(ハート)で傾いたとしても、それは大きな憎しみ(ヘイト)では回復されない」
「アーミッシュ・イグザンプル」……アーミッシュの人たちが示してくれた模範。
「犯人を一日もはやく極刑に処して」とはたぶん言わない、その大きなこころ。
わたしたち日本人も、大いに見習うべきことかもしれませんね。
ちなみに、悲劇の現場となったアーミッシュの村の学校のことですが、村人たちはさっさと解体し、消し去ったそうです。
名所になっては困る、と。
ペンシルバニアのランカスターにある、このアーミッシュの村には、いまごろはもう、平和で、静かな時間が戻っていることでしょう。
悲しみを癒すのは愛であり、赦しである。
それを教えてくれたアーミッシュの人々に、わたしたちもまた感謝の心をささげたいと思います。
Posted by 大沼安史 at 03:57 午後 1.いんさいど世界 | Permalink
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