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2006-09-20

〔いんさいど世界〕 若者たちが刻む平和のリズム 「ピースジャム(PeaceJam)」10周年 世界大会 コロラドのデンバーにノーベル平和賞受賞者が結集 「10億の平和行動」を誓う

 米コロラド州に誕生し、世界に広がる「ピースジャム(PeaceJam)」運動の10周年記念大会が9月15日から17日までの3日間、地元のデンバーで開かれた。

 南アフリカのツツ大司教やダライ・ラマ14世、地雷廃絶運動のジョディー・ウイリアムズさんらノーベル平和賞受賞者10人が参加し、世界31ヵ国から集まった3000人の若者たちと「平和」実現を目指す取り組みについて話し合った。

 その結果、こんご10年間に、世界各地で「10億」の「平和行動」を繰り広げることで一致した。

 「ピースジャム」、平和のジャム。
 食べるジャムではなく、考え、共鳴し、行動するジャムである。そう、集まった仲間が即興で奏でるジャズの自由演奏。「平和」を世界に届ける、高校生世代を中心とした、若者・子どもたちの運動だ。1996年の生まれ。場所はロッキー山脈を望むコロラド高原の都市、デンバー。

 創始者は、イヴァン・スバンジエフさん、ドーン・エンゲルさんカップル。ともに現在、59歳だから、49の年に始めたことになる。
 2人はつまり、あのカウンター・カルチャーの世代。60年代に青春時代を送った「フラワー・チルドレン」である。

 アーチストのイヴァンさんが「ピースジャム」を思い立ったのは、12年前、1994年のこと。
 デンバー市内北部の通りで、銃を持った10代の少年グループに囲まれた。
 やりとりのなかで、ギャング・グループの少年たちは現職のアメリカの大統領の名前さえ言えないが、南アフリカでアパルトヘイト反対運動を闘った、ツツ大司教やネルソン・マンデラのことはちゃんと知っている、ことがわかった。

 少年たちは、イヴァンさんにこう言ったという。
 「ああ、知ってるぜ。大司教のデズモンド・ツツだろ。それにマンデラ。ツツはアパルトヘイトの銃口の前に立ったのさ。そして刑務所に入れられた。でも、銃は決して持たなかったぜ。非暴力の平和行動。それがすべてだったのさ。そしてあの国に平和をもたらしたのさ」
 それを聞いてイヴァンさんはこう切り返した。
 「だったら、ツツみたいになってみないか? どうして銃なんか持っているんだよ」
 イヴァンさんはそう言って少年たちを追い払ったという。
 
 それがイヴァンさんの心に、「ピースジャム」の夢が芽吹いた瞬間だった。若者たちが、彼ら・彼女らが「平和」の担い手、伝道者として育っていく運動を広げようと思い立った時だった。

 イヴァンさんは、ワシントンの連邦議会上院でスタッフをしていたドーンさんに相談した。
 ドーンさんは、ノーベル平和賞を受賞した、ダライ・ラマの世話をしたこともある人。
 意を決して2人がダライ・ラマに会いに行くと、あっさり「協力」を約束してくれた。そして、「ほかのノーベル平和賞受賞者にも呼びかけたらいい」と、アドバイスをしてくれた。

 こうして、ダライ・ラマらノーベル平和賞の受賞者の賛同を得て、デンバーの街角に始まった「ピースジャム」運動だが、世界の平和運動の「スーパー・スター」たちの“お話を聞く会”に終始したわけではない。この10年、毎年、1、2名の受賞者を呼んで開く「会議」とは別に、幼稚園児から高校生(年代の若者)までの子どもたち・若者たちがそれぞれ「平和活動」を実践する、草の根運動を続けて来た。学校の教師や大学生らが指導者(メンター)になって、「ピースジャム・カリキュラム」というプログラムで、「平和教育」を続けて来た。
 運動の輪は米国内、国外に広がり、現在、国内10に支部、国外に9支部。
 この10年間に「ピースジャム」の「平和教育セッション」に参加した子どもたち・若者は全世界で50万人に及び、そのひとりひとりがトータル「45時間30分」の「平和活動」を行ったという。

 そうして迎えた「10周年」大会――。
 会場のデンバー大学では開会を前に、「ピースジャム」立ち上げのなかで結ばれた、イヴァンさん、ドーンさん夫妻が記者会見した。
 産みの親である夫妻は「わたしたちの運動の誕生日を祝うためにノーベル賞受賞者が集まるわけではない。世界のため、何事かをなすために、この大会は開かれる」と述べ、「これは歴史だ。いま歴史が生まれようとしている」と宣言した。

 それではこの歴史的な「10周年大会」で、どのようなことが起き、何が決定されたか?
 まず、「ピースジャム」創立の立役者のひとり、ダライ・ラマについて見ることにしよう。
 (コロラドの地元紙、デンバー・ポストとロッキーマウンテン・ニューズの両紙が詳しく報道しているので、その記事を要約するかたちで紹介したい)

 ダライ・ラマは16日の土曜日、デンバー大学のアリーナに姿を見せた。数千人の若者たちの立ち上がってシャウトした。まるで「ロックスター」を迎えるように。
 栗色の僧衣をまとったダライ・ラマは、「ピースジャム」の若者たちに、以下のように語りかけたという。

 「この瞬間、2006年において、今世紀(21世紀)の大半は君たち若者の手の中にある」
 「いまや国境はない。全世界がひとつのボディーになろうとしている。こういう環境下にあって、戦争は時代遅れであると、わたしは思う……周りを破壊することは、わたしたち自身を破壊することである」(以上は、新聞記事での「引用」)

 ダライ・ラマはこう語ったあと、若者たちに挫けるな、すべての戦争を止めるなんてできない、などと決して思うな、と迫ったそうだ。自分たち自身の勇気と力を信じろ、と。

 ダライ・ラマは会場からの質問にも答えた。
 そんな答えのひとつが新聞に引用されていた。
 「数千年にわたって人々は神に、仏陀に祈り続けて来た。しかし、苦しみはなお続いている。問題はまだあちこちにある」「わたしたちの行動とクリアなビジョンは祈るよりも重要なことだ」

 ダライ・ラマは「ピースジャム」の若者たちに(そして世界の若者たちに)言ったのだ!
 ビジョンを持って行動せよ、と。

 翌日、17日の日曜日、ダライ・ラマはヨルダンのノール女王とともにヘリコプターで、レッドフェザーレイク近くにある「シャンバーラ・マウンテン・センター」を訪れた。
 2500人の聴衆がチベット語による祈りを聞き、自分たちの祈りを祈った。アラビア語、ヘブライ語、(地元先住民の)ラコタ語で。
 宗教原理主義とは無縁の、エキュメニカルな「平和の祈り」だった。

 デンバーに戻ったダライ・ラマは市内のセンターで開かれた公開講演会に臨んだ。1万5000席のチケットはすべて売り切れ、満員の盛況だった。
 ダライ・ラマは言った。
 「9・11以来、わたしはひとりの仏教徒として、イスラムの擁護者となった」
 「テロとの戦い」を続け、「文明の戦い」を標榜するに至ったブッシュ政権への批判ともとれる言明だった。 

 高齢をおして駆けつけた南アフリカのツツ大司教も17日朝、2700人の「ピースジャム」の若者たちに呼びかけた。

 「わたしたちノーベル賞受賞者は天から浮遊して降りてきたわけではない。わたしたちにもあなたがたと同じ時があった。わたしはこの言葉を今週、なんどもなんども言って来た。そう、わたしはあなたがたを尊敬していると。わたしはこれまでになく真剣に、そう思っている。諸君はすばらしい若者たちである」
 
 昼食後、ツツ大司教と話し合う機会を得た、テネシー州メンフィスから来た高校生のグループが言った。ホームレスを救う自分たちの活動が、ツツ大司教の存在を通して、世界のなかに位置づけられた、と。

 デンバーに集まったノーベル平和賞受賞者は、ほかに8人。受賞者の発言は必然的に、米国のブッシュ政権批判となって続いた。

 地雷廃絶運動家のジョディー・ウイリアムズ:「1日2ドル以下で人々が生活しているイラクやアフガニスタンに戦費を支出することは許されることではない」

 アルゼンチンの人権活動家、アドルフォ・ペレス・エスキバル:「テロリスト攻撃で3000人の命が奪われたあの9・11の日、世界では3万5000人の子どもたちが飢えて死んだ。それをわたしは、経済テロと呼ぶ」

 イランの人権活動家、シリン・エバディ:「世界の富の80%が1%の人の手にあるとき、どうしてわたしたちは平和を期待できるのか?」

 
 「ピースジャム」10周年大会はこのように進み、3日間の日程を終えたが、女性参加者のひとりは地元紙のデンバー・ポストのブログで、こんなシンプルで力強い総括してみせた。
 「ピース・ジャム」のこれまでの10年は「(個々の)人生を変える(life changing)」10年だったが、これからの10年は「世界を変える(world changing)」10年になる、と。

 今回の10周年記念大会では、グローバル規模で幼稚園児ら年少の子どもたちのための平和教育プログラムを展開することと、こんご10年間に世界中で「10億」の「平和行動」を行うことが決まった。
 もちろん「10億」とは、マキシマムではなくミニマム。
 それは、若者や子どもたち以外の世代による「プラスアルファー」を排除するものでもないだろう。

 「ピースジャム」運動の、日本での広がりもまた、期待される。
 「世界を変える10年」――その大事な時間を、またしても、あの「失われた10年」にしてはならない。
  

Posted by 大沼安史 at 12:47 午後 1.いんさいど世界 |

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