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2006-08-21

〔コラム 机の上の空〕 愛子さまが笑った「女王の国」、オランダは、世界1の「救いの国」!

 愛子さまが笑っていた! 笑顔で手を振りながら!

 オランダのベアトリックス女王のそばで。
 パパとママの見守られながら。
 ママも笑顔、パパも笑顔。アレキサンダー皇太子一家と一緒に。

 新聞(19日付け各紙)に載った笑顔の写真を見て、救われた気がした。
 笑ったところを見たことがない愛子さまが笑っていた。
 日本ではいつも「張り詰めた笑顔」のママ(雅子さん)も自然な表情。そして、そのそばにいるパパ(皇太子)の嬉しそうな顔。

 18日に、オランダ東部、アペルドールン市にあるオランダ王室の馬車庫で撮影された記念写真が公開された。
 それを見て直感した。
 愛子さまはきっと、「女王の国」だからこそ、笑顔を取り戻せたのだと。
 
 よかった、と思うと同時に、あらためて日本の皇室をめぐる、うっとうしさを感じないわけにはいかなかった。どこかで「靖国」問題につながっている、あの「男系天皇」の論議を思い起さずにはいられなかった。

 「靖国」にはたしか、従軍慰安婦も、従軍看護婦も、まつられていないのではないか?
 「軍神」や「英霊」は、「男」でなければならない「靖国」と、「天皇」は「男」に限るとする日本の「皇室」との、前近代的な共通性。

 愛子さまのオランダの静養先での笑顔は、両面の鏡だった。
 そこへ逃げだすことで、ようやく「緊張と抑圧」から解放された皇太子ご一家――とりわけ雅子さまの、安堵の思いを映し出す一方、「男女同権」であるべき戦後の日本に、黒い霧のように残る「家父長制権力」のアナクロニズムを照らし出てみせた、両面の手鏡。

 オランダから届いた写真のなかで、笑顔で手をふる、その愛くるしいお姿は、日本の抑圧社会そのものに対する、純心な「バイバイ」であるような気がした。

               ◇

 愛子さまを笑顔にしたオランダとはどんな国か?

 皇太子ご一家がオランダに到着する4日前の13日、この国が世界で一番、困った人々、貧しい国々を救っている国だというニュースが全世界を駆け巡った。英国のBBC放送など、世界のマスコミが「オランダ世界1」のニュースを報じたのである。

 米国・ワシントンにあるシンクタンク、「グローバル開発センター(CGD)」がまとめた調査結果が、世界的な注目を集めたのだ。
 フレッド・バーグステン氏ら著名なエコノミストらによって2001年に設立されたCGDは、世界の「豊かな国」が「貧しい国」の人々に対して、どれだけ救いの手を伸ばしているか、「援助」など7つの視点から各国を分析・評価し、国際社会における貢献度を毎年、ランク付けしている。

 その最新の分析(2005年評価)で、オランダが世界の先進国21ヵ国中、第1位であることがわかったのだ。

 前年(2004年評価)までは、デンマークがトップで、オランダは2位に甘んじていたが、今回(2005年評価)の調査で、ついにトップに躍り出た。
 オランダの評点は今回、総合評価で6.6。
 6.4だったデンマークをわずかに上回り、世界の先頭に立った。

 参考までに今回調査のトップ10(3位以下)を見ると、③スウェーデン④ノルウェー⑤ニュージーランド⑥オーストラリア⑦フィンランド⑧オーストリア⑨ドイツ⑩カナダ――の順。

 オランダに「世界1」の最高評価が与えられたのは、「援助」(GDP、国民所得比)、「貿易」(関税障壁)、「投資」、「移民」、「環境保護」、「平和維持」、「テクノロジー}(技術移転・供与)の7つの評価項目を通じ、高水準の得点をバランスよく獲得する政策努力を払ったことによる。
 つまり、オランダの「世界1」は、なんとなく世界1になった、というのではなく、国家として意図的に「身銭」を切った結果であるのだ。

 これに対して、わが日本は、CGD調査において、どのような「地位」にあるのか?
 
 意外というか、案の定というか、先進21ヵ国中、第21位、つまり最下位に甘んじているのだ(総合評点3.1)。それも今回、初めてではなく、CGDの調査開始(2003年評価)以来、3年連続。

 あれっ、おかしいな、少なくとも「援助」は各国よりも高得点であるはず(そう日本政府は宣伝していたはず)と思ってみてみると、2005年調査でも最下位の21位。
 日本の貧しい国々に対する「援助」額(国民1人あたり)は、GDP比でみると、世界の先進国中の最下位を行っているのだ。

 これではわが国が「国際社会における名誉ある地位」にある、とは到底言いがたい。

 残念なことにこれが、日本の実情なのだ。「靖国」に「A級戦犯」を合祀して昭和天皇を悲しませ、民主憲法によって「象徴」とされた「天皇」に、憲法原理の重要な柱である「男女同権」を適用しようとしないニッポンの、もうひとつの実態がこれなのだ。

                ◇

 遅ればせながら、この夏休み、わたしは世界的な大ベストセラーである『ダビンチ・コード』を読んで、いろいろ考えさせられた。
 「戦争の惨禍」を繰り返し、「支配と侵略」の推進力となり続けたきた「男性原理」に対し根底的な疑問を投げかけ、「女性原理」の復権を求めたこの小説が、全世界で爆発的に読まれた意味を考えずにはいられなかった。

 物語の終わり近く、スコットランドの「ロスリン教会」をまもり続けてきたマリーなる女性が、主人公のラングストン(男性)にこう語りかける。

 「……振り子は振れているの。わたしたちはわたしたちの歴史の危険というものを感じ始めている……そう、わたしたちが辿ってきた破壊的な道のりを。わたしたちはいま、聖なるフェミニン(女性原理)を復興させる必要を感じはじめているの」(ペーパーバック、479頁)

 オランダのベアトリックス女王も、たぶん『ダビンチ・コード』を、とっくの昔に読んでいるはずである。読んでいるからきっと、日本という国を憂い、オランダを静養の地として逃れて来た皇太子ご一家を気遣われているはずだ。

 そんな「女王の国」で、笑顔を取り戻された愛子さま。

 オランダはわが国にとってなお、世界に開かれた「出島」である。

 2大政党制を拒む「多党制」。人権とリベラリズムの擁護。……
 
 立憲君主制のこの国から学ぶべきことはまだまだたくさんある。

Posted by 大沼安史 at 11:36 午前 3.コラム机の上の空 |

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