〔いんさいど世界〕 ベネズエラの「闘拳」、英雄・チャベズは、亀田なんかより断然強い!
先日、WBA(世界ボクシング評議会)の世界ライトフライ級タイトルマッチで、「浪速の闘拳」こと亀田興毅選手が、南米ベネズエラのファン・ランダエタ選手を「圧倒」、視聴者の大半の「判定予想」をものの見事に覆し、お見事、チャンピオンベルトを手にしました。
決め技は「採点勝ち」……あざやか、というか、あざとい、というか? それにしても素晴らしい「サプライズ」でした。
そうそう、「サプライズ」といえば、亀田選手、1Rのダウンについて「おれなりのサプライズだ」なんてコメントしていましたが、これってなかなか言えない決めゼリフですよね。
この亀田選手の「圧勝」については、「WBAの年次大会が9月下旬、東京ドームホテルで開かれるので、その前祝いの“ご祝儀”だ」とか、根も葉もないことがいろいろ言われていますが、極めつけはたぶん、こんな「うがった見方」です。
ファン・ランダエタ選手ってベネズエラのボクサーですよね。そして、WBAって組織は米国主導、というか米国偏重のボクシング組織(現会長はベネズエラの人ですが、きっと米国寄り、ですよね……)。
この辺の事情から、ランダエタ「完敗」の判定は、ベネズエラという国の最近の動きを快く思っていない、米国筋の差し金じゃないか、なんて見方も出ているんです。
ベネズエラって国は、チャベズ大統領がその国の政治の「王座」(=大統領職)を獲得して以来、米国(=ブッシュ政権)にとって、まさに目の上のたんこぶ。
そんなチャベスのベネズエラに、「世界チャンピオン・ランダエタ」なんて“プレゼント”をしたら、あのチャベズの野郎(なんだか、言い方が汚くなってしまいました。誰の影響かな?)、ますますつけあがるぜ――ってことで、「奇跡の判定勝ち」を仕組んだって見方なんです。
まぁ、その是非はともかく、きょうの話の主人公は、52歳、男盛りのベネズエラ大統領、ヒューゴ・チャベズ氏。
この人って、あの亀田選手にどこかに似ているんですね。
顔でも体つきでもなく、その「過激な言葉づかい」と「パフォーマンス」ぶりが……。
そう、亀田選手が「浪速の闘拳」なら、チャベス大統領は「ベネズエラの闘拳」。
亀田選手はにわかチャンピオンで、まだまだ「駆け出し」ですが、チャベズ大統領はいまや押しも押されもせぬ、堂々たる「第3世界の王者」なんです。
たとえば昨年、こんなことがありました。ハリケーンの「カトリーナ」がニューオルリーンズなど米国南部を襲ったことがありましたよね。
そのとき、チャベズ大統領は米政府に、こんなオファーをしたんです。浄水装置を10基、発電装置を18機、水のボトルを20トン分、緊急援助したい、と。
チャベズ大統領は「反ブッシュ」の旗色を鮮明にしている人。そんな男から「施し」を受けるわけには行かないって、ブッシュ政権は申し出を断わりました。
それから、こういうこともありました。ベネズエラって産油国なんですが、石油の暴騰でガソリンの価格が米国で急上昇した際、チャベズ大統領は「アメリカの都市に住む貧しい人々にために安いガソリンを提供します」と。
このオファーもまた、ブッシュ大統領の逆鱗にふれたことはいうまでもありません。
亀田選手もさることながら、チャベズさんの「口撃」もまたもの凄いんです。
イラク戦争を続けるブッシュ大統領を、現代の「ヒトラー」と言い放った。
これまた、なかなか言える言葉じゃありませんよね。
このチャベズ大統領、これまで「第3世界の盟主」、「反米のリーダー」であり続けてきた、あのキューバのカスト首相(からだの具合が悪くて、引退説も流れています)の跡目を継ぐ人じゃないか、といわれています。
実際、カスト首相の体調がよかったことし6月には、ふたりそろってアルゼンチンを訪問し、あの「革命の英雄」、チェ・ゲバラが少年期を過ごしたアルタ・グラシアの町を訪ねたりしています。
このように、「カスト2世」というか、新しき第3世界のリーダーという地位を手中に収めた感の、チャベズ大統領ですが、この人には実は、カストのキューバにはない、とんでもない威力の「必殺パンチ」があるんですね。
それは、さきほども触れましたように、ベネズエラの石油資源です。
この石油資源を背景に、「ロシア-中国」枢軸に加わり、イランなどとも友好関係を築いて、着々と反米包囲網を広げているんです。
7月から8月はじめにかけて、ロシアなど世界9ヵ国を歴訪しましたが、その最後の訪問国として、世界の「最貧国」、ベニンを訪れ、290万ドルの援助を行うことを約束しました。
ベネズエラは貧しい国の味方ですよ、というメッセージを、こんなパフォーマンスで世界に発信してみせた。なかなか、やるジャン、て感じですね。
見栄を切るのが上手なだけでなく、けっこう現実的で、ディフェンスにもたけている。
ロシアのプーチン大統領から兵器輸入の約束もとりつけている。
ガードも固いですね。
それから、米国の映画産業に対抗して、ベネズエラ版のハリウッドをつくろう、といった計画をぶちあげたり、チャベズさんて、ほんと「絵になる」スーパーヒーローなんです。
そんな「ベネズエラの闘拳」、チャベズ大統領を敵視する米国のブッシュ政権がこんご、どんな巻き返しに出てくるか?
ラテンアメリカの覇権をめぐる、チャンピオンベルト争いの行方に注目しないわけには行きません。