〔いんさいど世界〕 米・英・イスラエル同盟 「地中海覇権」確立へ 「レバノン戦争」拡大の恐れ シリア攻撃の可能性も イスラエル 「水と油」の生命線を確保
国際的な批判と停戦要求にもかかわらず、イスラエルがレバノンでの軍事行動をエスカレートさせている。ブッシュの米国はブレアの英国とともにイスラエル全面支援に動き、停戦の動きを阻止する一方、精密誘導爆弾を緊急供与するなど、イスラエル軍の作戦を後方から支える体勢をとっている。
さながら「米・英・イスラエル」の「3国同盟」が、なりふり構わず、ヒズボラ退治に血道をあげているかたちだ。
「レバノン戦争」を、3国同盟はなぜ激化させようとしているのか? その狙いの核心にあるものは何か? 事態の深層をえぐり、今後の行方を占うことにしよう。
《計画的侵攻》
今回のイスラエル軍の対ヒズボラ攻撃は、2人のイスラエル兵の拉致事件によるものとされているが、もちろん侵攻を正当化する「口実」であり、攻撃を開始する「合図」もしくは「引き鉄」に過ぎない。周到な準備があって、一気に始まった、いわば「計画的な侵攻」と見るべきである。
米紙、サンフランシスコ・クロニクル(電子版)の7月21日付け報道によれば、「1年以上も前」に作戦計画は固まっていたという。
同紙のエルサレム発特電は、「1年以上も前に、イスラエル軍の高官がオフレコ・ベースでパワーポイントを使い、米国などの外交官、ジャーナリスト、シンクタンクに対し、現在、展開されている作戦計画について詳細なプレゼンを開始した」と報じた。
この作戦計画は「3週間」にわたるもので、最初の週はヒズボラの長距離ミサイルや司令部を破壊し、通信・兵站を壊滅させる。第2週は、ロケット発射機や兵器庫を個別に破壊し、第3週になって初めて地上軍を投入、2週間の間に得た情報をもとに軍事目標を壊滅させる、とのシナリオだった。
ただし、この作戦計画はあくまでも短期決戦を狙ったもので、レバノン南部の「長期にわたる再占領」は含まれていなかった、とされる。
しかし、周到な準備と入念な作戦計画の策定にもかかわらず、現実は「3週間作戦」通りには進まなかった。ヒズボラ側もロケットやミサイルの備蓄を進めるなど迎撃体制を固めており、侵攻したイスラエル軍地上部隊の精鋭がヒズボラの待ち伏せ攻撃に遭い、壊滅状態に陥る事態さえ生まれている。
作戦計画の失敗。不敗神話の崩壊。
国連監視哨へのミサイル攻撃やカナ村での空爆による避難民虐殺などは、この、3週間でヒズボラを始末するはずの平定作戦が最初から大きく躓いたことに対する、イスラエル軍ならびに政府指導部の、ヒステリックなまでの過剰反応と言えるだろう。
イスラエルは実は追い詰められたのだ。
事実上の負け戦のなかで、さらには国際的な人道非難の大合唱のなかで「停戦」に応じれば、イスラエルの「弱さ」が浮き彫りにされる。
だから、軍事行動をエスカレートさせ、戦況を一変させ、ヒズボラを壊滅させて、不敗神話を再構築する。やるしかない……。
これが、イスラエル側の本音の部分だろう。
つまり、事態はいまや「3週間」などという枠組みを超え、勝つまではやめられない戦争へと発展しているのである。
先に触れたサンフランシスコ・クロニクル紙の記事にもあるように、イスラエル軍の作戦計画はひとつしかないわけではない。ほかにもさまざまなシナリオがあるはずである。「3週間」に代わる、別の作戦計画がいくつか用意され、決断と発動のときを待っている……それが現段階における実情ではなかろうか。
《パキスタンから地中海まで》
それでは今後、イスラエルは、どんな軍事行動に打って出るのだろうか?――これがさしあたっての大問題である。
ヒズボラに対する徹底空爆の継続と、最終的な地上侵攻による掃討が、イスラエル軍の作戦テーブルに乗っているのはもちろん言うまでもないが、問題はその先、あるいはそれと同時に行われれる軍事行動がどのようなものになるか、という点にある。
この問題を考える場合、考慮に入れなければならない要素は、少なくてもふたつある。
ひとつは「シリア」であり、もうひとつは「米英」の動きだ。まず、シリアから見て行こう。
ベイルートを拠点に活動を続ける、英紙インディペンデントのロバート・フィスク記者は、7月29日付けの同紙掲載の記事のなかで、今回のイスラエル軍侵攻を巨視的な視野に置き、次のように指摘している。
「パキスタンから地中海まで――大きな憎しみをかったシリアとイランという、たったふたつの例外を除き(それらはいずれ血の海へと、たたきのめされるかも知れないが……)、われわれ(米英)は全長2500マイルものイスラム世界を、比べ物もないほどの地獄の惨状へと突き落としてしまった」
核開発を口実とした米軍によるイラン空爆の可能性が消えたいま(ほかならぬペンタゴンが攻撃に反対した、と米国のジャーナリスト、シーモア・ハーシュ氏は、雑誌『ニューヨーカー』誌で明らかにしている)、米英軍事同盟の攻撃目標として残るは、ただひとつ、地中海沿いに陣取る、「ならず者国家」、シリアのみ。
ガザ再侵攻に続くレバノン侵攻の延長線上、もしくはその平行線として、イスラエルが「北方の脅威」であるシリア攻撃を考えないはずはないのである。
フィスク記者のいう「いずれ……かも知れない」がいますぐ現実化し、このシリアに対してイスラエルが軍事侵攻を開始する。そんな可能性さえ排除できないのが危機の実相だろう。
こうしたシリアに対するイスラエルの動きを推し量る上で、考慮にいれるべきもの、それがふたつめの要素である「米英」の動向である。
シリアに侵攻し、アサド体制を崩壊に追い込みたいイスラエルにとって、実はいま、願ってもない「風」が吹いている。
アフガン、イラクで「テロとの戦い」を続ける米英が、ヒズボラばかりかシリアをも「ならず者」から「テロリスト」へと“格上げ”して、攻撃の対象としているからだ。
こうした米英のイスラエルに対する“同志的な肩入れ”、“同調ぶり”は、イスラエルの長い戦いの歴史を振り返っても、みられないものである。
元ニューヨーク・タイムズ記者のシドニー・シャンバーグ氏(カンボジアの「キリング・フィールド」報告で知られる)が米誌「ビレッジ・ボイス」(電子版、2003年9月29日付け)で指摘したところによると、ウェズリー・クラーク元NATO最高司令官はその著書、「現代戦を勝つ」のなかで、こんなエピソードを明らかにしている。
クラーク氏がワシントンに戻った2001年11月のこと、ペンタゴンの高官と雑談をしていたら、高官がこう言い出したそうだ。
「(イラクへの侵攻は)5年計画のキャンペーン(作戦行動)の一部に過ぎない。7ヵ国が対象だ。イラクから始めて、それからシリア、レバノン、リビア、イラン、イラン、ソマリア、スーダンに行く」
クラーク氏が暴露したペンタゴン高官の発言は、米国の本音を物語るものである。
イラクに続いてシリア、レバノンに入る。
こうした米国の軍事侵攻計画が、イスラエルにとって願ってもないことであるというか、千載一遇のチャンスであることは言うまでもない。
《水と油の生命線》
今回のイスラエル軍レバノン侵攻をめぐる情勢で、とりわけ目を引いたのは、英国のブレア首相の、米国及びイスラエルとの一体的な関係である。まるで運命共同体的な動きをして、その「ブッシュ大統領へのプードル的振る舞い」に対して、英国の内外から嘲笑さえ漏れ出ているほどである。
なぜ、それほどまでにブレア首相はブッシュ大統領と行動をともにし、イスラエルに擦り寄り続けているのか?
そんな素朴な疑問に、カナダ・オタワ大学のミッチェル・チョスドフスキー教授が答えてくれた。
「グローバル・リサーチ研究所」を率いる教授の言(⇒参照)に耳を傾けてみよう。
チョスドフスキー教授によれば、イスラエルのヒズボラ攻撃が始まる直前の7月13日、シリア国境に近い、トルコの港町、セイハンで落成式典が行われた。参加者たちは式典終了後、イスタンブールに飛び、セゼール・トルコ大統領主催の祝賀会に出席したという。
イスラエルのエネルギー相も顔をみせた式典・祝賀会には、BP(英国石油)のCEO(最高経営責任者)であるブラウン卿をはじめ、米国のシェブロン社など石油メジャー関係者が集まった。
落成したのは、アゼルバイジャンのバクーからグルジアのトビリシ経由でトルコ国内を横断、地中海に面したセイハンに抜ける「セイハン-トビリシ-バクー(BTC)」石油パイプライン。
そのプロジェクトをコンソウシアムのリーダーとして取り仕切ったのが、英国の石油メジャー、BPだった。
BTCパイプラインは、カスピ海の石油資源を、アゼル、グルジア、トルコという親米国家を領内を経て、地中海へと送り出す、エネルギーの大動脈となるが、チョスドフスキー教授によれば、トルコとイスラエル政府は、セイハンからさらに海底パイプラインを伸ばし、イスラエルの地中海沿いの港町、アシュケロンをつなぐことで合意しているという。
つまり、カスピ海の石油はトルコ経由で地中海の海底をイスラエルに向かうことになるが、このあとさらにイスラエル国内を陸上パイプラインで横断、紅海からアジア向けにタンカーで積み出される計画だ。
セイハンからアシュケロンに向かい海底パイプラインには、石油パイプラインとともに、トルコ領内のチグリス・ユーフラテス河上流で取水した水や、トルコで発電された電流を通す導管をも併設されることになっており、イスラエルにとってはまさに、国家としての存立を左右する「生命線」となる。
チョスドフスキー教授は今回のイスラエルのレバノン侵攻の背景要素として、BP主導のBTCパイプラインと、イスラエルまでの延長計画を挙げているが、言われてみればまさにその通り、イスラエルがレバノンのヒズボラを叩き、シリアのアサド体制の崩壊を狙うのは、当然すぎるほど当然こと。
米英両国(とくにBPを擁する英国)が、石油メジャーの利権防衛のために、イスラエルと共同歩調をとっている理由にしても、BTCパイプラインというものの存在を知れば、それだけでもはや、一目瞭然、と言わなければならない。
なにしろ、ヒズボラとともにシリアのアサドを除去して、地中海沿いを無害化すれば、海底パイプラインも安泰だし、あわよくば陸上ルートも確保できる上、ユダヤ国家として、次なるミレニアムの展望もひらけるわけだから。
ことが、エネルギー(石油)の絡んだ「英・米・イスラエル同盟」の死活的な戦いであるとすると、今回のイスラエルの軍事行動は、行き着くところまで行く危険性を秘めている。
イスラエル軍が先陣を切ってレバノンのみなならずシリアにも侵攻、米英がサウジなどの同意をとりつけて有志の連合軍として加勢に入り、地中海一体を「民主化」する構図である。
このシナリオは、イラン攻撃を回避せざるを得なくなり、11月の中間選挙対策の花火がなくなったブッシュ大統領にとっても魅力的なものであろう。
イラク、ガザ、レバノン、そしてシリア。
中東はいま炎上の危機に立たされている。動乱はイランにも飛び火するかも知れない。
問題は、国際社会が米英イスラエルの「3国同盟」にどれだけ自制を求めることができるか、だ。世界の運命はその一点にかかっている。そう言っても、あながち間違いではないだろう。
テヘラン発のドイツ・DPA通信によれば、日本とイラン両国は7月28日、アザデガン油田開発プロジェクトをめぐり最終合意に達したという。
日本として中東にどうかかわっていくか?
自主的な外交努力がいまこそ求められている。
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Posted by 大沼安史 at 11:19 午後 1.いんさいど世界 | Permalink
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