〔いんさいど世界〕 デジタル・アートの祭典 「ゼロ・ワン サンノゼ」 開かれる
デジタル・ワールドのメッカ、「シリコンバレー」の中心都市、米カリフォルニア州サンノゼで、8月7日から13日までの1週間、「ゼロ・ワン サンノゼ」というデジタル・アートの祭典が開かれました。
時代の最先端を切り開く、さまざまな見世物・出し物・仕掛けが世界中から勢ぞろいし、デジタル文化の次なる可能性をリアルに示してくれました。
それがどれほどのものだったか、「ゼロ・ワン」のサイトで知ったさまざまな「驚き」を紹介しましょう。
まず、祭典の場となった「シリコンバレーの首都」サンノゼですが、人口94万5千人、全米第10位の都市です。サンフランシスコの南にある、ハイテク産業の拠点で、シリコンバーの中心都市であるばかりか、「デジタル世界の首都」といってもいいようなところです。
花の都がパリ、杜の都が仙台であるなら、デジタルの都はサンノゼである、というわけです(自分でこう書きながら、なんだかよくわからなくなってます……。ちなみに筆者は仙台生まれ!)
で、この「ゼロ・ワン サンノゼ」(なんでゼロ・ワンかというと、コンピューターは0と1の組み合わせで計算するからですね。くわしくはわかりませんが……)、1997年に始まった、シリコンバレーにおける「地域文化計画」づくりのなかから出て来たアイデアだそうです。
その流れのなかで2003年に、サンノゼ市役所など関係8機関からなる「サンノゼ8」が結成され、それが核になって、今回の主催団体のNPO、「ゼロ・ワン アートとテクノロジーのネットワーク」が生まれました。
8日7日、「仙台七夕」(6・7・8日)の中日に始まった、ことし、2006年の「ゼロ・ワン」は、その旗揚げというか、こけら落としというか、とにかく記念すべき、第1回の「ゼロ・ワン」でした。
全世界から応募があった1800のプロジェクトのなかから選ばれた130のプロジェクトが、サンノゼのダウンタウンをステージにし、展示・即演されました。
そこでどんな「仕掛け」が登場したか?――というと、われわれ日本人がイメージしやすいものとしては、「KARAOKE アイス・トラック」ですね。
その名の通り、「動くカラオケ屋さん」。ボックス型のトラックの内部を改装、荷台をステージにしてカラオケを楽しんでもらう趣向。曲を無線通信カラオケでゲットするところが、どうも時代の最先端を行く部分(?)のようです。
サンノゼの地元紙、「マーキュリー・ニューズ」紙のサイトで「スライド」が「上映」されていますが、夜のパーキング場のようなところに駐車して、即席カラオケー・パーテーィーをしている現場写真を見ることができます。
熱唱者に無料でプレゼントされる「アイス」の写真も映っていました。コーンのアイスかと思っていたら、スティックのアイスキャンディーでした。
デジタル文化の祭典にしては、ややダサイ感じも否めませんが、変わったところでは、こういうのも展示・即演されたそうです。
その名を「Laughing bicycle」、つまり「笑う自転車」。
自転車の後ろの荷台のところにオーディオ装置がついていて、これを走らせると、「笑い声」が響き渡るというんです。
自転車を漕いで、サンノゼの街角に笑いを。
こういうのをきっと、デジタル文化時代における「笑う角から福が来る」っていうのでしょうね!(お粗末!)
ますますダサくなって来たようですが、もちろん、こういうものだけじゃありません。「なかなかヤルジャン!」クラスもけっこうあります。
ぼくが感心したのは、「ロケイティブ・メディア(locative media)」(日本語にするなら、「場所メディア」とか「ロケーション・メディア」というと、わかりやすいかも知れません。いや、「ナビ・メデイア」というと、もっと理解しやすいかも……)。
具体的にいうと、あなたがいまサンノゼの街のある場所を歩いているとします。そのからケータイで指定された番号にかけると、その場所(仙台で言えば北六番町――もちろん、ぼくが育ったところです)にちなむ歴史とかインフォメーションを聴くことができる。
つまり、ナビに使われている「GPS」(グロバル・ポジショニング・システム)を活用し、「その場でその場の情報をゲットできる」システムが構築されたわけですね。
これだけだと、「ヘェー」度が1つか2つでしょうが、サンノゼ市街を走る「市電」(路面交通システム)に乗ってこの「ナビ・メディア」につなぐと、ニューヨークの作家によるオリジナルな「ロマンチックな物語」を聴くことができるのだそうです。
より具体的には、市電に乗ったあなたの乗車ポイント、路線などをコンピューターが解析し、車窓に現れる街の風物(たとえばマックの店)を採り入れた、オリジナル・ラブストーリーの「部分」がケータイから聴こえてくる。
そのストーリーも、乗車ポイントや行き先でさまざまなバリエーションがあり、話の筋の多彩な変化を楽しむことができる仕組みになってそうですが、長く聴けば長く聴くほど、話の中身がエロチックになっていくのだそうです。
どうでしょう? これだと、「へぇー」「へぇー」「へぇー」、つまり「3へぇー」ぐらいにはなりますか?
同じような趣向のものでは、英国のデジタル・アーチスト2人組による「街のサウンドトラック」プロジェクトというのも、けっこう面白かったです。
仕掛けは実にかんたん、祭典期間中、サンノゼの街で出遭った人がヘッドフォンで聴いている音楽を、その場でマイクロフォンで拾い、インターネットのサイトにマッピイングしながら、どんどん載せていくってものです。
そのサイトにつなげば、サンノゼの街角でどんな音楽が聴かれているか、一目(耳?)瞭然でわかってしまう。
こんなふうにして拾った曲はもちろんポップス中心ですが、なかにはベートベンのピアノ曲もありました。13歳の少女が聴いていたのですね。
さて、ここらでいよいよ「真打ち」の登場ですが、ことしの第1回「ゼロ・ワン」で最も話題になったのは、ハトたちによる“環境コラボレーション”(これはぼくの勝手な造語ですが……)だったそうです。
これってカリフォルニア州立大学アーヴァイン校大学院のベアトリズ・ダ・コスタ助教授が実演してみせたもので、ハトたち専用の超小型ケータイ(セル・フォーン)を開発、それを、これまた専用の超ミニ・バックパックに入れてハトたちに背負わせ、祭典期間中、2度にわたり、サンノゼの空に飛ばしたのですね。
ハトたちが背中に積んだケータイはナビつき(GSP機能つき)、しかも、待機中の窒素酸化物を感知し、データを刻々と空から送信できる優れもの。
ハトたちが発信した情報は、自動的に専用の「ブログ」に掲載され、それによってサンノゼの市民が自分たちの空のよごれ具合を知ることができる――そんなシステムが公開されました。
史上初めて、ハトが“書き込んだ”そのブログを見ると、プロジェクトに参加した10数羽のハトはそれぞれ名前がついていて、その誰それがいついつどこどこの場所で、これだけの数値を感知したか、(祭典が終わった今も、ブログは維持されているので)読み取ることができます。
ハトにケータイ。なかなか意外な組み合わせでしたね。
「ゼロ・ワン」には、日本人のアーチストも参加して注目を集めていました。
アキラ・ハセガワさんという方は、「デジタル・カケジク(掛け軸)」というものを出品していました。日没の空が変化していくさまを“描き”出したもので、俳句の行間、音と音の間、時と時の間という、3つの「間」を、その「瞬間」において経験するものなのだそうです。
そして「ゼロ・ワン」のオープニングを飾ったのは、日本が世界に誇る「デジタル・ミュージシャン」、池田亮司さんの2つの作品。
サイン波などを駆使した独特な映像とサウンドが、「ゼロ・ワン」の幕開けにふさわしいインパクトを、参加者たちに与えたようです。
次回の「ゼロ・ワン」は、2年後の2008年。
こういうところに日本の修学旅行生を連れていったら、喜ばれるのにな!