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2006-07-10

〔いんさいど世界〕 「瀬戸際」に立たされたのは「日本」である 北朝鮮「ミサイル連射」危機:私註

 北朝鮮がミサイルを連射した。ロシア沿海地方の沖合に向けて。

 なぜ、いま、金正日はそれを実行したのか? 連射したミサイルに、彼はどんなメッセージを載せたのか?

 まず、「事実」を確認することから始めよう。
 北朝鮮のミサイル発射について日本のマスコミは「発射実験」としており、そのうちの1発、「テポドン2号」については、日米両国政府の見解として「失敗」だったと報じている。

 それはたしかにその通りではあるが、より注目すべきは、「失敗」した「2号」を含め、発射した全ミサイルは、ロシア近海の日本海に相次いで落下している。
 それも一定海域に集中し、着弾地点が線状に連なる形で。

 この点に着目すれば、事態は「ミサイル発射実験」というより、むしろ、「北朝鮮 ミサイルを特定海面に向け連射、着弾に成功」と呼ぶ方が正確だ。
 言い換えれば、北朝鮮は今回、「ミサイル」の「発射」に成功したのではなく、「精度の高い集中着弾=命中」に成功したわけである。

 日本のマスコミの一連の報道では、なぜか(おそらくは政府の誘導によって)「アメリカを狙える射程の長いテボドン2」に目が向いているが、問題なのは、射程は短いが確実に日本を狙える、「その他のミサイル」の精度の高さと「連射」能力のデモンストレーションに、北朝鮮が成功したという「事実」だ。

 そうした射程の短いミサイルが狙うのが、日本の本土であり、とくに東京であることは明白だ。今回、連射されたミサイルの着弾点から、コンパスで弧を描けば、日本列島のかなりの部分がその円内に入る。

 すなわち金正日は、日本をターゲットに、ミサイルを連射できる力を誇示し、威嚇してみせたのである。

 そう、狙われたのは、(テポドン2が辛うじて届くという)アメリカ(の外れのアラスカ)ではなく、あくまでも、日本のわれわれ。われわれの日本なのだ。

 確認すべきもうひとつの事実は、ミサイルとはもちろん、単なる運搬手段であるということだ。それ自体、「弾頭」を目的地まで届ける「運び屋」に過ぎない。

 それでは金正日は、手持ちのミサイルでもって、日本に向け、何を送り届けることができるのか?
 
 答えはかんたん、もちろん「核弾頭」である。

 北朝鮮はこれまでさんざん、「核保有」を宣言している。
 彼らの「主張」がブラフでもなんでもなく、本当のことであるなら、追い込まれた金正日が遂に日本列島に向け「発射(あるいは連射)」し、かなりの精度で「着弾」するはずのミサイルには、間違いなく「核弾頭」が搭載されるであろう……。
 これは疑いようのない事実である。

 つまり、北朝鮮は今回の「ミサイル着弾実験成功」で、日本に対し「核ミサイル連続着弾」の「未来図」を描いてみせたのである。

 しかし、ここで素朴な疑問が生まれる。
 北朝鮮は「核保有」を宣言しているが、「核実験(の成功)」なしに「自前の核」を保有した国はない。実際に核爆発を起してはじめて、核開発に成功した、といえるのだ。核兵器を200発程度保有しているイスラエルにしろ、国土が狭くて自国内での実験ができないハードルを、アパルトヘイト体制下の南アの協力の下、アフリカ東海岸沖上空の「大気圏内実験」でクリアしているといわれる。

 北朝鮮も国土の狭さではイスラエルと似たり寄ったりである。
 国内で核爆発を起そうものなら、それがたとえ地下実験であれ、環境に影響が出るのは必至である。
 それに、これまで北朝鮮が国内での「核実験」を決行したという事実はないから、その点から判断すると、北朝鮮の「核保有」宣言は完全なブラフ、ということになる。

 しかし、「事実」は必ずしも、そうではないようだ。
 ここに紹介するのは、あくまでも「推定」でしかないが、北朝鮮は「核実験」を密かに決行し、成功している、という見方がある。そして、その「事実」を、日本政府は(もちろん、米国もまた)、今や知っている……。そう考えた方がより自然な事実経過が、実際に存在しているのだ。

 北朝鮮はたしかに国内では核実験をしてはいない。しかし、国外で実験を行った疑惑は根強い。
 国内でなければ、国外のどこか?

 それは、パキスタン。パキスタン西部、バルチスタンの砂漠地帯である。

 パキスタンが「イスラムの核の父」、カーン博士(現在、パキスタン国内で軟禁中)の指導の下、核実験に成功したのは、周知のように、1998年の5月のことである。
 隣の敵、インドの核実験に対抗し、この月の28日と30日の2回にわたって、バルチスタン州の砂漠地帯で、地下核実験に成功した。
 28日に5回、30日には1回。

 問題は2回目、30日の実験地が1回目の実験場所から離れていたことである。
 なぜ、パキスタンは、地下核実験を別々の場所で、それも2回目には、たった1発だけ、違った場所でしなければならなかったか?

 ここから出てくるのが、この最後の1発が「北朝鮮の核実験」であるとの見方だ。

 ニューヨーク・タイムズ紙の2年ほど前の報道によれば、米国の観測機が現場の上空から収集した飛散物質の組成は、他の実験場所でのそれと違っていたという。
 この報道は当時、日本国内では注目されなかったが、東京特派員も務めた、敏腕で鳴るサンガー記者による克明な調査報道であり、無視するわけにはいかない。

 それだけではない、「北朝鮮、パキスタンで核実験」説を補強する状況証拠が、もうひとつあるのだ。

 それは核実験と時期を同じくして、イスラマバードで、北朝鮮の外交官の妻が、カーン博士の研究所に来ていた北朝鮮の研究者(工作員?)によって、射殺されているのだ。
 彼女のファーストネームは、SANAE。そう、日本語では「早苗」である。
 日本から「北」に帰還した朝鮮人の日本人妻か、あるいはその間に生まれた女性である可能性は高い。

 そのSANAEがなぜ、同胞の手で殺害されねばならなかったのか?
 それも、核実験と重なり合う時期に。

 素直に考えれば、答えはまたもかんたん。むろん、これもあくまで推定に過ぎないが、可能性として言えるのは、SANAEが西側(おそらくは日本)の情報機関に核開発情報を流すスパイ活動をしていたのでないか、ということである。
 それが発覚して彼女は殺された!

 このことは当時、現地の新聞等で詳しく報じられた(日本のマスコミは、わたしが調べた限り、毎日新聞が外信面の短信で、「サナエ」の遺体が北朝鮮に空路、運ばれたことを報じただけだ)。当然、日本政府も現地の大使館を通じ、情報を得ていたはずである。

 率直に言おう。彼女は結局、殺されはしたが、日本側(西側)情報機関に対して、核実験情報をかなり詳しくもたらしてしたのではないか――これが、わたしの「推定」であり、北朝鮮がパキスタンで核実験をした「状況証拠」と考える所以である。(北朝鮮とパキスタンの関係でいえば、ほかにも、たとえばカーン博士が訪朝した際、核の現物を見た、という報道もある)

 さて、話を本題に戻すことにしよう。
 今回の北朝鮮のミサイル連射・着弾実験が、日本に向けた「核ミサイル攻撃」の「予告編」だとすると、それに踏み切った金正日の「動機」が、次の問題として浮かび上がる。「いま、どうして?」という、率直かつ素朴な、そしてまた極めて重大な疑問である。

 この疑問を解く鍵は、わたしには「イラン」にあるように思われる。
 それは、ブッシュ政権が北朝鮮同様、核開発を進めるイランの核施設に対する「先制攻撃」を最近になって当面、断念した事実である。
 「超タカ派」である米国防総省それ自体が、対イラン攻撃に慎重な姿勢を採りはじめたことから、「イラク戦争」をイランに拡大する「ネオコン」戦略は発動されるに至らなかった。

 これ自体は国際社会として歓迎すべきことだが、「イラク攻撃延期」の知らせを聞いて、焦り出した人物が一人いる。
 言うまでもなく、金正日その人。
 「イラン空爆」がなくなった代わりに、北朝鮮の核施設やミサイル基地に対する米国の「先制攻撃」の可能性が、目の前に急浮上して来たからだ。

 米国は、北朝鮮の「直接交渉」要求を冷たく撥ねつけているばかりか、マカオの銀行を通じた北朝鮮の「国外送金ルート」を遮断し、北朝鮮の「内堀」までも埋めてしまった。このまま経済危機が深化すれば、体制崩壊はまさに現実のものとなる。 
 
 一方、イラク戦争の泥沼化に悩むブッシュ政権にとって、11月の中間選挙を前に、人気回復のための「イベント」は、なんとしても必要な情勢。そうなると、「悪の枢軸」の東のミニ横綱、金正日の「核施設」は、実に魅力的な攻撃目標になってくる。

 イランに張り巡らしていたスパイ網は、CIAエージェントの「通信チョンボ(メール・ミス)」で壊滅したため、情報収集できない事態に至っているが、北朝鮮情報は日韓手持ちの独自情報もあって、「先制攻撃」程度であれば潤沢すぎるほど充分だ。それに「限定的な空爆」であれば、北朝鮮も報復には出て来ない……。
 
 そう読んで、米国は近々(中間選挙までには必ず)、先制攻撃をしかけてくる――少なくとも金正日サイドはそう考え、そのためにミサイルを連射して威嚇したのである。

 金正日が危機感を募らせたのは、それだけではない。
 今回、ミサイル発射命令を下した直接の「引き鉄」は、おそらく先の日米首脳会談における、ブッシュ・小泉の北朝鮮をめぐる話し合いである。内容が公表されなかった両首脳の会談結果に対し、彼は彼なりに「疑念」を膨らませたはずだ。

 いや、むしろ、秘密とされた会談内容は、日本側から意図的に裏チャンネルを通じ、「北」側に速報された可能性すらある。いや、その可能性は相当高いと見なければならない。

 そこで、気になる首脳会談でのブッシュ・小泉間のやりとりだが――そしてこれはもちろん、推定以上のなにものでもないが――、ブッシュ大統領は小泉首相に対して、北朝鮮が「核の放棄」に応じない以上、米国としては限定空爆に踏み切らざるを得ない(核を放棄すれなら、攻撃はしない)との考えを示したのではなかろうか?
 それに対して、「北」の懐柔に心を砕く小泉首相は抵抗し、北朝鮮から妥協をとりつけるから、それまで決行を見合わせるようにと申し入れ、ブッシュ大統領の了解を取り付けた……これが最もありうる(考えうる)会談の内容である。

 これを日本側から伝達された北朝鮮側が、パニックに陥ったかどうかは知らない。
 しかし、日米首脳会談の結果を、金正日が深刻に受け止めたことは、たぶん事実であろう。
 真剣に、深刻に受け止めたからこそ、米国の水も漏らさぬ監視体制下にあることを知りつつ、手の内(一部を)を見せることになるのを覚悟で、「ミサイル連射」を行ったのだ。

 ここで、いよいよ最も重要な疑問、死活的な問題に行き着く。
 北朝鮮はどうして、「日本攻撃」を想定した「ミサイル連射」を行ったか?

 それは、いまや北朝鮮にとって、「日本」しか、切り得る「対米交渉カード」はないからだ。
 
 米国が直接交渉に応じない以上――それどころか、実際に攻撃をしかけてくる恐れがある以上、日本を通じて(あるいは日本を盾にとって)事態の打開を図るしかない……。金正日は、そう判断して、今回の「ミサイル連射」に踏み切ったのである。

 金正日は知っているのだ。日本は実は、「北」の体制崩壊を望んではいないことを。

 「北」が崩壊すれば、「北」の「核」を「南」が取り込むかたちで、朝鮮半島に強大な「核武装統一国家」ができあがる。そうなれば、未解決の「北」の取り分を含め、日本に対し、戦時(どころか、植民地時代からの)賠償請求をもういちど、仕切りなおしに形で突きつけて来ることになる……。
 
 それを恐れる日本側の弱みを知っているからこそ、金正日は「方位」を「南東」(日本)ではなく、「東」(ロシア沿海)にとって、「ミサイル乱射」ショーを演じてみせたのだ。

 とにかくブッシュに空爆をやめさせろ。
 そして、経済封鎖を解かせるのだ。
 そうしないと、早晩、「北」の体制は崩壊する。
 「北」が自然崩壊のプロセスをたどるなら、「南」による「併合」で「核武装した統一朝鮮」が生まれる。
 もしも「北」を武力による崩壊に追い込むつもりなら、報復として日本に「核ミサイル」を撃ち込む。

 どちらにせよ、時間はない。
 日本よ、せめてブッシュに攻撃を延期させ、直接交渉に糸口をつけてくれ!

 これが金正日が、今回、連射したミサイルに載せたメッセージである。
 それは日本に対する威嚇であると以上に、米国に対する嘆願である。
 
 日本政府が米国説得に失敗し、ブッシュ政権が北朝鮮空爆に踏み切る事態になれば、当然、日本の主要都市に「核ミサイル」が飛来することを覚悟しなければならない。

 「瀬戸際」に立たされているのは、北朝鮮だけではなく、日本のわれわれが戦後初の、未曾有の危機に立たされているのである。

Posted by 大沼安史 at 07:49 午後 1.いんさいど世界 |

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