〔コラム 机の上の空〕 No regret! 中田選手へのオマージュ
「2限」の「経済学」の授業の冒頭、中田選手の引退について触れた。
NAKATAがプロのサッカー選手を辞める!
たとえ「経済学」の講義であっても、それを取り上げない手はないと思って話をした。
わたしは学生たちに、こう言った。
中田選手の決断に、新しい時代を生きる、新しい生き方のスタイルを感じる。
そしてその生き方のスタイルは、たぶん君たちが採るべき人生態度であるだろう――と。
それからわたしは、たまたま取り寄せて読んでいた、リチャード・セネット氏の「新しい資本主義の文化」という本の、序文の一節を紹介した。
現在、英国のロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で教える、米国人社会学者のセネット氏によれば、これからの時代における人生態度は、次の3つの特徴を持つという。
第一は、「時間を短く」。
これからの時代は、ひとつの物事に長い間、執着し、それでもって人生を終えるのではなく、自分の人生の時間を短く区切って生きていくことが重要、という指摘だ。
第二は、「達成ではなく、可能性」。
過去に自分がどれだけのことを達成したか、ではなく、今後、自分にはどんなポテンシャル(潜在可能性)があるかに目を向ける必要があるとの指摘だ。
第三は、「悔やまない(ノー・リグレット)」。
自分が選択したことを悔やまない、強い意志と潔さを持つ必要性の指摘だ。
セネット氏の言う、この3つの新たな人生態度は、中田選手の今回の決断とピッタリ重なり合うものである。
中田選手は29歳の「若さ」でサッカー人生に区切りをつけ、過去の栄光に生きるのではなく未知への挑戦を、悔いることなく、果敢に選び取った。
6月22日の対ブラジル戦終了後、芝生の上で大の字になり、瞑目し続けた中田選手のあの振る舞いは、自分の大事な決断を、一片の悔いもないものにするための、大事な大事な「通過儀礼」だったのではないか。
そんな説明のあと、わたしは学生たちに言った。
君たちも、自分の人生を短く、多彩に生きてみないか。偏差値がどうだった、とか、もう過去の達成のことは言うな。新しいことに挑戦しろ。そしてその決断に後悔するな――と。
そんなふうに「熱く」学生たちに語りながら、同時にわたしは、ソレって、おれのたち、還暦間近の団塊世代にも必要なことかも知れないな、と思った。
人生を短く、考える!(そう、おれたちには、もうあとがない!)
「達成」ではなくて「可能性」が大事(いよいよ第二の人生だ!)
ノー・リグレット!(そう、お前らには、悔やんでいる時間などない!)
そう思わせてくれた中田選手よ、ありがとう。
外国の大学に進むことになるらしい君の、次なる「ポスト」プレーに、わたしもまた、声援を送ることにしよう。
最後に蛇足ながら、余計な忠告をひとつ:
中田君、ハーバードではなく、LSEにしたまえ。LSEならセネット教授にも会える!!!
Posted by 大沼安史 at 01:53 午後 3.コラム机の上の空 | Permalink