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2006-06-10

〔コラム 机の上の空〕 立ちあがったチリの高校生たち 参加する教育改革を要求

 地球の反対側、南米のチリで、公立高校生たちが立ち上がり、3週間に及んだ抗議行動の末、バシェレ大統領から教育改革の約束を勝ち取った。
 フランスのリセの生徒に続く、高校生らによるプロテストの勝利。
 世界の対極にあるチリを舞台に、教育崩壊のさなか、無気力と無関心の淵に沈む、日本の高校生たちにはない、勇気と連帯による「世直し」が、10代の若者の手で成し遂げられた。

 ニューヨーク・タイムズ紙が首都、サンティアゴ発で伝えた一連の報道によると、高校生たちの抗議行動は5月半ばに始まった。
 サンティアゴの公立高数校で生徒たちが授業をボイコットし、教室から出るプロテストが起きた。運動はさらにエスカレートし、高校生たちが校舎を占拠して、泊り込みを続ける事態にも発展。生徒の親が食事の差し入れをする場面さえ見られるようになった。
 運動はさらにチリ全土に広がって、70万人を超す生徒たちが抗議行動に参加し、サンティアゴなど各都市で街頭デモが始まった。
 
 そんな高校生たちの決起は社会的な共感を生んで、大学生や労組ばかりか、チリ政府の文部省の役人までもが連帯の意志を表明した。
 制服姿の高校生が警官隊の放水、催涙ガス弾を浴びる姿は民衆の怒りに火をつけ、警察の責任者を罷免へと追い込んだ。

 高校生たちが掲げた要求は、人権抑圧と圧制を続けたピノチェット将軍による軍事政権が、まるで最後っ屁のように残していった、公教育の解体=民間企業の参入を進めたネオリベ路線(新自由主義教育路線)に決別し、公教育の再生を目指すものだった。それが民衆の支持を引き寄せた。

 高校生たちの要求は、①教育政策づくりへの生徒・父母・教師の参加②貧困家庭の生徒に対する財政的な支援③公教育の地域格差の解消④学級規模の縮小と大学入試検定料の無料化―などだった。

 これに対して、ピノチェット政権下の弾圧を生きのび、南米初の女性大統領としてこの3月就任したバチェレ大統領は、高校生の声に耳を傾ける柔軟な姿勢を示した。
 5月29日には、貧困な生徒への無料ランチ(給食)の実施や大学入試検定料の無料化、1200校の校舎改修など、来年度に向けて総額2億ドル相当の追加支出を行うことを約束した。

 このバチェレ大統領の大幅な譲歩に対し、高校生たちは黙って引き下がらなかった。「要求はまだ完全に受け入れられていない」として6月4日には60万人(政府発表)が参加する全国ストライキを実施。サンティアゴでは一部の過激な生徒が街頭に出て、警官隊と衝突する事態となった。

 こうしたなか、高校生たちの間で、交渉による事態収拾を図る動きが生まれ来た。
 バチェレ大統領が高校生12人を含む、73人のメンバーによる教育改革評議会の発足を決めたことから、その場を通じて政策づくりに参加できる道が拓けたからだ。

 高校生たちが政府の公教育改革に参加する!
 さすがピノチェットの圧制を耐え抜き、デモクラシーの花を再び開花させたチリのことではある。

 当事者の参画による公教育の再建。
 統制教育をやめようとしない日本の文科省に、ぜひとも見習ってほしいところだ。  

Posted by 大沼安史 at 05:54 午後 3.コラム机の上の空 |

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