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2006-06-04

〔いんさいど世界〕 愛・裏切り・死 パレスチナ難民キャンプの悲劇 イスラエルの脅迫で密告者に

 ヨルダン川西岸、ナブルス近郊のパレスチナ難民キャンプ、バラタの中心部の路上で、公開処刑が行われた。
 目隠しされて引き立てられてきたのは、25歳になるパレスチナ人男性。
 集まった人々に、パレスチナの武装組織、「アル・アクサ殉教者旅団」のメンバーが、男性の自白の内容を告げ、立ち上がって逃げようとした男をその場で射殺した。
 5月30日のことだった。

 それから約1時間後、同じバラタの病院前の広場で、4人の子を持つ27歳の女性が家族の手で射殺された。
 家族の名誉を守るために、パレスチナの大義を裏切ったその女性を、自分たちで処刑した。

 男と女は、イスラエルの密告者だった。

 この話は日本の新聞にも出ていたが、詳しいいきさつを英紙ガーディアン(電子版)で知って、辛さが増した。

 不倫の仲だった2人、それを知ったイスラエルの軍諜報部員による脅迫。
 アル・アクサ殉教者旅団の幹部だった女性の夫の、イスラエルによる暗殺。

 男女の愛さえも手段化される、パレスチナ・イスラエル紛争の冷徹・無残な実態を知って、胸が痛くなった。

 ガーディアン紙によれば、悲劇の種子は2年前に播かれた。

 公開処刑された男性は、ジャハルというバラタの名門の出身。
 ある日、ジャハルはそのシスター(おそらくは妹)から、「会って、昼食を食べてほしい人がいる」と頼まれた。
 その男はパレスチナ人で、ジャハルが会ってみると、男は妹と恋仲であると言う。
 それだけならよいものを、男は写真を取り出してジャハルに見せ、これをばら撒いていいのか、ばら撒かれたくないなら、言うとおりにしろ、イスラエルに情報を提供する密告者になれ、と脅迫した。
 妹との性的行為を撮影した写真だった。

 家族をスキャンダルから守るため、ジャハルが同意すると、その男はジャハルと、「アル・アクサ殉教者旅団」の幹部、イシュタイの妻、ウェダドが不倫の仲であることを、ジャハルの妹から聞いて知っているといい、ウェダドにイシュタイの所在を探らせろ、と迫った。

 ウェダイの夫のイシュタイは、自爆テロさえ辞さない「アル・アクサ殉教者旅団」のバラタの幹部で、2年前、イスラエル軍がバラタ難民キャンプを攻撃した際、イスラエルの司令官らを殺害し、以来、地下に潜伏していた。

 ことし初めのことだった。不倫をばらすと脅されたウェダイは、ジャハルとともに、「アゼール」という名のイスラエル軍大尉の指揮下に入り、イシュタイらの秘密のアジトの所在を確認すると電話で密告した。
 ウェダイとジャハルは、イシュタイさえいなくなれば、一緒になることができる、と思い、密告を決断した。

 ウェダイが食糧を届けていた先の住宅には、秘密の部屋があり、ジャハルの手引きで現場に到着したイスラエル軍は、最初のうち、イシュダイらを見つけることができなかった。イスラエル軍の指揮官は秘密の部屋をついに発見し、なかにいたイシュダイら3人を射殺する前、「おれたちをバカにするつもりか」と、ジャハルをなじったそうだ。

 秘密のアジトを、イスラエル軍はなぜ、ピンポイントで知ることができたか? それも、そこにそのとき、イシュダイらがいるということを含めて。

 「アル・アクサ殉教者旅団」が、ジャハルとウェダイの関係を知るまで、そう時間はかからなかった。
 ジャハルは旅団の取り調べを受け、自供の模様をビデオに撮影された。
 それを見たガーディアン紙の記者は、「彼が裏切りがどのように始まったか自白を始めたとき、彼はすでに死者だった」と書いた。

 バラタの難民キャンプの中心部で行われたジャハルの公開処刑には、ジャハルの裏切りでイスラエル軍に殺された旅団幹部の家族らも立ち会った。
 幹部の母親のひとりは、集まった人々にお菓子を配った。
 ジャハルが撃たれると、人垣のなかから1人の男が飛び出し、遺体に蹴りを加えた。

 病院前の広場でウェダイは観念したようすだった。ジャハルの処刑を知らされていたからだ。
 旅団の武装ゲリラが、ウェダイの兄弟に「どうすべきか分かっているよな」と念を押した。
 いよいよ処刑となったとき、ひとりの男が「ウェダイの子どもたちの見ている前で殺されないでくれ」と嘆願した。

 それが聞き入れられたかどうか、ガーディアン紙の記事は何も書いていない。
 書いていないということは、おそらく聞き入れなかったということだ。

 ウェダイの4人の子どもたちは、裏切り者の母親の子ではなく、「英雄」である父、イシュダイの子ととして育てられる。


http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,,1789633,00.html
 
 
 

Posted by 大沼安史 at 12:27 午後 1.いんさいど世界 |

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