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2006-04-03

〔コラム 机の上の空〕 グアンタナモの獄中詩人

 キューバのグアンタナモ米海軍基地に設けられた強制収容所で3年間、詩を書き続けた人がいた!
 アブドゥル・ラヒム・ムスリム・ドストさん。
 昨年の初め、無罪判決で釈放され、パキスタン北部、ペシャワールに戻ってきた、アフガン人だ。

 獄中詩人、ドストさんのことを、英紙ガーディアンの記事(電子版、4月3日付け)で知り、勇気付けられた。
 「拉致・拘禁」という「暴力」に対し、「言葉」でもって立ち向かい、ついに負けることがなかったドストさん。
 「詩」でもって闘い続け、ついに生還したドストさんに、拍手を贈りたい気がした。

 同紙のペシャワール発特電によれば、ドストさんが米軍によって、ペシャワールの自宅から拉致されたのは、2001年11月のこと。アルカイダのテロリストと疑われてのことだった。
 グアンタナモ収容所に送られ、拘禁生活が始まったのは、その5ヵ月後。

 グアンタナモでは新規の収容者に対して、最初の1年間、ペンも紙も支給しない決まりになっている。
 それでも詩を書きたくて仕方のないドストさんは、ポリスチレンのカップにスプーンで文字を刻んだだ。
 光にかざすと、文字が浮かんで見える。自分の詩を読むことができる。看守が使い捨てカップをゴミとして回収に来るまでは……。

 2年目から、ゴムで出来たペンが支給された。武器になりえない、グニャグニャしたものだった。それに、紙のシートが2枚。
 
 ドストさんは早速、詩を書き始めた。
 没収されても、ひたすら書き続けた。

 ドストさんの詩は、帽子の糸を縒り合わせてつくった「滑車システム」でもって、他の収容者の独房を経巡った。もっと書いてくれと、紙を差し入れてくる囚人仲間もいた。
 

 ドストさんはグアンタナモでどんな詩を書いていたか?
 ガーディアン紙の記事には、こんな一節が紹介されていた。

   手錠は勇敢な若者にふさわしい 
   腕輪が独身のかわいい淑女にお似合いのように

 ドストさんがグアンタナモで書いた詩は25000行に及ぶ。
 しかし、そのほとんどが米軍に没収され、失われてしまった。
 
 米軍からは誤認逮捕に対する謝罪もなければ、補償もいっさいない。

 ドストさんはいま、グアンタナモでの経験を本に書いている。
 題名は「壊れた鎖」。
 同時並行で英訳作業も進んでいるという。
 わたしたちが英訳からの重訳で読めるようになるかも知れない。

 ドストさんを縛りつけていた、グアンタナモの「鎖」を壊したものは何だったか、もはや言うまでもないだろう。

 詩人の魂と言葉の力。

 それが暴虐の鉄鎖を破った。  
 
 

Posted by 大沼安史 at 11:42 午後 3.コラム机の上の空 |

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