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2006-02-03

〔コラム 机の上の空〕 くわえタバコのミラー上等兵 「沈黙の目」が語る戦争の非道

 2004年11月、米軍がイラクのファルージャに侵攻した際、ロサンゼルス・タイムズ紙のカメラマン、ルイス・シンコ氏が、若い米海兵隊員の顔をアップでとらえた。くわえタバコで放心するその表情には、イラク戦争に従事する米軍兵士の苦悩がまぎれもなく映し出されていた。

 イラク戦争最大の悲劇の地、ファルージャで撮られた一枚のポートレートは、同紙だけでなく、世界各地のメディアによって転載された。

 ブレイク・ミラー上等兵の肖像写真。
 「マールボロー・マン(マールボローを加えた男)」のポートレートとして、世界中の新聞や雑誌などに登場したこの報道写真は、イラク戦争の現場で撮影された、写真ジャーナリズムの傑作である。

 そのミラー上等兵の近況を、英紙インディペンデント(電子版、2月2日付け)が伝えていた。
 ミラー上等兵は1年後の昨年(2005年)11月、除隊し、帰国を果たしていた。

 無事の生還――ではなかった。外見は元通りだが、心に傷をもって帰って来た。
 PTSD(心的外傷後ストレス障害)。
 「悪夢と不眠、そして、自分がどこにいて何をしているのか、頭が真っ白になってわからなくなる時間帯」が、いまなお続いている。

 「ぼくがイラクの話をすれば、みんなきっと逆毛が立つだろう」
 「そこ(ファージャ)にいなかったら、ほんとうのことはわからない」
 身の毛もよだつ、よほどの戦場体験だったに違いない。

 米軍最高司令官(ブッシュ大統領)の言うがままに戦闘に従事した、ミラー上等兵というひとりの海兵(マリーン)は、いま、戦争を批判する人に変わった。「戦争神経症」に苦しみながら、戦争を問う人間に変わった。

 アメリカの市民、ブレイク。ミラー氏は、インディペンデント紙の記者にこう語った。
 「ぼくの一番の疑問はね、ある国のひとにぎりの連中がテロを続けているからといって、どうしてその国と、まるごと戦争しなきゃならないってことなんだ。それって、ニューヨークのギャングがイラクに行って爆破事件を起したという、ただそれだけのことで、イラクの国がぼくら全員に対して戦争をしかけていると同じことじゃないか」

 ファルージャで1日、5箱吸っていたマールボロは、いま1箱に減った。
 最近、結婚して、新生活のスタート台に立っている。

 そんなインディペンデント紙の記事を読み終えたあと、もう一度、ミラー上等兵の戦場ポートレートを見てみた。

 右の唇から斜め下に伸びた、火をつけたばかりの1本のマールボロ。鼻筋の一筋の血糊。右目じりの擦過傷。
 そしてなにより、印象的なのは、前方の一点に視線をなげる、細いふたつの目である。

 ロサンゼルス・タイムズのシンコ写真記者がとらえたミラー上等兵のまなざしには、フランスの写真家、故ブレッソンが映像として固定してみせた「心の沈黙」があった。
 おそらくは、シンコ記者がカメラを向けたことにも気づかず、そのシャッター音にも、周囲の騒音にも気づかずに、この世の現実に悲しい目を向ける、無言の視線があった。

 そういう目をした人だからこそ、ミラー氏はファルージャで心に傷を負い、帰国後、戦争反対を語り始めたのだろう。  

 放心し、くわえタバコで戦場にたたずむミラー上等兵の両の目には、戦争の悲劇を一瞥のもとに見切った兵士の深い沈黙がある。

 イラク戦争のすべてを物語る、一枚の写真。

 一日も早い停戦と、ミラー氏の新生活の幸福を祈りたい。

 ミラー上等兵の写真は

 ⇒
 http://www.commomdreams.org/headlines06/0202-07.htm

  

  

Posted by 大沼安史 at 11:26 午後 3.コラム机の上の空 |

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