« 〔イラクから〕 米空母発進の艦載機、イラクの住宅地を空爆 民間人に多数の犠牲者 | トップページ | 〔NEWS〕 ゴールドマン・サックス 中国に本格進出 中国最大の中国国際商業銀行の株式を取得へ »

2005-12-25

〔いんさいど世界〕 西部戦線、平和あり 1914年 クリスマス・イブの奇跡 

 キリスト紀元、2005年。世界は混乱のうちに暮れようとしています。

 イラクでは戦争が続き、バグダッドの聖マリア教会は、祈る人影もなく、聖歌も聞こえないクリスマスを迎えました。

 ヨルダン川西岸、イエス生誕の地、ベツレヘムの教会でもクリスマスの式典が行われました。

 しかし、イスラエルでは、ついこの間もパレスチナ人による自爆テロが決行されるなど、「パレスチナ和平」はなお道遠し、というのが現状です。

 21世紀は、1億人もの人が犠牲になった「戦争の20世紀」を克服する新世紀になるはずだったのに、戦火は止むことを知りません。

 そんななか、1本のフランス映画の上映が世界各地で始まり、感動の輪を静かに、そして着実に広げています。

 フランス語の原題は、Joyeux Noel。英語に直せば、Merry Chrismas。そう、日本語では「メリークリスマス」。

 1914年のクリスマスイブ(から、クリスマス当日にかけて)に、フランダースの西部戦線で実際にあった出来事が、90年以上の歳月を超えて、映画のなかで再現されました。

 第1次大戦で殺し合いを演じた英軍と独軍の兵士が、塹壕から出て、ともにクリスマスを祝った実話が映画化されたのです。

 監督はフランス人のクリスチャン・キャリオン(42歳)。北フランスに生まれ、第1次大戦・西部戦線の遺跡のなかで育ったキャリオンさんが、14年の時間をかけて制作した映画です。

 前世紀の初めの話とはいえ、兵士が命令に背き、武器を捨て、敵兵を交歓したことは、軍令に違反するものです。

 軍隊にとって、あるいは戦争にとって、そういうことはあってはならないこと。

 そのため、キャリオンさんの映画づくりに、現代のフランス軍上層部は、協力を拒否したそうです。フランスの国防省としては筋を通したつもりでしょうが、大人げないことです。

 で、映画のもとになった、実際にあった出来事とは何か、という肝(きも)の話になりますが、当時の英国の新聞記事などによりますと、こういうことだったそうです。

 場所は西部戦線の最北部、英軍と独軍が対峙するフランダースの戦場。

 両軍は互いに塹壕に立てこもって、銃撃戦・砲撃戦を続けていました。無人地帯をはさんで、近いところでは、敵軍兵士の話し声が聞こえる、至近距離で睨み合っていたそうです。

 そんななか、クリスマス停戦の呼びかけが、独軍の兵士から出た。

 独軍兵士のなかに、英国で働いた人がいて、英語が出来たことから、コミュニケーションが可能になったようです。

 最前線の兵士が勝手に停戦協定を結ぶことは、軍令に違反することです。

 そんな独軍兵士の呼びかけに、英軍の兵士が応じた。

 クリスマス前は前線に慰問品が届く時期。

 イブの夜、午後7時過ぎ、恐るおそる塹壕を出た両軍兵士は、ココアやタバコを交換し合い、一緒に歌を歌ったそうです。

 「サイレント・ナイト(聖しこの夜)」とか、「クンバーヤ(アフリカの歌)」を。

 その日の西部戦線は氷雨が止んで、朝から青空だったことが、気象台の記録でわかっています。

 きっと、兵士のイニシアチブによる、束の間の「平和」が訪れたフランダースにも、その夜、星空が広がっていたことでしょう。

 銃弾が飛び交っていた無人地帯で、敵味方を超え、戦争の憎悪を超えて開かれた、ささやかなクリスマス・パーティー。

 朝が開けると両軍兵士は、サッカーの親善試合までした。
 結果は、英軍が3対2で勝ったそうです。

 このフランダースの出来事ですが、西部戦線における最も有名なクリスマス停戦ですが、同じようなことは、実は戦線のほかでも起きていた。

 戦場に送り込まれたフランスのオペラ歌手がテノールを響かせ、ドイツの歌手が塹壕から美声を届ける、「戦場のリサイタル」まで行われていた。

 キャリオン監督の映画は、こうした史実も取り込んだものになっています。

 歴史家らは、1914年のイブに、西部戦線全体で、すくなくとも「数百人」の両軍兵士が、軍令に背き、停戦に参加したと見ていますが、さらに驚くべきことに、東部戦線でも同じようなことが起きていたことがわかっているそうです。独軍兵士とボルシェビキの兵士による、クリスマス停戦があったそうです。

 停戦後、兵士たちは再び武器を取り、戦わざるを得なかったのですが、束の間のこととはいえ、それにしてもこれって、すごいことですね。

 武器を捨て、敵と抱き合い、喜びをわかちあったのですから。

 しかし、こうした最前線の兵士に主導によるクリスマス停戦は、この年を最後に終わりを告げました(1915年にも一部で行われたという説もあります)。

 軍の上層部は、二度とそれを許さなかった。

 許したら最後、戦争なんかできなくなっちゃうわけです。

 キャリオン監督のこの映画、フランスではすでに大ヒット中で、ドイツでは今週上映が開始され、英米でも近くロードショーが始まるそうです。日本にも間もなく来ることでしょう。

 早くもアカデミー賞の声がかかっているそうです。

 実はこの映画のDVDが、イラクの英軍キャンプに届けられ、現地の英軍兵士が鑑賞する予定です。
キャメロン監督の申し出に、英軍上層部が応えたのだそうです。

 そういうニュースがつい最近、カナダの放送局から流れたのですが、米軍が受け入れたという話はどこからも聞こえてきません。

 イラクにいる米軍兵士にも観てもらいたい映画ですが、ブッシュ政権は絶対、許さないでしょうね。

 90年前の「戦場でのメリークリスマス」。
 それはそのころまで、戦場の兵士になお、人間性を持つことが許されていたことの、歴史的な証拠といえるでしょう。

 現代戦は全体戦争、総力戦と化し、ヒューマニティーを徹底的に排除してしまった。
 

 キャリオン監督のこの映画は、そのことがいかに異常なことなのかを私たちに告げるものだと思います。

 そう、2005年の終わりに、私たちの元に届いた、90年前からのクリスマスプレゼント。

 忘れていたものをもう一度、思い出し、二度と忘れないための、1914年12月24日、星夜の西部戦線からの贈り物。
 
 日本上映が待ち遠しいですね。
 

 
 

http://www.cbc.ca/story/arts/national/2005/11/25/Arts/truce_051125.html?print

http://abonnes.lemonde.fr/cgi-bin/ACHATS/ARCHIVES/archives.cgi?ID=9dc1fde8fabd28e4ff40d323040e89058835605629a13d50

Posted by 大沼安史 at 11:46 午後 1.いんさいど世界 |

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 〔いんさいど世界〕 西部戦線、平和あり 1914年 クリスマス・イブの奇跡 :