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2005-12-01

〔国際問題コラム いんさいど世界〕       ブッシュ演説に、世界は泣いた

 ブッシュ米大統領が11月30日、アナポリスの米海軍兵学校で「重要演説」を行った。

 先週、演説が予告された時点で、「イラク段階撤退」の発表が飛び出すのではないか、と一部で楽観的な観測が広がったが、敏腕のベテラン・ジャーナリスト、シーモア・ハーシュ記者が、雑誌『ニューヨーカー』でクールに予想した通り、「重要演説」は戦争貫徹へ向けた決意表明に終始した。

 米軍最高司令官でもあるブッシュ大統領の演説を報じる、アラブの衛星通信メディア、「アルジャジーラ」の英文ニュース・サイトを見て、イラクの人たちは……いや、全世界の人たちが、泣いているのだな、と思った。

 感動して泣いているのではない。
 怒りと悲しみが涙になって、流れ出したのだ。

 流血のメソポタミアの地に生きる、イラクの人々の目に、滲み出た、涙。
 アメリカの戦死者の家に、涙のように降り続く、雨。

 アルジャジーラ編集部が、ブッシュ演説記事につけた写真は、雨傘をさした大統領の姿だった。
 演説の前か、後に撮られたスナップ写真。

 地球の上に、涙の雨が降る。
 大ぶりの傘をさした、戦争大統領、ジョージ・W・ブッシュ。

 演説は、ホワイトハウスがまとめた、仕切りなおしのイラク戦争計画、「イラクにおける勝利のための国家戦略」の輪郭をなぞるものだった。

 「失敗(敗北)は、われわれの選択肢ではない」

 「われわれのイラクにおける使命は、戦争に勝つことである」

 アナポリスでの演説に合わせ、ホワイトハウスのホームページで公表された「戦略」の全文は、兵学校の演壇に立ったブッシュ大統領の仕立てのよい背広のように、リュウとした身なりの、一見、非のうちどころのない、見事な宣伝文書だった。
 
 「政治的なトラック(道筋)」(分離し・関与し・建設する)

 「安全保障のトラック」   (明確に・維持し・建設する)

 「経済的なトラック」    (復興し・改革し・建設する)

 宣伝会社に作成を依頼したような(たぶん、そうに違いない)、耳障りのいいフレーズ、センテンスが続く。

 勝利の展望もない、ベトナム戦争の二の舞を、美麗に仕立て直し、言い繕ってみせた、欺瞞のテクニック。

 カタールにある本社局舎を、一時は攻撃のターゲットとされたアルジャジーラの英文ニュース編集部は、アラブ側からの視点で、ブッシュ演説の化粧をはぎとり、その実相をあらわにしてみせた。

 「アメリカのジョージ・ブッシュ大統領は、彼のイラク戦争戦略に対して高まる懸念を、挑戦的に一蹴した。イラク撤退の日程設定を拒否し、勝利が時間と忍耐を必要とすると警告さえした」

 イラク戦争に勝っていないから、これからずっと戦争を続ける。イラクから撤退しない。だから、もっと我慢しろ。

 それが、クレンジングで洗い流した、演説のキモの部分だった。
 
 勝つまで戦争をやめない、ということは、勝てていない現状からすると、半永久的に戦争を続ける、に等しい。

 雨のアナポリスでのブッシュ演説は、実はイラクにおける「永久戦争」宣言だったわけだ。

 

 英紙ガーディアンによれば、今回、演説とともに公開された、「イラクにおける勝利のための国家戦略」は、あくまで、当り障りのない、機密部分除去バージョンだった。

 ということはつまり、具体的な戦争計画を盛り込んだ、機密バージョンが、ほかに存在する、ということである。

 その点で気になるのは、来年、2006年に「変化」が起きるとされる、イラク駐留米軍の「戦闘態勢」のこんごのあり方である。

 イラク現地からの報道では、米軍は拠点を守る一方、制空権を保持している有利さを活かし、航空機やミサイルなどによる攻撃で、武装勢力を無力化する方向へ、戦術転換しようとしている。

 イラク全土制圧が無理なら、守るところだけ守り切り、それ以外の戦域では、さまざまな最新兵器を駆使し、撃破しつくす。

 つまり、米国はイラク永久戦争を遂行しうる、比較的エコノミカルな方向へと、戦術転換しようとしているわけだ。

 安上がりに「敵」を殲滅する……そのために、米軍はこんご、どのような兵器を使用するか?

 答えはひとつ、あってはならないことがありうる、である。

 いわゆる、WMD(大量破壊兵器)。

 N(核)とB(菌)とC(毒)の使用もありうる、と想定しなければならない。

 すでにアメリカは劣化ウラン弾も、白燐弾も、使いまくっている。
 誘導爆弾も在庫が切れ出しており、その面からも、「新型兵器」に頼らざるを得ない状況にある。

 アメリカは、連邦議会の「お邪魔虫」議員に、「炭素病原菌入りの手紙」を送りつけた前科持ちの国。鳥インフルエンザの流行などにかこつけて、何をしでかすかわからない怖さがある。

 メソポタミアの地に、ヒロシマ、ナガサキに続く、第3の「黒い雨」が降らない保障はどこにもないのだ。

 そうまでして、なぜ、アメリカは、イラクの軍事占領を続けるつもりなのか?
 なぜ、イラク戦争を永久化し、軍事プレゼンスを維持しなければならないのか?

 わたしたちがなすべき、究極の問いは、この最後の一点に絞られてくる。

 ブッシュ大統領は演説のなかで、「イラクから逃げ出さない」のは、自動車爆弾や暗殺に怯えない強い態度を示すためだ、と言った。「アメリカはイラクを見捨てない」とも。

 問題は、自動車爆弾や暗殺で、すでに2000人の米兵が死んでいるのに、なぜ、アメリカはイラクを捨てないのか、だ。

 答えは単純明快、イラクに捨てたくないものがあるから、逃げ出さないし、見捨てない――それだけのことに過ぎない。

 石油会社の元ヒラ取締役でもある、世界最強国の現役「最高司令官」にとっての「生命線」がそこにあるからだ。

 ブッシュ大統領は、逃げださない。

 雨水をはじく黒い粘着質のものが、メソポタミアの地の底にあるかぎりは……

Posted by 大沼安史 at 01:44 午後 1.いんさいど世界 |

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