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2005-11-12

〔コラム 机の上の空〕  モハメド・アリ、ブッシュ大統領に「クルクルパー」 「自由勲章」授賞式で最後の「ハチの一刺し」

 あの元世界ヘビー級チャンピオン、モハメド・アリさん(63歳)が、11月9日、米ホワイトハウスで行われた「自由勲章」授与式に出席、その晴れ舞台で、ブッシュ大統領に対し、無言で「クルクルパー」のジェスチャーを放った。

 ワシントン・ポスト(電子版、10日付け)が報道した。

 「自由勲章(メダル・オブ・フリーダム)は、アメリカの市民(文民)に贈られる最高の賞。ことしのメダルは、グリーンスパン連邦準備会議議長ら14人に授与された。

 アリさんの首にメダルをかける段になって、ブッシュ大統領はほとんどお道化に近い、くだけた態度をみせた。
 メダルをかけおえた大統領は、アリさんを抱き寄せ、左耳に何事かささやいたあと、まるで「さぁ、やろうじゃないか」と言わんばかりに、ファイティング・ポーズをとってみせた。

 そのときだった。

 パーキンソン病で手足が不自由なアリさんが、右手の人さし指を一本、突き出し、自分の頭のところに持っていき、無言で「2秒間」、くるくる振り回してみせたのだ。

 そう、アリさんの必殺、クルクルパー。
 ベルトをかけたリングならぬ、メダルをもらう晴れ舞台で、蝶のように舞うことはできなかったが、往年の「ハチの一刺し」を食らわせたのだ。

 (お前、バカかよ、クレージーじゃないの)のクルクルパー・パンチ。

 ブッシュ大統領がアリさんの耳になんといったか、なお不明だが、「かかって来い」と言ったようだ、とポスト紙は書いている。

 「かかって来い」……ブッシュ大統領がイスラム過激派の「テロとの闘い」演説で、ときどき使う決めゼリフが、こともあろうに、史上最強といわれる元世界チャンピオンの左耳を直撃するかたちで炸裂したわけだ。
 
 ユーモアのつもりが裏目に出た。

 本名、カシアス・クレイ。イスラムに改宗し、モハメド・アリと改名したチャンプの闘争心を刺激する、不意打ちをくらわせてしまったのだから。

 アリさんがパーキンソン病でなければ、軽くジャブを浴びて、いまごろパンダ目になっていたかもしれない。

 ポスト紙によると、ブッシュ大統領はアリさんの授賞理由の紹介のなかで、この黒人ヒーローがベトナム戦争に反対し、兵役を拒否して、3年間、ヘビー級タイトルを剥奪された経歴にいっさい触れず、ボクサーとしてのみ、リング上の戦士としてのみ、不屈の闘志を発揮し続けたことだけを讃えた。

 口のきけないアリさんはもしかしたら、そのことに怒っていたのかも知れない。

 クルクルパー・パンチをくらった大統領は、会場の笑いのなか、それでも余裕を見せて、アリさんをエスコートして席に座らせようとした。

 席に腰をおろしかけた瞬間だった。

 アリさんが、2発目のクルクルパーを見舞わせた。

 神経質そうなうすら笑いを浮かべる、ブッシュ大統領……。

 そんなアリさんについて、ポスト紙はこう書いた。

 〔For the Record〕

 スーツに姿で、笑みをほとんど浮かべることのないアリは、この日、最大の、最も長い拍手を浴びた。「ベトコンとやりあうつもりはないぜ」「おれはボクシング界最高、唯一の桂冠詩人さ」といった発言で有名な、絶えず引用され続けてきたこの男は、たった一言も言わずに、もっともストライキングな瞬間を生み出した。

 Ali, dressed in a suit, barely caraking a smile, received the loudest and most sustained applause of the day. And the always quotable man who said “I ain't got no quarrel with them Viet Cong”and “I am the onliest of boxing's poet laureates”delivered the most striking moment without speaking a word.

 ポスト紙の記事で、アリさんが席に腰を落としかけながら、ブッシュ大統領に向かって、最後のクルクルパーを放ったというくだりを読んで、感動した。

 そして、こう思った。

 モハメド・アリはリングに倒れこみながら、人生最後の最高の舞台の上で、それでもパンチを繰り出そうとしていたのだな。

 アメリカ大統領という、世界最強の男に向かって、畏まらず、決然と。

 ベトナムのときと同じく、泥沼化し続ける、イラク戦争の最高司令官、ジョージ・ブッシュに向かって、「お前、バカかよ」と言おうとしたのだな――と。

 
 
 モハメド・アリさん、あなたはほんとうに、「自由勲章」受賞にふさわしい!!

 いや、アメリカの「自由勲章」を超えた、「世界自由級チャンピオンベルト」をつくって贈りたいくらいだ。

 わたしたち日本人も、アリさんを見習い、悪質で無能な権力者どもに向かって、無言のクルクルパーをすることにしよう。
 

ポスト紙の記事は ⇒

http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/11/09/AR2005110901738_pf.html

ブッシュ大統領が何事かをささやいているシーンは ⇒

http://www.whitehouse.gov/news/releases/2005/11/images/20051109-2_p110905pm-0250jpg-515h.html

「自由勲章」に関する日本のメディアの記事は ⇒

http://news.goo.ne.jp/news/yomiuri/kokusai/20051110/20051110i302-yol.html

モハメド・アリさんについては ⇒

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%8F%E3%83%A1%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%AA

Posted by 大沼安史 at 11:15 午前 3.コラム机の上の空 |

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「Float like a butterfly,Sting like a bee(蝶のように舞い、蜂のように刺す)」と形容された華麗なファイティングスタイルで世界のヒーローになったモハメド・アリが、アメリカ政府が市民に与える勲章の中で最も栄誉ある「自由勲章」を受章しました。イラクの戦渦、ニューオリンズの惨状、フランスの暴動…。このような社会状況の中で、ネーション・オブ・イスラム(Nation of Islam)の一員である彼に、ブッシュ大統領が政府の勲章を与えるとはいかなることか。ウィル・スミスの『... 続きを読む

受信: 2005/11/17 2:47:38