〔教育改革情報 特報〕 イギリスで教育革命 すべての学校を「自治学校」に 民間の力を導入 英ブレア政権が大胆な学校改革案
英国のブレア政権は10月25日、大胆な学校改革案を盛り込んだ教育白書を発表した。
英国内、全ての公立の小(初等)、中(中等)学校を、民間セクターに支援された「自治学校」(independent state school)に転換していくという、「教育革命」とも言うべき、思い切った大改革だ。
法的な準備作業を年内に終え、来年1月1日に法案として発表する。
英紙、ガーディアン(電子版、10月26日付け)の報道によると、ブレア政権が奨励する、新しいタイプの公立校は、「自治トラスト学校」(self-governing trust school)とも呼ばれる、独立した「自治学校」。
民間セクターとの連携のなかで運営される独立公立校で、大学や父母グループ、地域団体(community oraganization)のほか、企業、宗教団体、慈善団体(charity)の支援を受ける。
学校運営する組織の任命権はもちろん、学校の財産の運用・処分権、さらには入学者の選抜などについても独自の権限を持つ。
カリキュラムの決定についても、大幅な権限を持つほか、スタッフの雇用権も手にする。
教職員の給与、待遇も、中央政府の文部相に対して願い出ることができる。
この「自治トラスト学校」になるには、運営主体が父母たちと相談したうえで、地方教育局(LEA)に対し、提案しなければならない。
大学や慈善団体、富裕な個人といった個別トラストは、複数の「自治トラスト校」を運営できる。
これがブレア政権が描く新しい公立校のイメージだが、英国内に先例がないわけではない。
今回の改革案がモデルにしているのは、ブレア政権が2000年から、ロンドンなど都市部で開設を進めている「アカデミー」校だ。
この「アカデミー」は、当初、「シティー・アカデミー」として、崩壊の危機に立つ都市部の公教育建て直しのため導入されたもので、米国のチャータースクールをヒントにしている。
(大沼注 米国のチャータースクールの第一号は、ミネソタ州の「シティー・アカデミー」校。そこから、この名前が生まれたようだ。シティーの名が外されたのは、都市部以外でも開校していくため)
現在、英国内に17校(うち10校はロンドン市内)開校されている「アカデミー」は、慈善団体などの民間セクターが200万ポンド(日本円で約4000万円)の資金を用意し、これに英国政府が2000万ポンドの公的資金を上乗せしてつくる中(等)学校で、地元の地方教育局(LEA)の規制を逃れ、独自の学校運営ができるのが特徴だ。
ブレア首相の労働党政権は1997年に発足以来、保守党政権の「スペシャリスト・スクール」(specialist school)政策を引き継ぎ、公立の中(等)学校(セカンダリー・スクール)に民間の力を導入し、特色ある学校づくりを進めて来た。
この「スペシャリスト・スクール」は、提携・連携先から5万ポンドの資金を調達し、芸術なら芸術、ビジネスならビジネスの独自カリキュラムを組むことができる制度で、現在、英国内の全中(等)学校の4分の3以上、2382校が、スペシャリスト・スクールとしての「ステータス」を獲得している。
この「スペシャリスト・スクール」も、「アカデミー」とともに、今回、ブレア政権が打ち出した「自治学校」構想の母体になっている。
言い換えれば、これら「アカデミー」「スペシャリスト」の延長線上に、今回のきわめてラディカルな改革案が提起されたわけだ。
ブレア政権の発表に対し、低コストの私立学校群60校を運営する教育企業のGEMSや、「アカデミー」のスポンサーにもなっているキリスト教系慈善団体「ユナイティド・ラーニング・トラスト」が強い関心を示している。
ブレア政権の今回の改革案では、父母の権限も飛躍的に強化された。
父母たちは、学校を新設することが可能になるほか、だめな学校の閉校を要求する権限を手にする。こうした父母たちの要求にLFAは拘束され、父母の要求がなかなか満たされないときは、中央政府が介入するという。
各「自治学校」には、「父母協議会」も設置されるが、「自治学校」にまだ転換していない公立校についても、同じような父母の組織をつくるよう奨励する、としている。
ブレア改革案には、子どもたちの教育に失敗した「ダメ学校」に対する措置も織り込まれている。
12ヵ月の猶予期間内に改善のみられない「ダメ学校」は、「新しい運営者からの競争」にさらされるという。「自治学校」あるいは「アカデミー」として再出発する道が切り開かれる、のだそうだ。
こうしたなかで、LEA(地方教育局)の教育委員会の権限も大幅に削減され、IEAは公教育の「プロバイダー」(提供者)から、生徒・父母を代表する「コミッショナー」へと役割を変える。
今回の改革は、1940年代に行われた「コンプリヘンシブ・スクール」改革に次ぐ、60年ぶりの大改革だが、政府の関与を薄めるという意味で、正反対のベクトルを持つ、といえる。
ブレア首相の提案に、労働党の左派、教員組合から一斉に反発があがっているのは、このためだ。
以上が、今回、発表された「ブレア教育改革」をめぐる、おおまかなスケッチだが、筆者(大沼)の私見によれば、地域ぐるみ、マクロに改革しようとした「教育アクション・ゾーン」の失敗を踏まえ、教育改革を個別の学校を単位にミクロに実施しようとするものと思われる。
お手本はおそらく、同じ労働党の、ニュージーランドのロンギ政権が1990年代に実施した「自治学校」導入を柱とする「明日の学校」改革。
ブレア首相の構想が、法案化のなかでどのように肉付けが施され、具体化されていくか、見守りたいと思う。

















