〔いんさいど世界〕 追い詰められたシリア・アサド政権 内相「自殺」 謀殺説も
シリアの首都ダマスカスの内務省内の自室で10月12日夜、「自殺」したガジ・カナーン内相の葬儀が13日に行われた。
シリア国旗に包まれた棺は、ダマスカスから、内相の出身地、バムラの村まで葬列の車で運ばれ、埋葬された。棺が安置されたのは、4年前、内相自ら掘った場所で、両親のそばで眠りについたという。
英国BBC放送によれば、葬儀に合わせ、シリア当局による遺体の検死結果が発表された。
38口径の私物の拳銃を咥えて発射し、即死していた。内相はいったん自宅に帰って、45分間を過ごし、庁舎に戻って自殺した。
カナーン内相は2004年に就任するまで、駐留シリア軍の司令官として、約20年間、レバノンに君臨していた人物。
ことし2月、レバノンの首都ベイルートで起きたハリリ・レバノン元首相暗殺事件との絡みで、この9月に、事件を捜査している国連調査委員会から事情を聴かれていた。
(この事件では、レバノン軍のシリア寄り将軍4人が逮捕されている)
このため、カナーン内相の突然の死は、ハリリ元首相爆殺事件と深く関わった「自殺」ではないか、との見方が、これまでも支配的だった。シリア当局の発表は、その「自殺」説を公式に確認するものである。
カナーン内相は「自殺」の直前、レバノンの右派キリスト教系のラジオ局、「レバノンの声」の女性ジャーナリストに対し、「最後の宣言」をして、ハリリ暗殺事件への関与を否定していた。それがまた、逆に自殺説を裏付けるものとされていた。
しかし、こうした見方に対し、疑問の声が出ていることも事実である。
カナーン内相は、ほんとうに「自殺」したのだろうか? 「他殺」ではないか? 自殺であれ、他殺であれ、その動機は何か?
レバノン時代のカナーンを知る、英国インディペンデント紙ののベテラン・ジャーナリスト、ロバート・フィスク記者は、10月13日付けの記事でこう語る。
「カナーンはほんとうに自殺したのか、それともバース党の情報機関がこれ以上、生かしておくのは危険すぎると決断したのか? わたしの知るカナーンは自殺するような男では決してなかった」と。
フィスク記者は、このような慎重な言い回しで、もうひとつの可能性、シリアの支配政党、バース党の情報機関による謀殺説をにおわせているわけだ。
なぜ、カナーンはシリア当局にとって(アサド大統領を頂点としたバース党の独裁体制にとって)「危険すぎる」人物だったか?
これについて、フィスク記者はなんら直接的な言及をしていないが、、カナーンがレバノン駐留中、「ムカバラート」というシリア軍情報部の部下らとともに、大規模集合住宅プロジェクトをめぐる汚職事件に関与して、私腹を肥やした疑いがあることに触れている。
レバノンの実業界の実力者だったハリリ元首相の関係を臭わせる指摘である。
この点に関する、フランスのルモンド紙の報道(10月13日付け)は、もっと率直だ。
カナーンがハリリ元首相から「数百万ドルの贈り物」を受けていた、との噂を紹介しているのだ。
つまり、カナーンとハリリとは、裏で親交を結んでいた可能性が強い。
だからこそ、カナーンはハリリ氏に近い、キリスト教右派のラジオ局に身の潔白を訴えのだという推論も、ここから出てくる。
ここまでの記述で、すでになるほどと思う方もおられようが、レバノン・シリア問題に詳しい関係者ならいざ知らず、やはりこれだけでは、なぜシリアのアサド大統領にとって、カナーンが「危険すぎる」なのか、十分な説明にはなっていない。
この点について、アメリカの中東ジャーナリスト、マイケル・ヤング氏は、「リーゾン」電子版(10月12日付け)で、以下のような見方がある得ることを示唆している。
つまり、ハリリと近いカナーンが米軍シリア侵攻と呼応して、アサド体制を打倒し、シリアに親米政権を樹立する筋書きがあったのではないか、との観測だ。
そこでアサドは口封じに動いた。
死人に口なし。
かりにこの21日にも発表される国連調査委員会の報告書で、ハリリ暗殺をシリアの仕業とされても、カナーンに全責任をかぶせることができる……。
こういう読みである。
これに対して、筆者(大沼)としては、この推論の流れや背景については異論がないが、カナーンがクーデターを企てようとしていたという説に与することはできない。
その理由は、ブッシュ政権が数ヵ月前、カナーンの在米資産を凍結したこと。
その時点ですでにアメリカは、カナーンをアサド打倒のパートナーとして不適格との結論を出していたはず。
したがって、アサド大統領にとってカナーンは、その時点以降、その意味における危険きわまりない男でなくなっていた思われる。
とすると、(強いられた)自殺であれ、他殺であれ、残るのは、国連報告書発表を前にした、アサド体制護持のための生贄説のみ。
シリアはつまり、内相という政権の大黒柱を切らねばならぬほど、追い詰められているのだ。
アサド大統領は「ハリリ暗殺にシリアは一切、関与していない」と繰り返し断言してきた。
その主張が国連報告書で崩れれば、米軍によるシリア侵攻の格好の口実ともなりかねない。
シリアを「北方脅威」とみるイスラエルのシャローム外相は13日、アサド大統領がカナーンをスケープゴートに逃げ切りを図ろうとしていると非難した。
イスラエルの盟友である米国のブッシュ政権内では米軍のシリア侵攻論が強まるなか、ライス長官ら国務省サイドの慎重論を唱えて抵抗していると伝えられている。
筆者(大沼)は先に、シリアよりイラン空爆の可能性が高いという見方を示したが、どうやら、そうとばかりは言えなくなって来た。
イラン空爆とともに、少なくとも部分的な、米軍によるシリア侵攻も、同等の確立であり得る情勢である。
それもこれもイラク新憲法の国民投票の結果と、ハリリ暗殺に関する国連報告書の内容、そしてブッシュ政権の命取りにもなりかねない「プラムゲート」事件の行方如何にかかっている。
さまざまな変数がどんな結末をもたらすか、今月中がヤマ場であることに変わりない。

















