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2005-10-31

〔コラム いんさいど世界〕 「靖国」、または日本の「不思議」について

 来日した韓国の外交通商相が朝日新聞と会見し、歴史認識問題などについて、韓国側の考えを示した。

 その会見記事(10月30日付け)を読んで、日本のこれからを心配する隣人の、親身な発言のようにも聞こえた。

 ややぎこちのない、いくぶん時代がかった、同紙掲載の(日本語の)「発言要旨」から、外相が植民地時代に覚えた日本語で発言したのではないかと想像した。

 外相の発言内容で、はっとさせられたことがあった。
 「日本に国立の追悼施設がないことを私は不思議に思う」というくだりである。

 「外国の国家元首らが多くの戦没者を出した国を訪問した際、国立墓地のような場所に参拝するのが儀典上の慣例だが、日本ではそれがない」と。

 日本には国立の戦没者追悼施設がない!

 そう言われて気がついた。たしかにそうだ、先の大戦で200万人以上の戦死者を出していながら、この国には戦死者を悼む、公的なモニュメントひとつ、ない。

 なぜ、ないのか?
 それはつくろうとしなかったからだ。

 なぜ、つくらなかったか?

 それは韓国の政治家でなくとも、不思議に思うことだろう。
 しかし、日本人であるわれわれは、それをすこしも不思議に思ってこなかった。

 そこがさらに不思議なところである。

 世にも不思議な物語は、なぜ起きえたか?

 それは恐らく、この国の戦後の支配者たちの周到に仕組んだ仕掛けのせいである。意図的に建設することを避け続けてきた、政府の不作為によるものだ。

 なぜ、そういうことが言えるのか?

 もしも国立の追悼施設をつくろうとしたら、まず第一に、追悼するべき対象者を限定することが必要になるだろう。

 「先の大戦」の定義が問われることになる。

 昭和16年12月8日以降の「大東亜戦争(太平洋戦争)」勃発時以降に限定するのか、その前から続けていた「日中戦争」を含むのか、まずもって問題になる。

 日本軍による真珠湾攻撃の日に、中国戦線で死亡した日本兵は「先の大戦」の戦死者ではないのか?

 その1日前、あるいは1週間前、さらには、1年、10年前、中国で戦死した人は追悼されなくていいのか、という問題が直ちに出て来る。

 つまり日本の政府として、追悼施設の建設を思い立ったとたん、昭和20年の8月15日に至る、日本の戦争の歴史の総括に迫られるわけだ。

 つまり、過去を直視する必要が出て来る。

 その場合、「真珠湾」以前、それも中国戦線は除きます、とも言えないから、戦没者の対象は少なくとも、日中戦争勃発時に遡ることになるだろう。

 それは「大東亜戦争」と「日中戦争」を切り離して考えたがる、日本の支配層の歴史観ともろに衝突するものだ。

 だから、追悼施設の建設に手をつけなかった(あるいは、手をつけられなかった)。

 これがたぶん、理由の第一である。

 この問題は、今後、国立追悼施設の建設問題が具体的になればなるほど、政府にとっては頭痛の種になるはずだ。
 

 国立追悼施設の建設を戦後一貫してサボり続けた第二の理由は、上記、第一の理由と密接に絡む問題である。
 すなわち、「戦争責任」と「戦後補償」。

 戦後の日本政府は戦争責任と補償の問題を「太平洋戦争」に限定し、サンフランシスコ条約で片がついたという立場を採ろうとして来た。

 中国や朝鮮半島などにおける「歴史の負債」を踏み倒し続けて来た。

 追悼施設をつくる以上、物の道理として、追悼する戦死者の定義のもととなる「戦争」の範囲を、時間的に「真珠湾以前」に遡り、空間的に中国、朝鮮半島などに拡大せざるを得ないから、ここでまたも、歴史の真実に直面せざるを得ない。

 それを直視し、戦争責任を引き受け、侵略による戦争被害の補償する事態をなんとしても回避したかった。

 それが、第二の理由である。

 このような動機を抱えた政府にとって、実に好都合な存在があった。それが第三の理由である。

 言うまでもなく「靖国」。
 

 靖国神社には、戊辰戦争以来の全戦死者(賊軍を除く)がまつられており、そこを追悼施設の代理物にして、「先の大戦」の戦死者の追悼を「丸投げ」しておけば、「戦争」の定義をしなおすこともなく、「戦死者」に枠を設けることもなく(「英霊」と一括すればいい)、戦死者を悼もうとしないと謗られることもなく、政府として安穏としていられる。

 それになんといっても、政府にとって安上がり。

 東京・九段の「靖国」の境内という一点で、アジア全域で散った英霊たちを祀ってしまえば、追悼施設の建設費も出さずに済む上、遺骨収集とかDNA鑑定とか、戦没者名の刻印といった、わずらわしい仕事をしなくていい。

 戦後の歴代政府は、「靖国」をエコノミカルに使っていたのだ。

 なにしろ、年に一度の公式参拝や私的参拝をすれば、それで事足りる。こんな好都合なことは、ほかにあまり例はない。

 「靖国」の英霊たちにも、南洋の島々などでいまなお帰国の日を待つ、白骨と化した戦死者たちに対しても、失礼すぎることではないか。

 韓国の外相が言った「不思議」とは、明治の御世に出来た「靖国」があることをいいことに、政府として戦後になすべき慰霊を丸投げし、これまで戦死者の追悼を怠っていた、この国の指導者たちの「ご都合主義」に対するものだ。

 「靖国」を利用して、戦没者への「追悼責任」を逃れ続けてきた、戦犯あがり、あるいは戦犯もどきの指導者らによる、言い逃れのための「参拝」。

 韓国外相の言う「不思議」とは、作為的な「不作為」のことである。
 
 
 

Posted by 大沼安史 at 05:23 午後 1.いんさいど世界 | | トラックバック (0)

〔NEWS 解説〕 「プレイム・ゲート」裁判 そのスペクタクルな行方

 ブッシュ政権による「イラクWMD保有」宣伝工作にからむ「プレイム・ゲート」事件は、チェイニー副大統領の懐刀であるルイス・“スクーター”・リビー首席補佐官が起訴されたことで、舞台は連邦地区裁判所の法廷の場に移ることになった。

 リビー被告のほか、ブッシュ大統領の次席補佐官、カール・ローブ氏も刑事訴追される可能性があり、正副両大統領の側近中の側近がそろって法廷に立たされることも十分ありうる情勢だ。

 チェイニー副大統領が証人として呼ばれ、尋問の十字砲火を浴びることもある。

 ブッシュ大統領には大統領として免責特権があるが、副大統領にはなく、今後、チェイニー副大統領に批判が集中することも十分ありうる。

 クリントン前大統領のセックス・スキャンダル、「モニカ・ゲート」事件の際、ホワイトハウスに乗り込んで、事態収拾に手腕をふるったラニー・デイビス弁護士は、ホワイトハウスがリビー被告をトカゲの尻尾として斬り捨て、疑惑のもみ消しと批判の沈静化を図ろうとしても、「チェイニーという巨象がうろつきまわっているかぎり、それは不可能」と見ている。

 リビー被告が羊のごとく、主人をかばおうとしても、そうすればするほど、疑惑はますます深まり、事態は悪化するだろうという読みだ。

 ちなみにデイビス弁護士は、「モニカ・ゲート」事件を落着させたあと、『告げるべき真実』という本を書いているが、その副題は「一日も早く・すべてを包み隠さず・本人が話す」だそうだ。

 今後の裁判の過程で、もっとも注目されるのは、リビー氏が司法取引に応じるなどして、真相を語り始めるかどうか、だ。

 いまのところ、起訴された罪状は、司法妨害や偽証などで、これでも最長懲役30年、または125万ドルの罰金を科せられるが、今後、フィッツジェラルド特別検察官がリビー被告を、CIAエージェントの身分漏洩の犯人として特定し、諜報法違反の罪で追起訴するようになことになれば、死刑もありうることになり、リビー被告としも考え直さざるを得なくなるだろう。

 リビー被告自身、法律事務所に勤務したことのある弁護士であり、当然、自身をどう弁護すべきかぐらいは考えているはずだ。

 国務省のアジア部局にいた当時の知識と経験をもとに、明治30年代の日本の雪国を舞台に、セツオという徒弟奉公の若者を主人公にした小説、『The Apprentice(徒弟、または丁稚)』を書き上げ、出版したこともある、作家的資質にも恵まれたリビー被告のことだから、裁判をめぐるさまざまなシナリオを思い描いていることだろう。

 徒弟奉公の果ての責任転嫁に嫌気をさしたリビー被告が衝撃の告白をして、チェイニー副大統領が起訴される、といったドラマチックな展開も、ないわけではなかろう。

 もし、これ以上のスペクタクルがあるとすれば、それはおそらく、CIAエージェントの身分漏洩事件の引き鉄を引いた、ワシントンの政治コラムニスト、ローバート・ノバク氏が証言に踏み切ったときのことである。

 それも、ノバク氏が「漏洩源は(リビー氏ではなく)ローブ氏である」と言ってしまったときのことだ。

 ローブ氏はブッシュ大統領の側近中の側近。
 そのローブ氏が起訴され、ブッシュ大統領も知ってましたと言い出しでもしようものなら、これもう、ブッシュ政権の完全崩壊につながっていく。

 フィッツジェラルド特別検察官は、リビー氏を起訴したあと、オフィスを縮小するどころか、近隣のビルをリースして、捜査の態勢を強化している。
 

 「新アンタッチャブル」こと、フィッツジェラルド特別検察官による捜査の継続、リビー被告の裁判の開始、それと平行して進むイラク戦争の泥沼化。

 リビ―氏起訴は、嵐の前の、序幕の幕開けに過ぎない。
 
  

Posted by 大沼安史 at 02:07 午後 | | トラックバック (0)

2005-10-30

〔For the Record〕 「日米は真にグローバルな同盟に変わった」 ライス米国務長官 日米安保協議後の記者会見の発言

 日米安保協議委員会(2+2)が10月29日、米ワシントンで開かれ、在日米軍再編に関する「中間報告」が発表された。

 ラムズフェルド国防長官、町村外相、大野防衛庁長官とともに、協議後の記者会見に立った、ライス国務長官は、「(日米)関係は、かつての日本の防衛のみ、あるいはおそらく(日本を取り囲む)地域の安定に関するものから、真のグローバルな同盟に変わった」と語った。

 日米安保が、いつのまにか「グローバルな同盟」に変化していた!

 軍事協議後の記者会見での、聞き逃せない重要発言である。

 「グローバルな軍事同盟」に変わってしまっていた日米関係!

 米国防総省発表によるライス長官発言(原文)の関係箇所は以下の通り。

We did in fact have a discussion of our global efforts together which are extensive, a relationship as General Ohno said, a relationship that was once only about the defense of Japan or perhaps about the stability in the region, has truly become a global alliance.

 会見の全容は ⇒

http://www.state.gov/secretary/rm/2005/55775.htm

Posted by 大沼安史 at 10:43 午後 | | トラックバック (0)

〔教育改革情報コラム 夢の一枝 ③〕 アンネ・フランクの机の上で

 オランダのアムステルダムにある、アンネ・フランクの住んでいたアパートが改装され、10月29日にオープンした。

 戦時中、あの、ユダヤ人少女が家族とともに潜み、ナチスの手に引き渡されるまで「日記」を書いていたアパートである。

 改築工事の完成を祝う式典には、アムステルダムの市長と、アンネの親族の最後の生き残りである、バディー・エリアスさんが出席した。

 時計の針を昔に戻す改築工事だった。
 戦後に付け加わった要素はすっかり取り払われ、アンネが生きた当時の空間が戻った。

 市の住宅局に代わって、「アムステルダム難民都市財団」が管理を引き受け、毎年1人、政治的な迫害にも負けず、執筆活動を続ける、世界の作家に提供する。

 最初の「アンネの家の作家」には、アルジェリアの小説家であり詩人でもある、エル・マーディ・アチェルショールさんが選ばれた。
 アチェルショールさんは、歴史の嵐に耐えてきた、この象徴的な部屋の中で、新しい小説を書く。

 こんな話を、英紙インディペンデント紙(電子版)で読んで、朝から感動した。

 レトロに改装された「アンネの部屋」には、アンネの使った木の机が、昔のまま、置かれるのだという。

 それを使って、現代の迫害を生きる作家は書く。

 「アンネの日記」が綴られた、その机の上から、新しい作品が生まれる。

 それはきっと、希望の文学になるに違いないと思った。

 政治的、社会的、文化的、あるいは宗教的な迫害の下、文章を書き続ける作家にとって、机の上は最後の拠り所であるだろう。

 その四角い小さな空間こそ、作家にとっての「世界」であり、生きる場所である。

 だれにも邪魔されない机の上……

 それはもしかしたら、「低学力だ」、「意欲がない」、「生きる力に欠ける」と罵られ、点数と序列の迫害にさらされ続ける、日本の子どもたちにとっても、大事な大事な、絶対に守られるべき、プライベートで不可侵な、秘密の場所だといえるかもしれない。

 机の上の自由と平和は、いつの時代も、どこにあっても、希望の灯火のように守られなければならない。 
 
 それは、「日記」をもっともっと書きたかったに違いない、13歳のアンネの思いでもあるだろう。

 少女の祈りが宿る「アンネの机」が甦った。
 
 

Posted by 大沼安史 at 11:34 午前 2.教育改革情報 | | トラックバック (0)

〔NEWS 特報〕 リビー補佐官起訴 依然漂う、ホワイトハウスの黒い霧 ローブ氏、土壇場で訴追、免れるも、特別検察官 来週にローブ氏起訴の観測も 捜査核心入りはこれから 「ニジェール偽造文書」謀略の影 ブッシュ大統領は対イラン強硬演説

 米連邦大陪審は10月28日、チェイニー副大統領の首席補佐官を務めていたルイス・リビーを司法妨害や偽証などの罪で起訴した。

 ブッシュ政権の中枢が、イラク戦争開戦へ向け、世論操作を行っていた疑惑の一端がようやく刑事訴追のかたちで表面化し、司法の場で裁かれることになった。

 捜査の指揮にあたっていたフィッツジェラルド特別検察官は、捜査はなお継続中であるとしており、ブッシュ政権高官によるCIAエージェントの身分漏洩に端を発した「プレイム・ゲート」事件は、さらに拡大の可能性を秘めている。

 リビー補佐官とともに捜査の焦点になっていた、ブッシュ大統領の振り付け役として知られるローブ次席大統領補佐官については、今回、訴追は見送られたが、来週中にも起訴されるのではないか、との観測も出ている。
 
 〔核心に届かず〕
 フィッツジェラルド特別検察官の捜査は、今回の起訴時点では核心に届かなかった。このため、連邦大陪審の決定も、リビー補佐官がFBI捜査官や大陪審に対して、事実と違う嘘の証言を行い、司法を妨害した、という周辺的な罪に関する起訴にとどまった。
 
 この点に関して、ニューヨーク・タイムズ紙のダグラス・ジェル記者は10月29日付け電子版の記事、「起訴は基礎的な問題に光を当てていない」のなかで、①誰が政治コラムニストのノヴァク氏に最初に、「ニジェール疑惑」を現地調査したジョセフ(ジョー)・ウイルソン氏の妻、バレリー・プレイムさんが、CIAのエージェントであると漏らしたか②その身分漏洩こそ、(裁判にかけられるべき)犯罪ではないのか――の2つの重要問題が解明されていない、と指摘した。
 
 ジェル記者の言うとおりである。フィッツジェラルド特別検察官の捜査は現段階において、なお不十分であるといわざるを得ない。
 
 特別補佐官は28日の記者会見で、リビー被告がさんざん嘘をついたことを挙げ、「野球のアンパイヤが砂つぶての目くらましを浴びたようなもの」と弁明したが、捜査の踏み込みが足りなかったのは、否定できない事実だ。
 
 大陪審が起訴した28日は、大陪審が結論を出さなければならない、ぎりぎりのタイムリミットの日だった。そうした時間的な制約もあって、周辺的な罪による起訴となったとみられるが、「ホイワイトハウスを包む黒い霧」が依然として色濃く立ち込めたままであることを、誰よりも知っているのは、ほかならぬフィッツジェラルド特別検察官であるだろう。
 
 「ハーバードの学位を持ったエリオット・ネス」(ニューヨーク・タイムズ紙の表現。エリオット・ネスとは、マフィアに買収されず、奮戦したEBI捜査官らの物語、「アンタッチャブル」の主人公の名)が、リビー被告に対する追起訴を含め、今後、どこまで事件の核心に迫るかが、新たな焦点になっている。
 
 〔ローブ氏も来週、起訴へ?〕
 フィッツジェラルド特別検察官は今回、ブッシュ大統領の次席補佐官、カール・ローブ氏の訴追を見送った。
 
 これについてロサンゼルス・タイムズ紙(電子版、29日付け)は、「ローブは助かった――いまのところ」との記事で、訴追見送りは特別検察官のぎりぎりの判断だったことを明らかにした。
 
 本来ならリビー被告を一緒に起訴する予定だったが、ローブ補佐官が2003年にホワイトハウスの同僚と交わしたEメールの存在が急浮上し、特別検察官を踏みとどまらせた。
 
 そのメールは、意図的にFBI捜査員をミスリードする意志はなかったとするローブ補佐官の主張を裏付けるようにも読み取れるものだった。
 
 ローブ補佐官に対する今後の見通しについて、深層報道で注目されるインターネット新聞、「ロウ・ストーリー」は28日、事件に直接関与する複数の弁護士の証言として、特別検察官は、早ければ来週にもローブ補佐官を起訴できるだけの材料を持っていると確信している、と報じた。
 
 ローブ氏はブッシュ知事がテキサス州知事時代から、政治指南をしてきた、政権の大黒柱。
 捜査の手がそこまで及べば、文字通り、ブッシュ政権は内部崩壊の危機に瀕する。
 
 〔チェイニー副大統領は逃げ切れるか?〕
 世界銀行総裁に転出したポール・ウォロフォウィッツ国防副長官なきあと、ブッシュ政権内ネオコン・グループの中心にあったリビー補佐官は、チェイニー副大統領の下にあって、「チェイニー以上にチェイニー」であるといわれるほど、忠誠を尽くした人物だった。
 
 リビー被告に対する起訴状は、CIA身分漏洩の「張本人」を特定するまでには至らなかったが、チェイニー副大統領のオフィスが、疑惑隠しの「連係努力のハブ(要)」(ニューヨーク・タイムズ紙)であった姿を強く印象づける内容になっている。
 
 この点に関し、起訴状で最も注目されるのは、英紙ガーディアン(電子版、29日付け)によれば、以下の部分だ。

 すなわち、リビー補佐官は、大陪審で宣誓証言でも、CIAエージェントの身元がバレリー・プレイムさんであることを、「ジャーナリストたちから聞いた」と繰り返し主張していたが、起訴状では、彼女(プレイムさん)について、2003年6月に、(副大統領の)デイック・チェイニーから聞いた、と、まったく違った事実が記載されている点だ。
 
 チェイニー副大統領とリビー補佐官は、イラク戦争開戦前、なんどもラングレーのCIA本部に足を運び、イラクのWMD保有疑惑に対して懐疑的なCIAアナリストらの取り込みを図っており、CIAの主流との間に意見の隔たりを生んでいた。
 
 チェイニー副大統領とリビー補佐官は、いわば一心同体の関係にあり、対CIAとの関係も含め、チェイニー副大統領が裁判の証人として出廷を求められ、反対尋問にさらされるであろうと、ガーディアン紙は予測している。
 
 〔イラク戦争裁判に〕
 また、同紙によれば、レーガン、クリントン両大統領の補佐官をつとめたデイビッド・ジャーゲン氏はCNNとのインタビューで、「(リビー被告の裁判で)われわれはたぶん、イラク戦争を裁く裁判をすることになるだろう。いかにして、われわれはあの戦争を始めてしまったのか、という……」と語った。

 CIA身分漏洩ではなく、イラク戦争を問う裁判。チェイニー副大統領が証人として尋問の十字砲火を受ける、イラク戦争裁判。

 審理の過程でなにが飛び出すか、レジー・ウォルトン判事による連邦地区裁判所の公判の行方に対しても、すでに注目が集まっている。

 〔ニジェール偽造文書に謀略の影〕
 リビー補佐官が起訴されたことで、「プレイム・ゲート」事件の母体となった「ニジェール疑惑」そのものに対する関心が再び高まっている。

 チェイニー副大統領らがCIAに対して調査を求め、プレイムさんの夫の元外交官、ウイルソン氏がアフリカの現地に飛ぶことになった、「ニジェール疑惑」の、そもそもの発端は、ニジェール・イラク間のウラン取引に関する証拠の偽造文書(いわゆる「ニジェール文書」)が、なぜかイタリアのローマで「出現」したことである。

 この偽造文書にもとづく「ニジェール疑惑」をひとつの根拠として、ブッシュ政権は「イラクのWMD保有疑惑」をフレームアップし、米国民をイラク戦争に引きずり込んだわけだが、その偽造文書が出現する過程にあらためて注目が集まっている。

 ニューヨーク・タイムズ紙(電子版、28日付け)によれば、米政府部内の反諜報担当者は、文書を偽造した犯人について、①イラク国民会議を率いていたチャラビの側近②金めあてに、ローマのニジェール大使館関係者――の2つの可能性を挙げ、②についてよりあり得るとの見方を示している。

 一方、ロサンゼルス・タイムズ紙(電子版、28日付け)のローマ特派員電によれば、現地の左派系新聞、「レパブリカ」紙は調査報道でこの問題を追及し、イタリアの揺るがす大問題に発展している。

 レパブリカ紙によれば、ブッシュ大統領を後押しするベルルスコーニ首相の命令で、イタリア軍情報部(SISMI)のトップであるニコロ・ポラーリが(偽造文書という)偽情報をブッシュ政権に提供したという。

 ニコロ・ポラーリは2002年9月9日、ワシントンで、ハドレー次席大統領補佐官(当時、国家安全保障担当)と会談したことも確認されている。

 上記のニューヨーク・タイムズ紙の記事によれば、偽装文書は2002年10月――つまり、ポラーリとハドレーが会談した翌月に、SISMIから米政府に手渡されたあと、ベルルスコーニ首相が経営するイタリアの雑誌、「パノラマ」誌の女性記者によっても、コピーが米政府側に引き渡されるが、チェイニー副大統領らがCIAに偽造文書をもとにした「ニジェール疑惑」の調査を求め、ウイルソン氏が現地に派遣されたのは、その8ヵ月以上前の同年2月のこと。

 つまり、チェイニー副大統領らは、2002年秋、「偽造文書」が「表面化」する、はるか以前に、「偽造文書」の存在を知っていたことになる。

 これはいったいどういうことか?

 この謎に一応の解答をしているのが、「ナイト・リッダー新聞連合(KR)」電子版(28日付け)の調査報道である。

 KRによれば、「ある外国の情報機関」(情報機関関係者によると、イタリア軍情報部のSISMI)から、最高機密のレポート3通が米国のCIAに寄せられたのは、その実はその前年の2001年10月15日のこと。あの「9・11」同時多発テロの直後のことだった。

 情報を提供されたCIAはしかし、現地のローマ支局からして、最初から「ニジェール文書」なるものに懐疑的で、そのままお蔵入りになっていたのが、1年後、チェイニー副大統領らによって急に「復活」し、2003年1月28日のブッシュ大統領の一般教書演説に盛り込まれることなる。

 この謎めいた「復活劇」を仕組んだ者たちの正体に、CIA身元漏洩以上の関心が集まっているわけだ。

 本紙(「机の上の空」)既報の通り、フィッツジェラルド特別検察官は、この偽造文書に関する調査報告書の全文をイタリア国会より入手しているといわれおり、捜査が飛び火する可能性も否定しきれない。

 〔ブッシュ大統領にも捜査の手?〕
 ニューヨーク・タイムズ紙(電子版、29日付け)によれば、フィッツジェラルド特別検察官は28日朝、ワシントン市内の法律事務所で、ブッシュ大統領の個人弁護士、ジェームズ・シャープ氏と会談した模様だ。

 同紙の取材に対し、シャープ弁護士は返答せず、何が話し合われたか不明だが、ブッシュ大統領自身、「プレイム・ゲート」事件がらみで、フィッツジェラルド特別検察官から尋問を受けている。
 同紙の記述はそれだけにとどまっているが、ブッシュ大統領に対する再尋問もありえないことではないだろう。

 そうなると、「大統領は知らなかった」の言い訳がますますつきにくくなる。

 当のブッシュ大統領は、この日(28日)午前、ワシントンをあとにし、バージニア州ノフォークのクライスラー・センターで演説した。

 ホワイトハウスのサイトに載ったトランスクリプトによると、ブッシュ大統領は「温かい歓迎をありがとう。ワシントンを脱出するチャンスを与えてくれてありがとう」と、会場の笑いをとって演説を開始した。

 「われわれの国土に到達した悪は、またも出現している……」と、テロ行為を非難しはじめたときだった。
 トランスクリプトによると、聴衆のひとりが「大統領、戦争こそテロです」と叫んだ。

 ロイター電は違っていて、「大統領、テロリズムって何? テロリズムって何? いますぐ辞任しなさい」と叫んだところで男性は取り押さえられ、退場されられた。男性に対して聴衆からブーイングが浴びせられたという。(ブーイングについてはホワイトハウスのトランスクリプトも明記)

 こうしたハプニングのあとも、ブッシュ大統領は予定通り、演説を進め、イランを名指ししながら、「われわれは狂信者どもの手から、大量殺害兵器を取り上げ続けるべく、緊急に活動している」と語った。

 WMD(大量破壊兵器)ではなく、こんどはWMM(Weapons of Mass Murder、大量殺害兵器)。
 イラク戦争に使った口実を、さすがにそのまま使用できなかったようだが、イランの核開発サイトに対する先制攻撃をしかねないような口ぶりだ。

 ノフォークから戻ったブッシュ大統領は、ホワイトハウスでリビー補佐官起訴に対する短いコメントを発表したあと、記者団の質問に答えず、そのままヘリでキャンプ・デービッド山荘に向かった。

 「きょう、わたしはスクーター・リビーの辞任を受け入れた。スクーターはアメリカ国民のために疲れを知らずに働き続け、この国のために多大な犠牲を払って来た……」

 スクーター(片足スケート)とはリビー補佐官のニックネーム。ヨチヨチ歩きの幼児のころ、父親がつけた愛称だそうだ。

 副大統領首席補佐官が起訴されたときに、公式の声明でことさらニックネームで語る、ブッシュ大統領の、なんとも度し難き、この幼児性!

 英紙ガーディアン(上記電子版)は、リビー補佐官起訴の記事の最後を、以下のようなブッシュ大統領に対する評価で締め括っている。

 最初の大統領選に討って出たとき、ブッシュ氏は、クリントン氏のセックス・ライフの暴露のあとに吹き込む、新鮮な空気として自分自身を売り込んだ。
 「わたしはオーバル・オフィス(大統領執務室)に、名誉と威厳を再びもららすだろう」と、アメリカに向かって語りかけた。
 その誓い自体がいま、問われている。
 ブッシュ氏はこれまでの3年間を、消えない伝説をつくるのに使おうと希望し続けて来た。彼はそれだけの時間を、イラク侵略を命令したとき掘った穴から、ただ這い出ることだけに使わなければならなかったようだ。

 イラン攻撃で2つ目の穴を掘らないことを祈るのみである。

 

Posted by 大沼安史 at 12:55 午前 | | トラックバック (0)

2005-10-29

〔NEWS 速報〕 リビー補佐官、起訴 「プレイム・ゲート」事件、ついに立件 ブッシュ政権中枢によるイラク戦争開戦工作の一角、明るみに 特別検察官「捜査はさらに継続」言明 

 ブッシュ政権高官によるCIAエージェントの身元漏洩事件、いわゆる「プレイム・ゲート」事件で、連邦大陪審は10月28日、チェイニー副大統領のルイス、“スクーター”・リビー首席補佐官を偽証や司法妨害などの罪で起訴する決定を下した。

 フィッツジェラルド特別検察官は同日、記者会見し、捜査は「まだ終わっていない」と語り、事件の解明が今後、さらに進展する可能性を示唆した。

 起訴を受けてリビー被告は、副大統領補佐官の職を辞した。

 CNNやAP通信によると、リビー被告は5つの訴因で起訴された。偽証、嘘誓がそれぞれ2件、司法妨害が1件。

 起訴状は、リビー被告が、ブッシュ政権による「サダム・フセインのWMD(大量破壊兵器)」保有プロパダンダを批判した米元外交官の妻(バレリー・プレイムさん)が、実はCIA(米中央情報局)のエージェントであることをマスコミに漏洩、暴露した直接の当事者であるとは、なお断定していない。

 フィッツジェラルド特別検察官は、22ヵ月に及ぶ取り調べの過程でリビー被告が行った、FBI(連邦捜査局)や大陪審に対する偽証などに焦点を絞り、立件に漕ぎ着けた。

 リビー被告の補佐官辞任についてチェイニー副大統領は声明を発表し、「大変、残念である」と遺憾の意を表明するとともに、リビー被告は有罪が確定するまでは推定無罪である、と述べた。

 事件捜査のもう一人の焦点であるブッシュ大統領のカール・ローブ次席補佐官については、この日は起訴は見送られた。

 関係筋によると、これはローブ補佐官について立件を断念したものではなく、同補佐官はなお、捜査の対象になっているという。

 ローブ補佐官は同日朝、ワシントン北郊の自宅を出る際、記者団に対して「きょうはいい金曜日になる。いい週末になる」と語った。

 ローブ補佐官の起訴が当面、見送られたことで、ブッシュ政権としては最悪の事態を避けることはできたが、政権中枢が情報漏洩隠蔽の偽証工作を行っていた事実が明るみに出たことで、さらに窮地に追い込まれたことは確かだ。

 イラクによる「WMD保有疑惑」をフレームアップし、米国をイラク戦争へ引きずり込んだ、ブッシュ政権中枢による「開戦工作」の一端が表面化したことは、イラク戦争の正当性を根本から揺るがすもので、全米で広がる反戦・厭戦感情を強めることは間違いない。

 「プレイム・ゲート」でCIAエージェントである身元が暴露されたバレリー・プレイムさんは、元外交官、ジョー・ウィルソン氏の妻。

 ウイルソン氏は、2002年2月、イラクが核の原料であるウランを、アフリカのニジェールから入手したという疑惑(いわゆる「ニジェール疑惑」)の調査で現地に派遣されたが、帰国後、疑惑が根拠のないものであると報告したにもかかわらず、ブッシュ政権がイラク戦争開戦へ向けたプロパガンダに利用しているのに反発、ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿して世論に訴えた。

 ウイルソン氏の夫人の身分漏洩は、これに対する報復として行われたとみられ、2003年6月、ワシントンの政治コラムニスト、ロバート・ノバク氏によって報じられた。

 CIAエージェントの身分暴露は、諜報活動に身をおくエージェントにとって命取りになりかねないもので、法律により禁止されているが、今回のリビー被告に対する起訴には、この法律違反の罪は含まれていない。

 フィッツジェラルド特別検察官は2003年9月に、事件解明のため任命され、捜査を続けて来た。
 
  

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2005-10-28

〔NEWS 速報〕 「プレイム・ゲート」事件 特別検察官 記者会見 日本時間 29日午前4時に

 米ABC放送が伝えたところによると、「プレイム・ゲート」事件を捜査しているフィッツジェラルド特別検察官の記者会見が、現地時間、10月28日午後2時(日本時間29日午前4時)に設定された。

(大沼注)
 日本の朝刊各紙の締め切りに間に合わない時間帯だ。これを逃せば、29日の夕刊になってしまう。

 本紙(大沼個人新聞「机の上の空」)では、イラク戦争の行方を左右する重大事件だけに、早起きしてカバーする方針です。

 ガンバリますのでよろしく。

 関心あるみなさんに、このブログのことを、ぜひ知らせてください。

 

Posted by 大沼安史 at 11:30 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 「平和の母」、再び逮捕

 米国の首都ワシントンのホワイトハウス付近で、ブッシュ政権の戦争政策に抗議していた「平和の母」こと、シンディー・シーハンさんが10月26日夜、他の参加者25人とともに逮捕された。

 シンディーさんの逮捕は、2回目。

 シンディーさんたちはホワイトハウス近くのブッシュ大統領夫妻居住区に近い路上で、イラクで戦死した米兵を悼む「ダイ・イン」(戦死者を装う抗議行動)を行っていた。

Posted by 大沼安史 at 05:27 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 イラク戦争で米兵15000人以上が負傷 

 米サンフランシスコ・クロニクル紙(電子版、10月27日付け)の報道によると、イラク戦争開始以来、これまで(10月15日現在)、15220人の米兵が負傷している。

 このうち、イラク侵攻時の負傷者は542人で、残りはイラク占領中の負傷者だ。
 

Posted by 大沼安史 at 05:13 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS 速報〕 リビー氏、起訴へ ローブ氏は検討中 NYT紙が報道

 米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版、10月27日付け」)は、「プレイム・ゲート」事件に関係する弁護士(複数)の証言として、チェイニー副大統領のリビー首席補佐官は起訴され、ブッシュ大統領のローブ次席補佐官についてはなお、検討中と報じた。

 ローブ補佐官については起訴されない可能性が強いが、捜査はさらに継続される。

http://www.nytimes.com/2005/10/28/politics/28leak.html?hp&ex=1130558400&en=2f2eae5de9b925ab&ei=5094&partner=homepage
 

Posted by 大沼安史 at 05:03 午後 | | トラックバック (0)

2005-10-27

〔NEWS リンク集〕 「普天間」移設 沖縄の声

 沖縄の米軍普天間飛行場の移設先をめぐる日米両政府の協議が10月26日に合意に達した。名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沿岸の兵舎地区に滑走路をつくる「沿岸案」でまとまった。

 自国政府と米政府の合意を、沖縄現地はどう見ているのか?
 沖縄タイムズ、琉球新報の記事を「リンク集」にまとめてみた。
 

  本土と現地の「温度差」がわかる。

 〔沖縄タイムズ〕

 http://www.okinawatimes.co.jp/day/200510271300_01.html

 http://www.okinawatimes.co.jp/day/200510271300_02.html

 http://www.okinawatimes.co.jp/day/200510271300_04.html

 http://www.okinawatimes.co.jp/day/200510271300_06.html

 〔琉球新報〕

 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-7891-storytopic-3.html

 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-7903-storytopic-1.html

 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-7902-storytopic-1.html

 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-7904-storytopic-3.html

Posted by 大沼安史 at 01:21 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 日本の資金拠出で、パレスチナ自治政府庁舎、新改築へ

 日本政府の資金拠出で、ヨルダン川西岸、ラマラのパレスチナ自治政府庁舎が新改築されることになった。
 イスラエル紙、「ハーレツ」(電子版、10月25日付け)が報じたもので、調印式は同日、ラマラの現庁舎で行われた。
 国連開発計画(UNDP)による事業で、日本政府が改築費を負担するが、援助額は明らかにされていない。
 「ムカタ」と呼ばれる現庁舎は、英国政府が信託統治していた1930年代の建物で、老朽化が進んでいた。
 昨年11月に亡くなったアラファト議長も、敷地内に葬られている。
 新庁舎は4階建て。
 一ヵ月以内に着工し、来年末に完成するという。

 ハーレツ紙の記事は ⇒

http://www.haaretz.com/hasen/spages/637702.html

Posted by 大沼安史 at 12:49 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 イラク戦死者2000人、突破 「平和の母」 ワシントン入り 「平和にラジカル」な抗議行動を展開 

 イラク戦争での戦死者(米兵)が2000人の大台に乗るなか、「平和の母」こと、シンディー・シーハンさんが今週、首都ワシントン入りして、反戦運動を続けている。
 週末まで連日、抗議を続ける予定。

 首都に集まった、シンディーさんら平和運動家らは、10月25日(火)以降、イラクの人々と連帯するため、抗議行動の時間、いっさい飲食しない断食を連日、続けている。

 26日(水)にはアーリントン墓地で献花。
 27日(木)には、市内の病院に収容されたイラク戦争負傷米兵にお見舞いの花を届けた。

 シンディーさんは26日に発表したアピールのなかで、「市民的不服従は国家が無法、不正な状態に陥ったとき、神聖な義務となる」とのガンジーの言葉を引用し、「わたしたちはこの国を取り仕切っている人々が、この国を倒壊させるのを許してはならない。人間として、聖なる義務を果たすときが来た。平和にラジカルになるときが……」と、訴えた。
 

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2005-10-26

〔教育改革情報 特報〕 イギリスで教育革命 すべての学校を「自治学校」に 民間の力を導入 英ブレア政権が大胆な学校改革案 

 英国のブレア政権は10月25日、大胆な学校改革案を盛り込んだ教育白書を発表した。

 英国内、全ての公立の小(初等)、中(中等)学校を、民間セクターに支援された「自治学校」(independent state school)に転換していくという、「教育革命」とも言うべき、思い切った大改革だ。

 法的な準備作業を年内に終え、来年1月1日に法案として発表する。

 英紙、ガーディアン(電子版、10月26日付け)の報道によると、ブレア政権が奨励する、新しいタイプの公立校は、「自治トラスト学校」(self-governing trust school)とも呼ばれる、独立した「自治学校」。

 民間セクターとの連携のなかで運営される独立公立校で、大学や父母グループ、地域団体(community oraganization)のほか、企業、宗教団体、慈善団体(charity)の支援を受ける。

 学校運営する組織の任命権はもちろん、学校の財産の運用・処分権、さらには入学者の選抜などについても独自の権限を持つ。

 カリキュラムの決定についても、大幅な権限を持つほか、スタッフの雇用権も手にする。

 教職員の給与、待遇も、中央政府の文部相に対して願い出ることができる。

 この「自治トラスト学校」になるには、運営主体が父母たちと相談したうえで、地方教育局(LEA)に対し、提案しなければならない。

 大学や慈善団体、富裕な個人といった個別トラストは、複数の「自治トラスト校」を運営できる。

 これがブレア政権が描く新しい公立校のイメージだが、英国内に先例がないわけではない。

 今回の改革案がモデルにしているのは、ブレア政権が2000年から、ロンドンなど都市部で開設を進めている「アカデミー」校だ。

 この「アカデミー」は、当初、「シティー・アカデミー」として、崩壊の危機に立つ都市部の公教育建て直しのため導入されたもので、米国のチャータースクールをヒントにしている。

 (大沼注 米国のチャータースクールの第一号は、ミネソタ州の「シティー・アカデミー」校。そこから、この名前が生まれたようだ。シティーの名が外されたのは、都市部以外でも開校していくため)

 現在、英国内に17校(うち10校はロンドン市内)開校されている「アカデミー」は、慈善団体などの民間セクターが200万ポンド(日本円で約4000万円)の資金を用意し、これに英国政府が2000万ポンドの公的資金を上乗せしてつくる中(等)学校で、地元の地方教育局(LEA)の規制を逃れ、独自の学校運営ができるのが特徴だ。

 ブレア首相の労働党政権は1997年に発足以来、保守党政権の「スペシャリスト・スクール」(specialist school)政策を引き継ぎ、公立の中(等)学校(セカンダリー・スクール)に民間の力を導入し、特色ある学校づくりを進めて来た。

 この「スペシャリスト・スクール」は、提携・連携先から5万ポンドの資金を調達し、芸術なら芸術、ビジネスならビジネスの独自カリキュラムを組むことができる制度で、現在、英国内の全中(等)学校の4分の3以上、2382校が、スペシャリスト・スクールとしての「ステータス」を獲得している。

 この「スペシャリスト・スクール」も、「アカデミー」とともに、今回、ブレア政権が打ち出した「自治学校」構想の母体になっている。

 言い換えれば、これら「アカデミー」「スペシャリスト」の延長線上に、今回のきわめてラディカルな改革案が提起されたわけだ。

 ブレア政権の発表に対し、低コストの私立学校群60校を運営する教育企業のGEMSや、「アカデミー」のスポンサーにもなっているキリスト教系慈善団体「ユナイティド・ラーニング・トラスト」が強い関心を示している。

 ブレア政権の今回の改革案では、父母の権限も飛躍的に強化された。

 父母たちは、学校を新設することが可能になるほか、だめな学校の閉校を要求する権限を手にする。こうした父母たちの要求にLFAは拘束され、父母の要求がなかなか満たされないときは、中央政府が介入するという。

 各「自治学校」には、「父母協議会」も設置されるが、「自治学校」にまだ転換していない公立校についても、同じような父母の組織をつくるよう奨励する、としている。

 ブレア改革案には、子どもたちの教育に失敗した「ダメ学校」に対する措置も織り込まれている。

 12ヵ月の猶予期間内に改善のみられない「ダメ学校」は、「新しい運営者からの競争」にさらされるという。「自治学校」あるいは「アカデミー」として再出発する道が切り開かれる、のだそうだ。

 こうしたなかで、LEA(地方教育局)の教育委員会の権限も大幅に削減され、IEAは公教育の「プロバイダー」(提供者)から、生徒・父母を代表する「コミッショナー」へと役割を変える。

 今回の改革は、1940年代に行われた「コンプリヘンシブ・スクール」改革に次ぐ、60年ぶりの大改革だが、政府の関与を薄めるという意味で、正反対のベクトルを持つ、といえる。

 ブレア首相の提案に、労働党の左派、教員組合から一斉に反発があがっているのは、このためだ。
 

 以上が、今回、発表された「ブレア教育改革」をめぐる、おおまかなスケッチだが、筆者(大沼)の私見によれば、地域ぐるみ、マクロに改革しようとした「教育アクション・ゾーン」の失敗を踏まえ、教育改革を個別の学校を単位にミクロに実施しようとするものと思われる。

 お手本はおそらく、同じ労働党の、ニュージーランドのロンギ政権が1990年代に実施した「自治学校」導入を柱とする「明日の学校」改革。

 ブレア首相の構想が、法案化のなかでどのように肉付けが施され、具体化されていくか、見守りたいと思う。
 

 

Posted by 大沼安史 at 04:36 午後 2.教育改革情報 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 イラク戦争 米兵 戦死者、2000人に

 米CNN(電子版)の報道によると、イラクにおける米兵の戦死者が、米軍の10月25日の発表で、開戦以来、2000人に達した。
 

  2000人目の死者は、テキサス州出身のジョージ・アレキサンダー・Jr二等軍曹(34歳)。

 21日、サマラ市内を装甲車両でパトロール中、路肩に仕掛けられた爆弾の爆発により負傷し、翌22日に死亡したという。

 同乗していた2人の米兵は、まもなく死亡していた。

 1991年の湾岸戦争の戦死米兵は382人。
 1961年から70年代半ばまで続いたベトナム戦争では、58000人以上が戦死している。

 ⇒

http://edition.cnn.com/2005/WORLD/meast/10/25/iraq.main/index.html

Posted by 大沼安史 at 12:02 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS速報〕 「プレイム・ゲート」事件    本日(26日、米現地時間)、立件か ブッシュ政権 最上層部に波及の感触

 米国人ジャーナリスト、スティーブ・クレモンズ氏がウェブ上に開設する「ワシンントン・ノート」は10月25日、「プレイム・ゲート」事件についてフィッツジェラルド特別検察官が26日(現地時間)に正式に起訴に踏み切るとの、インサイダー情報を伝えた。

 刑事訴追される対象者には、ブッシュ政権の「最上層部」が含まれているというのが、情報筋の感触だ。
 (大沼注 チェイニー副大統領を指すのだろうか?)
 

  被告に対しては、すでに通知が行われている。
 

 記者会見は27日(同)に行われる。
 

http://www.thewashingtonnote.com/

Posted by 大沼安史 at 11:22 午前 | | トラックバック (1)

2005-10-25

〔NEWS〕 1998年 「偽100ドル札」満載の北朝鮮船を日本の艦船が拿捕 ジョン・クーリー氏が指摘

 キプロスのニコシアを拠点に長年、中東問題をカバーしてきた米国人ジャーナリスト、ジョン・クーリー(John K. Cooley)記者が、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙(電子版、10月23日)で、北朝鮮による「偽100ドル札」製造問題をレポートした。

 米司法当局がこのほど初めて、北朝鮮の「100ドル札」偽造疑惑を公式に明らかにした(10月13日付けの産経新聞など参照)のを受けて、同記者の取材結果を公表した。

 それによると、北朝鮮は1970年代の半ば、スイス・ローザンヌの「デ・ラ・ルエ:ギロン」社から印刷機を導入した。

 首都ピョンヤン中心部の工場で印刷された偽造100ドル札の流通ネットワークは、最初は中国、それから東南アジア、北米に広がったという。

 1994年には、ニューヨークに本店を置く「リパブリック・ナショナル銀行」の香港支店の窓口係が、マカオの「デルタ銀行」から持ち込まれた100ドル札を偽札と見破っている。

 マカオのこの銀行は、北朝鮮の資金洗浄役を引き受けていた。

 偽100ドル札は中国マフィアによって北米へ持ち込まれ、カジノなどで使われたこともあるという。

 北朝鮮に逃走した日本赤軍の幹部の一人が25万ドルをタイ通貨に交換しようとしてカンボジアで逮捕されたこともあった。

 しかし、クーリー記者のレポートで驚くべきは、以下のくだりである。

 1998年の夏、日本の「海軍」(大沼注 海上自衛隊の自衛艦の可能性もなくはないが、おそらくは海保の巡視船)が、偽100ドル札を満載した北朝鮮の船を拿捕(だほ)した。

 日本の警察は、アメリカのシークレット・サービスのエージェントの協力を得て、日本国内の流通先を一網打尽にした。

 日米両政府は、拿捕後、48時間以内に、この問題に蓋をした……。

 クーリー記者によれば、こういうことが実際あったのだとう。
 同記者のレポートぶりをこれまで見続けてきた筆者(大沼)としては、信頼すべき事実の報道だと思う。

 日本の主流マスコミの確認報道をお願いしたい。

 クーリー記者の記事は ⇒

http://www.iht.com/articles/2005/10/23/opinion/edcooley.php

 産経の記事は ⇒

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051013-00000029-san-int
 
  

Posted by 大沼安史 at 05:35 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS 鳥インフルエンザ情報〕 英国 武装警官隊で「タミフル」備蓄を防備 発展途上国が備蓄の10%提供を先進国に要請

 鳥インフルエンザ(バード・フル)をめぐり、世界中が厳戒態勢に入っています。

  英国では、南米から輸入したオウムから、H5N1型のウイルスが検出され、人間への「転移」や「流行」も、時間の問題になって来ました。

  世界は感染の爆発的拡大へ向け、カウントダウンに入っている。
 そんな世界のバード・フル最新情報を集めてみました。

 〔武装警官隊が防備〕
 英紙、インディペンデント紙(電子版、10月23日付け)によると、英政府当局は、バード・フルに唯一、効果的と期待される抗ウイルス剤、「タミフル」の備蓄センターを、武装警官隊で防備する方針を固めました。
 バード・フルが流行し出したら、武装警官を配置する。
 無用な混乱を避けるため。パニック買いが始まるのを防ぐための措置です。
 

 前にこの欄で報告したように、英国でもまた「タミフル」の備蓄が進んでおらず、放っておけば、暴力的な「取り合い」が始まらないとも限らない。そう踏んでいるわけですね。
 

 英国はもう、こういうことまで考えている。
 インディペンデント紙によると、英国では「3ヵ月以内」に、バード・フルの人体への「転移・感染・流行」が始めるとみています。
 そして、50万~75万人の死者が出ると予測している。

 日本の厚生労働省はどう見ているのでしょうか?

 〔「タミフル」備蓄の10%を発展途上国に?〕
 ところで、抗ウイルス剤「タミフル」のことですが、カナダやメキシコの政府が、世界の先進国に対して備蓄の10%を、発展途上国に提供するよう求めているそうです。
 これも、上記のインディペンデント紙に出ていました。

 発展途上国は高価な薬品をなかなか買えません。人々の栄養状態も悪く、いってみれば「丸裸」状態です。バード・フル被害を医療が整った先進国以上に集中して受ける恐れがある。

 そこでこの「10%提供」アピールが出ているそうです。

 で、この問題を話し合う、世界の厚生・保健大臣の会議が24日、カナダのオタワで開かれたそうですが、日本政府はどんな対応をしたのでしょう。気になるところです。

 〔中国 国境閉鎖へ〕
 米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版、22日付け)が伝えた香港発のロイター電によると、中国政府当局者は、バード・フル感染者が1人でも見つかったなら、国境を閉鎖し、感染の拡大を防ぐと言明しました。

 すごいですよ。「人命尊重が中国政府の最優先事項だ。(国境閉鎖によって)たとえ、経済がスローダウンしても、やる」というのですから。

 同じニューヨーク・タイムズの記事のなかで、台湾政府の対応も紹介されていました。

 なんと台湾は、スイス・ロシェ社が特許を持っている「タミフル」の製造を開始できる態勢にあるのだそうです。

 そう政府当局者が言明した。

 どういうことかというと、台湾として、特許問題にかかわらず、人々の命を守るため、タミフルと同成分の薬剤を生産します、ということなんです。

 一製薬会社の特許にかまっていられない。それよりも、人命を救うのが先だというのですね。

 〔特許独占に高まる批判〕
 米国のインター・プレス・サービスが22日に報じたところによると、米国連邦議会のシュメール上院議員は、「タミフル」を独占的に生産しているスイスのロシェ社を、「世界の人々の健康より、自社の利益を優先している」と非難しました。そして同社に対する、なんらかの懲罰法案を議会に提出すると。

 要は、全人類が非常事態に直面しているのだから、特許を放棄し、いわゆるジェネリック薬剤の生産を認めなさい、というアピールなんですね。
 

 ロシュ社もこれに応えて、米国の製薬会社4社と協議に入っているそうです。
 
 

 こうして見ると、「バード・フル」対策は全世界規模で進んでいるようです。
 そんななか、わが日本はどうなっているのでしょう?

 厚生労働省には、もっともっと、国民に対して情報を提供してほしいものです。
 
  

Posted by 大沼安史 at 11:34 午前 | | トラックバック (2)

2005-10-24

〔いんさいど世界〕 軍曹の戦死 中佐の辞任

 イラク南部、バスラに駐留する英陸軍の大隊長が辞任した。

  コールドストリーム・ガード第一大隊を指揮していた、ニック・ヘンダーソン中佐(43歳)。

  相次ぐ部下の死に耐え切れず、軍服を脱いだらしい。
 中佐は、装甲車両が不足していることを問題視し、配備を求めていたという。

 英紙、サンデー・テレグラフ(電子版、10月23日付け)が報じた。

 ヘンダーソン中佐は、1000人規模の大隊を指揮し、バスラでの治安維持活動に従事していた。

 英陸軍大学に籍を置いたことものある、将来を嘱望されたエリート。
 その突然の辞任に、大きな波紋が広がっている。

 第一大隊はことし5月以降、9人の兵士を亡くしている。
 ヘンダーソン中佐はそうした部下の死に、苦しんでいたらしい。

 とりわけ、今月18日に犠牲になった9人目の戦死者、クリス・ヒックレイ軍曹(30歳)の無残な死には、大きな衝撃を受けていたという。

 そのヒックレイ軍曹について、英紙インディペンデント(電子版、23日付け)が、その人となりを取材し、レポートしている。

 英国中部、ブラッドフォード近郊の村の出身。

 学校を出て機械修理工になったあと、犯罪、麻薬に走る元学友の姿を目の当たりにし、陸軍に志願したこと。

 駐屯地の近くのナイトクラブで、結婚相手のゲンマさんと知り合ったこと。

 息子が一人、生まれたこと。

 ヒックレイ軍曹の足跡を追ったインディペンデント紙の記者は、取材結果を淡々とした筆致で、克明に記している。

 あと数日、生きていれば、任務を離れ、妻子と再開できたはずの、まじめな、ひとりの、イギリスの若者の死。

 その死に大隊長は耐えられなかった。

 

 ヒックレイ軍曹は、イラクで戦死した、97人目の英軍兵士だった。

 軍曹の人生を追ったインディペンデント紙の記事は、末尾に、ほかの戦死者96人、全員の名前と戦死した日付けを記載した。
 
 

Posted by 大沼安史 at 02:07 午後 1.いんさいど世界 | | トラックバック (1)

2005-10-23

〔教育改革情報コラム 夢の一枝 ②〕 フィンランド・デンマーク・日本

 今朝(10月23日)の新聞を見て、うれしくなった。寝床で読み終わり、曇りガラスの窓を開けると、青空だった。気分爽快になった。
 朝刊(朝日)には、フィンランドの教育ルポが載っていた。大島大輔さんという記者が現地を訪ねて書いた報告記事だ。

 読みながら、なるほど、なるほど、と、ひとり頷いていた。
 朝日の読者には教育関係者が多いというから、いまごろ、きっと、大勢の日本の学校の先生たちも読んでいるはずだ。

  みんな、うらやましがっていることだろう。
 

 フィンランドは、OECD(経済協力開発機構)の国際学力調査(PISA、2000年・2003年実施)で、世界トップを行く「高学力の国」。

 大島記者の報告によれば、北欧のこの「森と湖の国」では、

 ・教科書も授業メソッドも学校が選ぶ。

 ・国のカリキュラムは削りこまれて、いまやガイドライン的なものに。自治体と学校は、このカリキュラムに基づいて、自前の「指導要領」をそれぞれつくっている

 ・ヘルシンキ市内の小中一貫校の4年生のクラスの週間の時間割には、教科が書き込まれていない×印の箇所が11ヵ所もある。全体の4割が×印。この×印のコマには、こどもたちの理解状況に応じて、やりたい教科をはめこむ。

 ・全国学力テストも行っているが、一定数を抽出して実施し、その結果も全国平均を公表するだけ。学校のランクづけはしない。

 ―― のだそうだ。
 

 「低学力」の日本と真逆。

 まるで「倒立した鏡像」を見ているようだ。
 

 学校の自治、教育の自由。
 

 文科省の「統制教育」で息の根をとめられていたものが、この国にはある。

 そのことを、この記事であらためて知って、うれしくなった。
 思わず、深呼吸したくなるような、酸素をいっぱいふくんだ、フィンランドからの新しい風……。

 この記事を、文科省の人たちがどう受け止めるのか、知りたいとも思った。
 「低学力」を克服するため、全国学力テストを、任意抽出ではなく、小6、中3の全員に対し、一人も残さず、悉皆調査で実施する、その意味はどこにあるんだ、と聞きたくもなった。

 教室を酸欠状態にして、教える・学ぶ喜びを根扱ぎにし、結果的に「低学力」をもたらしておいて、いまさら「学テ」もクソもないだろう。

 「統制教育」のこの国は、テスト、テストで明け暮れる、「試験の国」でもある。大学の入試センター試験を含め、膨大なテストの山を築いているのだから、この国の教育のどこに問題があるのかぐらい、とうに知っていなければらないはずだ。

 日本にとっていま最も大事なことは、「学力」を調査することではない。そんなことは、すでにPISAで、わかっていることでないか。

 調査すべきは「教育力」――この国の「低学力」をもたらした「低教育力」である。

 いったい何が、この国の学力を低下させているか、文科省の責任問題も含め、その「低教育力」を問うことである。

 何が問題か、学び取ることである。
 これ、すなわち「学ぶ力」――。
 

 文科省が「学ぶ」ことを放棄して、どうして子どもたちにだけ、「低学力」を問えるのか?
 
 先日の地震で、部屋の壁に積んでいた本の「柱」が崩れ、探していた1冊が偶然、出てきた。
 PISAの最初の調査(2000年)を受け、デンマーク政府が実施した点検調査報告書『デンマーク PISA2000からの教訓』(OECD刊)である。

 デンマークも日本と同様、「世界トップクラス」の教育力を自認していたが、PISAの第1回調査で、実は「高教育力」の国ではないことがわかった。

 たとえば読解力(平均点)でデンマーク(497点)は、フィンランド(546点)はもちろん、スウェーデン(516点)、ノルウェー(506点)を下回り、OECD全体の平均(500点)にも届かなかった。

 内村鑑三の『デンマルク国の話』(岩波文庫)にもあるように、日本と同じく、デンマークは無資源国。人材だけが資源とあって、公教育に力を入れ、その「高い教育力」を自らの誇りとして来た。

 それが、PISAで、このありさま。
 そのショックのほどは、日本以上のものだったろう。

 しかし、デンマーク政府は偉かった。人権と福祉のこの小国の文部省はさすがだった。

 なぜ、自分の国の教育はダメになったのか、国外の研究者たちの力も借りて、原因を突き止めようとしたのである。

 その、結果が、この点検調査報告書の『デンマーク PISA2000からの教訓』だった。

 内村鑑三が讃えたデンマルク国の政府には、「学ぶ力」が残っていたのだ。

 翻って日本の文科省の役人たちに、デンマークのような自己批判力、自己責任能力はあるのだろうか。

 諸君らに、自分たちが統括している日本の教育を、国際的な視野のなかで見つめなおす、デンマークのような気概はありや。

 来年、なにがなんでも「学テ」を全国の全小・中学校で行うというなら、せめて同時に、全国の小6、中3に対して、無記名のアンケート調査を実施し、この国の教育の何が問題なのか、どこが悪いのか、学習の当事者である子どもたちの意見を聞いてほしい。

 その結果が「低評価」であれば、その点につき、教育行政を改善していく。
 そのぐらいのことは、是非ともしてもらいたいものだ。

 そこにこそ、「低学力」克服を目指す「教育力向上」の道がある。

 

Posted by 大沼安史 at 10:42 午前 2.教育改革情報 | | トラックバック (0)

2005-10-22

〔重要NEWS〕 「ニジェール・ウラン疑惑」捏造 チャラビ側近が「証拠文書」を偽造 フィッツジェラルド特別検察官 イタリア国会から調査報告書を入手 「プレイム・ゲート」事件、拡大の様相 特別検察官 ウェブ・サイト開設

 米NBC放送は10月21日のニュース番組「ハードボール」で、「ニジェール・ウラン疑惑」でっち上げに絡んだ「プレイム・ゲート」事件を捜査中のフィッツジェラルド特別検察官が、イタリア国会から、同疑惑の動かぬ「証拠」として、イラク戦争開戦前に、なぜか突如、ローマで「出現」した、秘密テレックス文書に関する調査報告書全文を入手している、と報じた。

 イタリア国会の調査委員会の報告書はかねて抜粋が報じられ、イラクがニジェールからウランを入手したことを裏付ける、秘密のテレックス緊急電が「偽造」であると結論づけられていることは、すでに知られていた。

 フィッツジェラルド特別検察官がイタリア側から提供されている調査報告書は、部分削除のないフルバージョンで、そこにはテレックスの偽造したのは、米CIAのアセット(財産=手先の意味)で、WMD疑惑の発信元だったチャラビの側近であることが明記されているという。

 「イラク国民会議」なるものを率い、米軍のイラク侵攻に協力したチャラビは、「プレイム・ゲート」事件で捜査の焦点となっている、チェイニー副大統領のリビー首席補佐官ら、ブッシュ政権内外のネオコン・グループと結びついているといわれる。

 (大沼注)
 ニジェール・ウラン疑惑が捏造であることの発覚を恐れたチャラビにつながる一派が、テレックス文書を偽造して、イラクのWMD保有疑惑を煽り立て、イラク侵略の道を切り開いた疑いが、これでますます強まった。
 今後の捜査によっては、ブッシュ政権は崩壊の危機を迎えるかもしれない。

 「ニジェール・ウラン疑惑」の顛末については、拙著、 『戦争の闇 情報の幻』 (本の泉社刊 右枠の「大沼安史の本」をクリックしてください)参照。

 

〔特別検察官がウェブサイト〕

 こうしたなかで、フィッツジェラルド特別検察官が、「プレイム・ゲート」事件捜査の推移を報告する専用ウェブ・サイトを開設した。
 同検察官の意欲を示したものとして、注目されている。
 
 ⇒
http://www.usdoj.gov/usao/iln/osc/index.html

Posted by 大沼安史 at 05:58 午後 | | トラックバック (0)

2005-10-21

〔NEWS〕 リビー氏 ウィルソン氏のテレビ出演をすべてモニター ホワイトハウスに反撃を求める     LAT紙報道

 米ロサンゼルス・タイムズ紙(電子版、10月21日付け)は、チェイニー副大統領の首席補佐官のリビー氏が、イラクWMD保有疑惑の裏づけのひとつとされた「ニジェール・ウラン疑惑」について、根拠のないでっち上げであることを暴露した元外交官の、ジョセフ・ウィルソン氏の行動に激怒し、同氏のテレビ出演をすべてモニター収録する一方、ホワイトハウスに対して、攻撃的なキャンペーンを行うよう求めていた、と報じた。

 ホワイトハウスの元スタッフ(複数)が同紙に対して証言した。
 

 (大沼注)

  その「反撃キャンペーン」のひとつが、ウィルソン氏の妻、バレリー・プレイムさんがCIAのエージェントであることをマスコミに暴露することだったとは……。

 ブッシュ政権「陰謀劇団」によるお粗末の一節、か。

 が、笑ってばかりはいられない。「陰謀劇団」のシナリオ通り、NYT紙のジュディス・ミラー記者のWMD嘘報道の援護射撃もあって、米軍は晴れてイラクを侵略し、軍事占領できたのだから。

 LAT紙の記事は ⇒

http://www.latimes.com/news/nationworld/nation/la-na-libby21oct21,0,7741636.story?coll=la-

home-headlines

Posted by 大沼安史 at 06:44 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 ローブ、リビー両氏の隠蔽工作 焦点に 「プレイム・ゲート」事件 NYT紙が報道

 米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版、10月21日付け)の報道によると、「プレイム・ゲート事件」の捜査の焦点は、ブッシュ政権のWMD疑惑キャンペーンに水をさした外交官の妻がCIAエージェントであることをマスコミにもらしたリーク(意図的漏洩)そのものより、むしろ、リーク発覚後の両氏による隠蔽工作に向かっている。

 リークの事実をもみ消そうとしたほか、捜査をあやまった方向へミスリードしたことが、実は問題視されているらしい。

 同紙に対して、関係する弁護士らが明らかにした。

 (大沼注)

 なるほど、そうした捜査の手法もあるわけだ。
 
 NYTの記事は ⇒

http://www.nytimes.com/2005/10/21/politics/21leak.html?

hp&ex=1129953600&en=e9e43780001cbcef&ei=5094&partner=homepage
 

Posted by 大沼安史 at 06:17 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 米兵 タリバン兵士の遺体を冒涜 西を向かせて焼く 心理戦の挑発行為 豪テレビが映像を放映 

 オーストラリアのテレビ局、SBSは10月20日、アフガニスタンで掃討作戦にあたっている米軍兵士らが、タリバン2人の遺体を焼き、勝ち誇って挑発する場面を収録したビデオ映像を放映した。

 映像は全世界で「再放映」され、衝撃波を広げている。

 豪紙、シドニー・モーニング・ヘラルド紙(電子版、21日付け)の報道などによると、現場を撮影したのは、フリーランスのジャーナリスト、オーストラリア人のステファン・デュポン氏。

 米陸軍第173空挺旅団の部隊に同行し、今月(10月)に、アフガン南部のカンダハル近郊の丘陵で撮影した。

 英紙、インディペンデント(電子版、21日つけ)によると、映像には、炎に包まれる遺体を米兵が見守るシーンのほか、2人の米兵が挑発文を読み上げる姿が映し出されている。

 タリバン武装勢力が潜んでいるとみられる近くの村に向けたメッセージで、「お前たちは戦士たちが西を向いて焼かれるのを許した。怖くて、遺体を取りに来ることさえできないのだろう」と挑発している。

 アフガンのイスラム教徒にとって、遺体を焼くことは冒涜であり、東の方、メッカに向かって安置するのが、死者に対する作法だという。

 インディペンデント紙によると、このビデオ映像は、米陸軍の心理戦部隊でよって流布されたもので、タリバンを「臆病な犬ども」と罵っている。

 明らかにタリバンの攻撃を誘う、挑発メッセージだ。

 (大沼注)
 ジュネーブ条約は、敵の戦死者についても、名誉ある方法で埋葬するよう定められており、この意味でも米軍の行為は非人道的なものだ。

 米軍当局は調査を約束したが、イスラム世界における米軍のイメージは、もはや取り返しのつかないほど、地に落ちてしまった。

 モラルの堕落を必然的にともなう、悲しく無残な戦場の現実。
 これが「忘れられた戦争」、米軍によるアフガニスタン侵略・占領の真実である。

 それは、わたしたち日本の軍隊による中国侵略の過去とつながるものだろう。

 あの時代もそうだった。
 アフガンに送られた米兵のように、日本の兵士たちも、故郷から遠く離れた地で、「戦闘」という名の「組織的な人殺し」に従事しなければならなかった……。

 
 シドニー・モーニング・ヘラルド紙の記事は ⇒

http://www.smh.com.au/news/world/probe-into-film-of-troops-burning-taliban-fighters/2005/10/21/1129775934726.html

Posted by 大沼安史 at 05:55 午後 | | トラックバック (1)

〔NEWS〕 キャロル記者、解放

 バグダッドで取材中、拉致され、行方不明になっていた英紙ガーディアン記者、ロリー・キャロル氏(33歳)が10月20日夜、解放された。

 同紙(電子版、21日付け)が伝えた。

 キャロル記者は地下室に36時間、監禁されていた。

 見張りの男の携帯電話に解放の指示があり、男の車で市内中心部まで送られた。

 拉致したグループについて、キャロル記者はテロリストではなく、犯罪者たちではないか、と見ている。
 

 (大沼注)生還してくれてよかった。

 ガーディアン紙によれば、アイルランド国籍を持つキャロル氏のため、アイルランド政府はもちろん、イギリス政府、イスラム、カトリック、プロテスタントの宗教者たちが、救出運動に加わった。

 北アイルランド、ロンドン地下鉄テロなど、さまざまな問題を越えて、連帯の輪が生まれたことは嬉しいことである。

 イラン政府もキャロル記者の解放を求める異例のアピールをした。これも、忘れてはならないことである。

 キャロル記者によれば、地下室の見張り番は解放を指示する携帯電話が入ったとき、笑顔を見せ、ほっとした表情だったという。

 これまた救われる話である。

 世界はまだ闇のなかにあるが、希望もまた確かにある。

 解放を伝える同紙の記事は ⇒

http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1597450,00.html

 

Posted by 大沼安史 at 08:37 午前 | | トラックバック (0)

2005-10-20

〔NEWS〕 ホテル砲撃、ジャーナリスト殺害事件で、スペインが米兵3人を国際指名手配

 YaHooニュースが掲載したAP電(10月19日付け)によると、スペインの国民裁判所が3人の米兵に対し、スペインのテレビ記者らジャーナリスト2人を戦車による砲撃で殺害した疑いで逮捕状を用意し、国際手配した。
 
 指名手配されたのは、米陸軍第3歩兵師団の将兵3人。

 3人は2003年4月8日、バグダッド市内のパレスチナ・ホテルに向かって戦車の砲弾を撃ち込み、スペインのテレビネットワーク・テレシンコの記者、ジョン;クスコ氏と、ロイター通信のカメラマン、タラス・プロチュク氏(ウクライナ国籍)の2人を死亡させた。
 
 スペインのペドラズ判事はこれまで2回、米政府に対し、捜査に協力するように申し入れたが、無視されたことから、強制捜査に踏み切った。

 (大沼注)
 砲撃事件の舞台になったパレスチナ・ホテルは、外国人ジャーナリストがかねて、バグダッドでの取材拠点にしているところで、筆者(大沼)もかつて投宿したことがある。

 それを米軍が知らないわけがなく、この砲撃事件には外国人ジャーナリストを牽制し、追い出しを図る狙いがあったのではないか、という見方が広がっている。

  AP記事は ⇒

http://news.yahoo.com/s/ap/20051019/ap_on_re_eu/spain_us_journalist_death

Posted by 大沼安史 at 04:57 午後 | | トラックバック (0)

〔For the Record〕 チェイニー副大統領らの「陰謀の輩」どもが勝手に政策を決定  パウエル前国務長官の首席補佐官が証言

 フィナンシャル・タイムズ(FT)紙(電子版)は10月20日、ことし1月に辞任したパウエル前国務長官の首席補佐官、ローレンス・ウィルカーソン氏の、米ワシントンのシンクタンクでの発言を報道した。
 
 ウィルカーソン氏は、

 「わたしが見たもの、それはチェイニー副大統領とラムズフェルド国防長官の間で陰謀団(cabal)が形成されるありさまだった。その陰謀の輩(cabal)どもが、死活的な諸問題について、行政府の知らない重要な決定をくだしていた」

 「そして、そうした決定が行政府に提示されたとき、それは、バラバラな、信じられないやり方で示された。行政府自身がその決定を遂行しながら、自分たちが何をしているか、わからないやり方で示されることもしばしばだった」

 FT紙の記事は ⇒ 

http://news.ft.com/cms/s/afdb7b0c-40f3-11da-b3f9-00000e2511c8.html

Posted by 大沼安史 at 03:05 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 意図的情報漏洩 ブッシュ大統領も知っていた? ローブ補佐官を叱責 米紙報道

 米政府高官がCIAエージェントの身元を意図的に漏洩した「プレイム・ゲート」事件に関連して、ブッシュ大統領がいまから2年前、側近中の側近であるホワイトハウスのカール・ローブ次席補佐官を叱責していた、と複数の情報筋が米紙、ニューヨーク・デイリー・ニュース紙に語った。

 同紙(電子版)が10月19日に報じた。

 複数の情報筋によれば、大統領はローブ補佐官がマスコミへの漏洩を認めたとき、怒ったという。2003年のことだった。

 大統領は、ローブ補佐官が日頃、匿名を条件に記者たちに話をしていることを知っており、大概はそれを容認していた、と情報筋の1人は語っている。

 もう1人の情報を知りうる立場にある関係者は、ローブ補佐官が漏洩事件をめぐり、ブッシュ大統領に「うそをついてだました」との一部報道が流れているのは、大統領を守るために意図的漏洩(リーク)である、と指摘したという。
 
 (大沼注)報道が事実だとすれば、ブッシュ大統領自身の責任も免れない。大統領自身、リークを知っていたわけだから。

 デイリー・ニュース紙の報道は ⇒ 

http://nydailynews.com/front/story/357107p-304312c.html

Posted by 大沼安史 at 01:24 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 英紙記者 バグダッドで拉致 

 英ガーディアン紙の特派員、ロリー・キャロル氏(33歳)が10月19日朝、バグダッドで取材中、武装したグループに拉致され、行方不明となった。

 キャロル氏は、同紙の前アフリカ特派員(ヨハネスブルク駐在)で、ことし1月からイラクに入り、取材を続けていた。

 この日はサダム・フセイン裁判の関連取材で、ドライバー2人と通訳1人の4人で、バグダッド市内のシーア派居住区に入り、インタビューをしていた。
 住民の家を出たところで、拉致された。

 キャロル氏はアイルランドのダブリン出身。アイルランドのパスポートを持っている。

 アイルランド政府は中東の出先機関に発見に全力をあげるよう指示した。

 (大沼注)あの、パキスタンで殺害されたダニエル・パール記者(米ウォール・ストリート・ジャーナル紙)のように、謀略的な背景がなければよいが……。

 ガーディアン紙は米英軍のイラク侵攻に批判的な論調で知られる高級紙。

 キャロル記者もまた、たとえば、「イラク西部のラマディで、アメリカ軍の空からの攻撃により、70人以上が死亡した。目撃者によると、婦女子も数十人、含まれている」(今月18日付け)といった、米軍当局の発表によらない記事を書き続けてきた。

 そういう記者を、いったい誰が、何の目的で連れ去ったか? 

 英軍撤退の動きに水をさそうとする意図さえ感じられる。

 キャロル記者の生還を祈る。

Posted by 大沼安史 at 12:32 午後 | | トラックバック (0)

2005-10-19

〔NEWS〕 プレイム・ゲート事件 立件の見通し NYT紙報道 

 イラクWMD保有疑惑をめぐる報復漏洩事件、「プレイム・ゲート」事件は、立件が確実な状況のようだ。
 ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は10月19日、事件を捜査しているフィッツジェラルド特別検察官が、捜査結果を報告書にまとめることはない、と周辺に語っている、と報じた。
 報告書にまとめるということは起訴を断念することなので、同検察官が事件を立件する可能性がさらに高まった。
 起訴の時期は、同検察官が任期切れになる今月28日ごろにずれ込むとの見方も出ている。

 参照 ⇒

 http://www.nytimes.com/2005/10/19/politics/19leak.html?ei=5094&en=adcf3adabff56617&hp=&ex=1129694400&adxnnl=1&partner=homepage&adxnnlx=1129694454-yoSijoKehhsObhtfL6rbkQ

Posted by 大沼安史 at 01:04 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 チェイニー副大統領 辞任の噂 ライス国務長官、昇格?

 米週刊誌、USニュース&ワールド・レポート(10月18日、電子版)は、CIAエージェント身元漏洩事件で、チェイニー副大統領が辞任するとの噂が広がっている、と報じた。

 後任には、ライス国務長官が昇格するという観測もある

 参照 ⇒ 

http://www.usnews.com/usnews/news/articles/051018/18whwatch.htm?track=rss

Posted by 大沼安史 at 12:49 午後 | | トラックバック (0)

〔いんさいど世界〕 鳥インフルエンザ対策 頼みは中国産香辛料を原料とした抗ウイルス剤「タミフル」  各国、備蓄に走る

 鳥インフルエンザ(Bird Flu バード・フル)がヨーロッパに上陸しました。

  ルーマニアのドナウ川河口地域のアヒルから検出された鳥インフルエンザ・ウイルスが、強い毒性を持つ「H5N1型」であることが確認され、EU(欧州連合)では臨時外相理事会を開くなど、厳戒態勢に入っています。

 日本もこれからインフルエンザの季節。他人事ではないので、いろいろ調べてみました。

 鳥インフルエンザ欧州上陸を受け、英国のフィナンシャル・タイムズ(FT)紙が10月14日にスクープ報道を放ちました。

 見出しは、「ブリュッセル言明、EUはバード・フルに備えができていない」。EUの内部文書をもとにした報道です。

 ブリュッセル(ベルギー)とは、EU事務局の所在地。欧州連合の司令塔がそう言っているのですから、ヨーロッパに人たちにはショッキングですよね。

 FT紙によると、WHO(世界保健機構)は人口の25%をカバーする抗ウイルス剤を備蓄しておくよう世界各国に勧告しているそうですが、来年(2007年)までに、EUと友好3ヵ国(ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)が確保できるのは、4600万ドーズ(一服)、10%程度に止まる見通し。

 つまりは、頼みの抗ウイルス剤が不足しているわけです。

 英国のもうひとつの高級紙、インディペンデント紙の報道(10月25日付け)によると、イギリス政府は、WTOの勧告に沿って、国内人口の25%分、1460万ドーズを製薬会社に発注していますが、これまでにわずか250万ドーズしか供給されていないそうです。

 ところで、今回、調べてみて初めてわかったことですが、各国が発注している抗ウイルス剤って、1種類しかないんですね。

 スイスのロシュ社がつくっている、リン酸オセルタミビル製剤、商品名「タミフル」という抗ウイルス剤です。

 ロシュ社では昨年(2004年)に「タミフル」の生産を倍増したあと、ことし(2005年)、それをさらに倍増、来年(2006年)にはまたそれを倍増する、「倍々生産体制」を続けています。世界的な需要にこたえるために、フル生産している。

 で、この「タミフル」という薬剤ですが、驚いたことに、中国産の香辛料を原料としているそうなんです。

 中国原産のシキミ科の常緑高木、トウキシミ。その果実を乾燥させたものが、日本名で「八角」、国際的には英語で「スターアニス」として知られる香辛料です。

 このスターアニス、一度、使い出すと、中華料理に欠かせなくなるスパイスだそうです。チャーハンでは一緒に炒め、焼き豚や麻婆豆腐では一緒に煮込むとおいしく仕上がるんだそうです。

 欧州初のバード・フルはルーマニアのアヒルから検出されたって先ほど言いましたが、おもしろいことに、北京ダックなどにも使われる。ピリッと、味が引き立つんだそうです。

 インディペンデント紙によると、そのスターアニスの実をつけるトウキシミ、中国の4つの省にしかない高木だそうです。その実の収穫は毎年3月から5月にかけて行われるそうですが、その全生産の、なんと90%をロシェ社が独占している。

 トウキシミの実に含まれる種子からアシディニック・アシドというものを取り出し、それを、3段階の化学的段階を経て、エポサイドというものに変え、そしてそれをアザイドというものに変化させる。この最後の段階が反応がきわめて不安定で、下手すると爆発してしまうようです。こうして、なんと1年がかりで、ようやく「タミフル」はできあがる。

 ロシェ社ではもちろん「タミフル」の製造特許をもっていて、それに対して、後進国の患者対策で特許の放棄を求める声も上がっているのです。

 この「タミフル」、日本でも、ある製薬会社がロシェ社と戦略アライアンス提携をしていて、販売されているそうです。

 日本の厚生労働省もWHOの勧告に基づき、きっと備蓄を進めているはずですから、安心ですよね。

(えっ、血液製剤やアスベストのこともあるから、信用できない? どうせ、いろんな製薬会社に天下りしているから、ロシェ社の提携先だけを「優遇」できないはず。ほかの製薬会社も風邪薬、売っているからね、ですって? うーん、それってありかな????――大沼)

 いまのWHOの事務局長って、韓国の李鐘郁さんって方なんですが、鳥インフルエンザが全世界的規模で流行するのは時間の問題だって言っています。

 2003年の発生以来、ベトナムを中心に東南アジア諸国で、これまで60人が死亡し、全世界で流行すれば数千万人も死ぬ恐れがあるとも言われています。

 アスベスト無策で国民の怒りを買っている日本の厚生労働省には、名誉挽回、こんどこそ、しっかりがんばってもらいたいところですね。 
 
 
 
 

Posted by 大沼安史 at 09:57 午前 1.いんさいど世界 | | トラックバック (1)

2005-10-18

〔NEWS〕 チェイニー副大統領 捜査の焦点に CIAエージェント漏洩疑惑 明日にも起訴の見通し 浮き足立つホワイトハウス ブッシュ政権、最大の危機に

 サダム・フセインのWMD疑惑に批判的な元外交官への報復として、外交官の妻(Valerie Plame氏)がCIAのエージェントであるとの機密情報がブッシュ政権高官から漏洩された、いわゆる「プレイム(Plame)・ゲート」事件の捜査が、大詰めを迎えている。

 米マスコミの報道によると、フィッツジェラルド特別検察官は、早ければ19日にも、漏洩事件に関わったブッシュ政権高官の起訴に踏み切る見通しだ。

 詰めの捜査の焦点は、チェイニー副大統領のオフィスが漏洩にどのような役割を果たしたか、同副大統領に直接、捜査の手が及ぶのか、に絞られている。

 漏洩事件の捜査でこれまで浮かんだ疑惑の高官は、副大統領のリビー首席補佐官とブッシュ大統領の政治戦略アドバイザーであるカール・ローブ氏の2人。

 ワシントンの北郊のローブ氏の自宅にはテレビなど報道各社が張り込み、「Xデー」に備える事態になっている。

 ブッシュ大統領の右腕であるローブ氏が捜査のターゲットになったことで、ホワイトハウスは浮き足だち、ローブ氏自身もパーティーでのスピーチをキャンセルするなど、最後のヤマ場を迎えた捜査の行方を固唾をのんで見守っている状況だ。

 15日には、ホワイトハウスのマクラーレン報道官が、記者団からの質問を冗談で交わそうとして失敗、もう一度、冗談を言って、またも冷笑を受ける失態を演じだ。

 それほど余裕を失い、平静さを取り繕っていることを示すエピソードだ。

 リビー首席補佐官を抱える、チェイニー副大統領のオフィスも緊張感に包まれており、ブッシュ政権は発足以来、最大の政治的な危機を迎えた。

 ブッシュ大統領は17日、「政権スタッフの辞任や離職はあるのか」との記者団の質問に対して、「捜査の結果の予測つもりはない」と答えた。

 ブッシュ政権がこの時点になって困惑しているのは、特別検察官の捜査の対象が、CIAエージェントの身元漏洩問題を超えて、イラク戦争開戦前の「情報の選択的漏洩」に及んでいたことだ。

 これは、ニューヨーク・タイムズのジュディス・ミラー記者の証言で、このほど明らかになった新事実で、事件は拡大の可能性を秘めている。

 フィッツジェラルド特別検察官のスポークスマンはAP通信の取材に対し、(起訴の)発表は、特別検察官の地元のシカゴではなく、ワシントンで行う、と述べた。
 発表内容の重大性を示唆したものと受けとめられている。

 ところで、チェイニー副大統領個人に対して捜査の手がのびる可能性について指摘したのは、ブルームバーグ通信の17日付けの報道。

 直接の立件には行き着かなくても、起訴状のなかで、チェイニー副大統領が身元漏洩事件で果たした役割のアウトラインが示されることもあり得るという。

 これに対してワシントン・ポスト紙は18日付けの報道で、チェイニー副大統領のオフィスが漏洩事件の焦点であると改めて指摘した。

 同紙によると、チェイニー副大統領はイラクWMD保有疑惑の旗振り役で、CIA本部まで足を運んで圧力をかけるなど、イラク戦争への下地づくりで中心的な役割を果たした。

 同紙は副大統領辞自身がマスコミ工作に直接、手を染めたとは考えられない、との元スタッフの見方を紹介している。

Posted by 大沼安史 at 03:38 午後 | | トラックバック (0)

2005-10-17

〔コラム 机の上の空〕  靖国は雨だった

 晴れていたら、よかったのに、と思った。

 大陸からの高気圧が日本列島を覆い、境内の空も天高く澄み渡っていたなら、すこしは違っていたろう。

 歴史のように、重く垂れ込めた雨雲。
 鳩さえも姿を隠した九段の杜(もり)。

 小泉首相の、ことしの初詣の舞台は、学徒出陣の朝のように、冷たく陰鬱な雨模様だった。
 
 首相自身、悔いの残る参拝だったかもしれない。

 雨さえ降らなければ……。
 雨さえ降らなければ、戦時中の記録映画のような、色あせた参拝にはならなかった。
 水色のネクタイは、やわらかな陽ざしの下、一筋のさわやかな印象を残したことだろう。
 

 すべてが寒々として、野暮ったかった。

 ずぼんのポケットから無造作に取り出し、祈りも込めずに、クイックモーションで投げ入れた賽銭。
 湿った賽銭箱からは、空耳の硬貨の音さえ、響いて来なかった。

 「フツーの国のフツーの参拝」をアピールするはずだったのに、ドブネズミ色の背広姿では、形式的に過ぎた。

 日本の神社の、秋の境内ではなかった。

 寅さんの映画の、お寺のふんいきの気配もなかった。紅葉の一葉さえも。

 雨さえ降らなければ、境内のどこかで、落ち葉を焚く姿も見られたかもしれないのに。

 戦争遂行を目的とした、神社でもないものが、神社としてあった。

 境内ではなく、兵営のような構内。

 晴れた日を選べばよかったのに、と思った。

 神風の吹かなかった「神の国」にも天気予報というものがあるのに、と思った。

 どうしても私人として参拝したいなら、おだやかな休日の朝にすればよかったのに。

 それも、暖色系のウォーム・ビスで。

 そうして、静かに、「非戦の祈り」を祈ればよかった。

 どうしてもこの日、参拝しなけれならなかったなら、やり方があったはずだ。

 朝、中国の首相に電話をかけ、「神舟6号」の成功をたたえたうえで、私人として参拝する真意を説明する時間的余裕はなかったのか。

 首相官邸に戻ってから、記者団にマイクを突きつけられたときだって、そうだ。

 そのときの「首相のひとこと」にアジアの全注目が集まっているのに、「決めゼリフ」が足りなかった。
 

 靖国に参拝して「二度と戦争はしない」と誓った。

 これはいい。少なくとも「もう一度、戦争をします」よりは。

 しかし、同じ科白の繰り返しだけでは、聞く者の心は動かない。

 英霊たちは戦争は二度とごめんだと言っている。わたしは先の大戦で亡くなられた方々の平和への祈りをともにするため、参拝した。わたしの靖国参拝は、戦争への反省と平和の祈りであり、非戦の決意表明である。

 と、どうして言えなかったのか。

 しかし、繰言は言うまい。
 問題は、次にどうするか、である。

 行かない方がいい。

 しかし、来年もまた、首相在任中に、どうしても靖国に行くというのなら、これは「英霊とともにする平和の祈りだ」「わたしは亡くなられた方々の非戦の祈りにこたえたい」と、なんとしても言ってほしい。

 そして、明確な謝罪の言葉を口にする。

 そうすれば、アジアの人びとの対日感情も、すこしは、やわらぐだろう。
 

 たとえ、その日、雨が降ったとしても、靖国からの首相の言葉は雲をつき抜け、北京の空にもソウルの空にも届くだろう。

 首相の平和の祈りと謝罪によって洗い浄められるのは、神社の石畳だけではないだろう。

 雨は日本とアジアの新しい友好関係を生み出す恵みの雨となり、そこに歴史の小さな泉を残すかもしれない。

 首相の花道は、たぶん、そこにある。
 
 
 

Posted by 大沼安史 at 10:50 午後 3.コラム机の上の空 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 イラクでの英軍兵士爆殺 使用された爆弾は英諜報機関がIRA(アイルランド共和国軍)にノウハウを提供したものと同型 諜報の闇、さらに深く……

 英紙インディペンデントの日曜版(10月16日付け、電子版)に、諜報の闇の深さを思い知らされる、驚くべきスクープ記事が出ていたので紹介したい。

 イラク南部で英軍兵士を爆殺するのに使われた爆弾が、15年ほど前、北アイルランド紛争が激化していた頃、英国からの独立を求める武装過激派、IRA(アイルランド共和国軍)が、英国の情報当局のスパイにより提供されたテクノロジーをもとに開発したものと同型であることが判明したという。

 英情報筋が同紙に対して明らかにしたところによると、英軍兵士を狙って使用された爆弾は、信号ワイヤ、ラジオ・シグナル、赤外線の3つの起爆装置を持ったもので、IRA内に浸透した英国情報部のダブルエージェントが教授した技術をもとに、IRAが完成させたものの同型改良版。

 英国のスパイがIRAに伝えたオリジナル版は、カメラのフラッシュを使ったものだが、その部分が赤外線装置に交換されていた。

 北アイルランド紛争が頂点に達していた1990年前後、IRAはパレスチナ過激派とも連係しており、イラク南部への技術流出は、レバノン南部の「ヒズボラ」経由のものではないか、とみられる。

 英国のエージェントがIRA側になぜ、ノウハウを供与したかについては、それを前提とした対策をとることができるため、としている。
 
 諜報活動の底知れぬ不気味さを覗かせる話ではある。

Posted by 大沼安史 at 10:42 午後 | | トラックバック (0)

2005-10-16

〔重要 NEWS〕 次は「サウジ」 イラク侵攻2ヵ月前 ブッシュ大統領がブレア首相に極秘電話で言明

 イラク侵攻の2ヵ月前、2003年1月に、ブッシュ米大統領がブレア英首相との極秘の電話会談で、「WMD(大量破壊兵器)の拡散に対処するため、イラクを超えて次に行きたい思っている」と述べ、イラク戦争に続く軍事行動を計画していることを通告していた。

 英インディペンデント紙が10月16日、英首相府の機密文書を暴露し、報道した。

 会話を記録した文書によると、ブッシュ大統領は次なる目標として、「サウジ、パキンスタン、イラン、北朝鮮」の4ヵ国を、その順番で名指しした。

 ダウニング街の英首相府は「漏洩した文書に対してコメントはしない」と言明を避けたが、否定はしなかった。

 同紙によれば、英国の国会議員たちはとりわけ、ブッシュ大統領がサウジを次の目標の筆頭に挙げていることに衝撃を受けているという。

 サウジのサウド王家は米軍の駐留を認めるなど、ブッシュ政権のイラクにおける軍事行動に協力してきたからだ。

(大沼注)

 ブッシュ大統領が次なる軍事行動の対象の筆頭にサウジアラビアを挙げたことは、実は驚きでもショックでもなんでもない。

 ブッシュ大統領は政権につくやいなや、チェイニー副大統領を長とする「全米エネルギー政策開発グループ」(NEPGE)をスタートさせ、米国の中東石油資源確保戦略の検討に着手したとされている。

 このNEPGEによる報告書は2001年5月にまとまったものの、なぜか、ただちに機密文書とされた。

 このため、連邦政府の会計検査院(GAO)がホワイトハウスを相手に開示を求めて裁判を起こす事態にもなったが、提訴は取り下げられ、機密扱いは依然として解除されていない。

 こうしたなかで、保守派の監視団体である「ジュディシャル・ウオッチ」と、環境団体の「シエラ・クラブ」が異例の共闘を組み、情報自由法に基づき機密の解除を求めた。

 その結果、2003年7月に、報告書のなかの7頁のみが開示されることになったが、このなかにサウジ、イラク、ペルシャ湾西岸を結ぶ「黄金の三角形」内の石油埋蔵マップが含まれていた。

 こうした事実を踏まえ、イラク戦争がWMDに名を借りた石油資源確保戦争であるという見方は、少なくともイラク戦争反対派の間では「定説」と化している。

 サウジはイラク(世界第2位の埋蔵量)を上回る世界最大の石油資源国。

 アルカイダなど不安定要因を抱えるサウジを、米国が軍事統治下に置こうと考えたとしも不思議ではない。

 今回、暴露されたブッシュ大統領の言明は、その意味で正直かつ率直なものと言わねばならない。
 
 
 

Posted by 大沼安史 at 06:45 午後 | | トラックバック (0)

〔いんさいど世界〕 追い詰められたシリア・アサド政権 内相「自殺」 謀殺説も

 シリアの首都ダマスカスの内務省内の自室で10月12日夜、「自殺」したガジ・カナーン内相の葬儀が13日に行われた。

  シリア国旗に包まれた棺は、ダマスカスから、内相の出身地、バムラの村まで葬列の車で運ばれ、埋葬された。棺が安置されたのは、4年前、内相自ら掘った場所で、両親のそばで眠りについたという。
 

 英国BBC放送によれば、葬儀に合わせ、シリア当局による遺体の検死結果が発表された。
 38口径の私物の拳銃を咥えて発射し、即死していた。内相はいったん自宅に帰って、45分間を過ごし、庁舎に戻って自殺した。
 

 カナーン内相は2004年に就任するまで、駐留シリア軍の司令官として、約20年間、レバノンに君臨していた人物。
 

 ことし2月、レバノンの首都ベイルートで起きたハリリ・レバノン元首相暗殺事件との絡みで、この9月に、事件を捜査している国連調査委員会から事情を聴かれていた。
 (この事件では、レバノン軍のシリア寄り将軍4人が逮捕されている)
 

 このため、カナーン内相の突然の死は、ハリリ元首相爆殺事件と深く関わった「自殺」ではないか、との見方が、これまでも支配的だった。シリア当局の発表は、その「自殺」説を公式に確認するものである。
 

 カナーン内相は「自殺」の直前、レバノンの右派キリスト教系のラジオ局、「レバノンの声」の女性ジャーナリストに対し、「最後の宣言」をして、ハリリ暗殺事件への関与を否定していた。それがまた、逆に自殺説を裏付けるものとされていた。

 しかし、こうした見方に対し、疑問の声が出ていることも事実である。

 カナーン内相は、ほんとうに「自殺」したのだろうか? 「他殺」ではないか? 自殺であれ、他殺であれ、その動機は何か?

 レバノン時代のカナーンを知る、英国インディペンデント紙ののベテラン・ジャーナリスト、ロバート・フィスク記者は、10月13日付けの記事でこう語る。

 「カナーンはほんとうに自殺したのか、それともバース党の情報機関がこれ以上、生かしておくのは危険すぎると決断したのか? わたしの知るカナーンは自殺するような男では決してなかった」と。

 フィスク記者は、このような慎重な言い回しで、もうひとつの可能性、シリアの支配政党、バース党の情報機関による謀殺説をにおわせているわけだ。

 なぜ、カナーンはシリア当局にとって(アサド大統領を頂点としたバース党の独裁体制にとって)「危険すぎる」人物だったか?

 これについて、フィスク記者はなんら直接的な言及をしていないが、、カナーンがレバノン駐留中、「ムカバラート」というシリア軍情報部の部下らとともに、大規模集合住宅プロジェクトをめぐる汚職事件に関与して、私腹を肥やした疑いがあることに触れている。

 レバノンの実業界の実力者だったハリリ元首相の関係を臭わせる指摘である。

 この点に関する、フランスのルモンド紙の報道(10月13日付け)は、もっと率直だ。

 カナーンがハリリ元首相から「数百万ドルの贈り物」を受けていた、との噂を紹介しているのだ。

 つまり、カナーンとハリリとは、裏で親交を結んでいた可能性が強い。

 だからこそ、カナーンはハリリ氏に近い、キリスト教右派のラジオ局に身の潔白を訴えのだという推論も、ここから出てくる。

 ここまでの記述で、すでになるほどと思う方もおられようが、レバノン・シリア問題に詳しい関係者ならいざ知らず、やはりこれだけでは、なぜシリアのアサド大統領にとって、カナーンが「危険すぎる」なのか、十分な説明にはなっていない。

 この点について、アメリカの中東ジャーナリスト、マイケル・ヤング氏は、「リーゾン」電子版(10月12日付け)で、以下のような見方がある得ることを示唆している。

 つまり、ハリリと近いカナーンが米軍シリア侵攻と呼応して、アサド体制を打倒し、シリアに親米政権を樹立する筋書きがあったのではないか、との観測だ。

 そこでアサドは口封じに動いた。

 死人に口なし。

 かりにこの21日にも発表される国連調査委員会の報告書で、ハリリ暗殺をシリアの仕業とされても、カナーンに全責任をかぶせることができる……。
 

 こういう読みである。
 

 これに対して、筆者(大沼)としては、この推論の流れや背景については異論がないが、カナーンがクーデターを企てようとしていたという説に与することはできない。
 

 その理由は、ブッシュ政権が数ヵ月前、カナーンの在米資産を凍結したこと。
 

 その時点ですでにアメリカは、カナーンをアサド打倒のパートナーとして不適格との結論を出していたはず。

 したがって、アサド大統領にとってカナーンは、その時点以降、その意味における危険きわまりない男でなくなっていた思われる。
 

 とすると、(強いられた)自殺であれ、他殺であれ、残るのは、国連報告書発表を前にした、アサド体制護持のための生贄説のみ。
 

 シリアはつまり、内相という政権の大黒柱を切らねばならぬほど、追い詰められているのだ。

  アサド大統領は「ハリリ暗殺にシリアは一切、関与していない」と繰り返し断言してきた。
 その主張が国連報告書で崩れれば、米軍によるシリア侵攻の格好の口実ともなりかねない。
 

 シリアを「北方脅威」とみるイスラエルのシャローム外相は13日、アサド大統領がカナーンをスケープゴートに逃げ切りを図ろうとしていると非難した。
 

 イスラエルの盟友である米国のブッシュ政権内では米軍のシリア侵攻論が強まるなか、ライス長官ら国務省サイドの慎重論を唱えて抵抗していると伝えられている。
 

 筆者(大沼)は先に、シリアよりイラン空爆の可能性が高いという見方を示したが、どうやら、そうとばかりは言えなくなって来た。
 イラン空爆とともに、少なくとも部分的な、米軍によるシリア侵攻も、同等の確立であり得る情勢である。
 

 それもこれもイラク新憲法の国民投票の結果と、ハリリ暗殺に関する国連報告書の内容、そしてブッシュ政権の命取りにもなりかねない「プラムゲート」事件の行方如何にかかっている。
 

 さまざまな変数がどんな結末をもたらすか、今月中がヤマ場であることに変わりない。
 
  
 

Posted by 大沼安史 at 03:51 午後 1.いんさいど世界 | | トラックバック (0)

〔教育改革情報コラム 夢の一枝 ①〕         「ギャップ年」の勧め、「予約入学」の提案

 「ギャップ年(gap year)」。

  そういう英語があることを、最近のワシントン・ポスト紙で知った。

  10月11日付けの同紙の記事、「大学への道で、ドトールするティーン(10代)らが増えている」で教えてもらった。
 

 大学に行く途中、全国チェーンの、あのコーヒー店に毎日、立ち寄る、それが「ギャップ年」の意味ではない。

 高校卒業後、大学生活をそのまま始めるのではなく、1年間のドトール(detour)、つまり「寄り道」をする。それが、「ギャップ年」だ。

 ギャップとはもちろん、有名衣料チェーンの店の名でもあるが、「溝」といった意味を持つ、これまた英語である。
 日本語にもなっている。「彼とわたし、考え方にギャップがありすぎるのよね」の、あの「ギャップ」。

 ポスト紙によれば、アメリカでも日本同様、「学習」一筋、わき目もふらず、ひた走り、大学に合格したのはよいが、そこで燃え尽き、目的を見失ってしまう若者が増えている。

 そんななかで、かの地では、そんな大学生にはなりたくない、したくない、というまっとうな考え方が、若者の間にも、大学当局の間にも生まれ、それが「ギャップ年」を広げている、という。

 具体的には、どうやって「ギャップ年」をとるのか?

 大学に合格したら、1年間の休学を認めてもらう(大学の側はその申し出を認める)。そして、その1年間を好きに使って、自分を見つめ直す。

 ギリシャのクレタ島で羊飼いをしたり、ロック・バンドで音楽活動をしたり、ロシアの孤児院でボランティアをしたり。

 そんな経験のあと、大学生活をスタートさせる――これが「ギャップ年」、寄り道してからの再スタートである。

 欧州が先進地で、とくに英国では10%以上もの大学進学者が1年間、さまざまな経験を積んでいるそう。ウイリアム王子はチリの南部でボランティア活動し、ハリー王子はアフリカなどの孤児院で働いたという。

 このシステム、日本でだってできないことではないだろう。

 「病気などやむをえない事情」による「休学」の制度を、拡大かつ柔軟に運用すればなんとかなるはずだ。

 「予約入学」制度を新設して、入試合格者には、1年後の「入学」資格を付与するようなことも、考えられる。

 大学全入時代、それくらいの柔軟さがあってしかるべきだ。学生募集のセールスポイントにもなる。

 もちろんこれは、教育行政の検討課題にもなるべきことである。

 「ゆとり教育」を自らつぶし、子どもたちの「夏休み」まで取り上げてしまったのだから、せめてもの罪滅ぼしに、文科省のみなさん、いかがですか?、この「ギャップ年」のアイデア。

 いくらなんでも、考え方にギャップ、ないですよね? 
 
 
 
 

Posted by 大沼安史 at 09:48 午前 2.教育改革情報 | | トラックバック (1)

2005-10-15

〔NEWS〕 「投票所はどこ?」 スンニ派地域 選挙妨害の疑い

 YaHooニュースが報じたロイター電(10月14日発)によると、スンニ派住民の多いイラク西部のアンバル州で、新憲法をめぐる国民投票の直前になっても、「投票所」が見つからない事態が続いている。

 ラマディーの人権活動家によると、イラク国内18の州のうち、もっとも人口の多いアンバル州の各都市では、投票日まであと数時間という段階になっても、投票所がどこにあるのか不明の状況にある。

  投票用紙さえもどこにあるのか、わからないという。

 ロイター通信の取材に対して、イラク選挙管理委員会の責任者は、「ラマディーには77ヵ所、ファルージャには約30ヵ所、投票所が設けられているはず。投票所を見つけられない人は、選管まで連絡してほしい」と語った。

 今回の国民投票では、イラク国内3つの州で、3分の2以上の反対票が出れば、憲法草案は採択されないことになっている。

 (大沼注)
 スンニ派武装勢力の拠点にもなっているアンバル州では、間違いなく3分の2以上の反対票が出るものと予想されている。

 そうした事態を防ぐため、イラク政府、米軍側が、投票を妨害する行動に出ている公算が強い。

 これが「歴史的な選挙」の実態だとは……
 
 

Posted by 大沼安史 at 10:48 午後 | | トラックバック (0)

〔いんさいど世界〕 「毒ガス」漂う、日中間の歴史の闇を晴らす

 旧日本軍が中国に遺棄した化学兵器の処理問題を話し合う、日中両国政府の協議が10月4日、北京で行われたことを、遅まきながら知った。
 それも、パキスタンの英字紙のサイトで。

 ネットで調べてみると、共同通信の北京電で、「初の次官級の協議」だということがわかった。

 朝日新聞のサイトに載った「人民日報」の記事によると、中国政府の外交部の副部長と、日本の内閣府事務次官による協議だったという。

 これまでにない、高いレベルにおける両国政府間の協議である。

 旧日本軍が中国に残して来た「毒ガス」の処理問題が、ますます重要な課題になって来ている。
 協議でのやりとりを、歴史の記録として残しておこう。
  
 〔For the Record〕

 「人民日報」によると、中国の武副部長は、

  中国の国民は、日本軍国主義の中国侵略戦争の中で化学兵器による被害を受けた。その後60年の中では、遺棄化学兵器による被害を受けた。

 中国は、日本が「化学兵器禁止条約」や旧日本軍が中国国内に遺棄した化学兵器の廃棄に関する中日両国政府の覚書の規定に基づいて、負うべき責任と義務を適切に引き受け、遺棄化学兵器をできる限り早く徹底的に廃棄し、遺棄化学兵器が中国の関連地域に住む人々の生命、財産、生態環境の安全に与える脅威と危害を早期に取り除くよう強く求める。

 と語った。

 これに対して、江利川毅事務次官は、

 日本政府は、中国に遺棄された化学兵器の処理に関する問題を強く重視している。この問題の解決を通して、歴史の負の遺産を取り除くよう努め、これにより両国関係がよりよく未来に向かうことを望む。

 日本は、国連の「化学兵器禁止条約」に基づいて、人や環境の安全確保を前提として、できる限り早く遺棄化学兵器の廃棄を行う。

 日本政府は、遺棄化学兵器が中国の人々を死傷させたことに遺憾を深く感じている。同様の事故の再発を防ぐために、日本は処理作業をさらに加速させていく。
 
 と語った。

 
 周知のように、日本政府は、国連の「化学兵器禁止条約」に基づき、2007年まで(ということは2年以内に)、旧日本軍が中国に捨てて逃げてきた、未使用の毒ガス砲弾、推定70万発以上を発掘・処理しなければならない。

 しかし、これまでに処理が終わっているのは、「4万発余り」(朝日新聞、9月7日付け報道)。

 まだ、大半の毒ガス弾が、中国の大地に眠っているわけだ。

 毒ガス被害もあとを絶たない。中国側のデータによると、旧満州の中国東北部を中心に、約1000件の漏洩事故が発生し、2000人以上が死傷している。

 2003年8月4日には、黒龍江省チチハルで、毒ガス弾からイペリットガスが漏れ、1人が死亡、43人が被害を受けたという。
 

 中国の英字紙、チャイナ・デイリーによれば、北京での協議では、具体的な処理作業についても話し合われた。
 

 日中共同の処理作業がこの19日から4日間の日程で、吉林省のDunhuaで始まる。
 Dunhuaでは、2004年7月に、2人の子どもが漏れた毒ガスを浴びる事故が起きている。

 言うまでもなく、毒ガス(化学兵器)は、当時も、ジュネーブ条約で使用が禁止されていた非人道兵器である。ブッシュ大統領のいう「WMD(大量破壊兵器)」のひとつである。

 それが戦後60年経ったいまごろになって、亡霊ではなく、現実の脅威として、凶悪な姿を現しているのだ。
 

 毒ガス弾が非人道的な兵器であることは、それを中国に持ち込んで使用し、使い残しを捨てて来た旧軍、あるいは皇軍そのものが人道にもとる軍隊だったことを意味する。恥ずかしい限りである。

 日本の歴史教科書の書き変えに熱心な人々は、この事実をどう受け止めるのだろう。

 南京大虐殺を「小虐殺」でした、とか、「幻だよ、事実無根、無視、無視」などと言って来られた方々の見解を知りたいものだ。

 こんどの「毒ガス」問題も、ヤラセだ、ウソだと言い張るなら、日本国内でばかり威張っていないで、中国の処理作業の現場に行って、深呼吸してからにしろ、と言いたい。ついでに南京にも行って、現地の人々に向かって、「みなさん、目をさましなさい。大虐殺はなかったんですよ」と叫んでからにしてほしい。

 今回の日中次官級協議は、前記の共同通信の報道によれば、日本側からの働きかけで実現したものらしい。
 小泉内閣の前向きな姿勢を評価したい。

 歴史を直視し、反省すべき点は反省し、謝るべきことは謝る。

 日中間の友好を閉ざす、歴史の闇を、一日も早く、晴らしていく。

 「毒ガス」の処理は、その最初の試金石である。
 
  
 

 パキスタンの英字紙のサイトの記事は ⇒

 http://www.jang.com.pk/thenews/oct2005-daily/15-10-2005/world/w3.htm

 「初の次官級会議」を報じる記事は ⇒

 http://news.goo.ne.jp/news/kyodo/kokusai/20051014/20051014a3500.html

 朝日新聞サイトの「人民日報」の記事は ⇒

 http://www.asahi.com/international/jinmin/TKY200510150164.html

 朝日新聞のことし9月7日付けの記事は ⇒

 http://www.chinadaily.com.cn/english/doc/2005-10/09/content_483326.htm

 チャイナ・デイリーの記事は ⇒

 http://www.chinadaily.com.cn/english/doc/2005-10/15/content_485071.htm

 その他、参考記事 ⇒

 http://www.asahi.com/special/050410/TKY200507300177.html

 http://www.asahi.com/international/jinmin/TKY200509070255.html

Posted by 大沼安史 at 09:59 午後 1.いんさいど世界 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 「平和の母」、シュワ知事にアピール

 イラク反戦運動の「平和の母」こと、シンディー・シーハンさん(米カリフォルニア州在住)は10月12日、州都サクラメントで、シュワルツネッガー知事との会見を申し入れた。

 サンフランシスコ・クロニクル紙によると、シンディーさんは知事本人に直接、会うことはできなかったが、知事側近を通じ、イラクへ送られているカリフォルニア州兵2300人を即刻、引き揚げるよう求めた。

 これに対し、知事の報道官は、「知事は大統領のテロとの闘いを支持している」と語り、知事が州兵の帰還のため、動く考えのないことを明らかにした。
 

  州兵を帰国させる権限は州知事にはないが、連邦政府にリクエストすることはできる。

 シンディーさんは州兵引き揚げを求める理由のひとつに、「ナショナル・ガード」(州兵=ほんらいは、「国土防衛隊」と訳すべきもの)の、地震など自然災害への備えを挙げた。

 これについて、カリフォルニア州兵当局は、まだ5800人が残っているので、対応できる、と述べた。

 〔For the Record〕 サンフランシスコ・クロニクル紙の記事、こんなシンディーさんの言葉が引用されている。

 彼女の苦悩と思索、決意と希望のすべてが結晶化されたワン・センテンスである。米国人にとって、イラク戦争に反対する理由とは、この一文が運ぶ意味に尽きる。

      “I want them to come home alive from this lie. ”
 

Posted by 大沼安史 at 09:41 午前 | | トラックバック (0)

2005-10-14

〔For the Record〕 国会議員たちの、この「軽き一票」 素晴らしき哉、われらが選良 寝返り自由な赤じゅうたん

 参議院で10月14日、郵政法案が賛成多数で可決された。法案の中身も、議員の構成も変わらない。なのに、ちょっと前に「否決」したのが、今回はすんなり「可決」。これはいかなる魔術のなせるわざか。

 かの日のNOは、本日のYES。これ、政治屋どもの常識なり。赤じゅうたんの上では、寝返りも変節も自由自在。いやはや、たいへんな「選良」どもを持ったものである。

 かく言う小生(大沼)、何を隠そう、郵政法案への反対論者ではない。むしろ賛成派である。

 目下、進行中の小泉改革なるもの、史上空前の借金超大国化したこの国の財政を、なんとか延命させようとする、ほとんど絶望的な闘いであり、その意味で、財務省主導のよる「上からの革命=構造改革」を目指す小泉内閣に、賛意と敬意と同情を表せざるを得ない立場だ。

 が、そうした国家運営(行政)と国会(立法)は別物である。 

 国会議員は有権者たる国民の「一票」でもって選出され、国民によって直接、国会へと送り出される。内閣総理大臣はそうした国会議員による選挙で決まるもので、いわば国民の「間接投票」の結果である。

 国会議員(とくに衆議院議員)とはすなわち、国民に直接、責任を持つものであるわけだ。

 そういう国会議員に、ひょいひょい、立場を変えられたら、国民(有権者)はたまったものではない。なんのための「付託」か、わからなくなってしまう。

 そういう、あってはならないことが、総選挙後、再び上程された「郵政法案」をめぐる衆参両議院での採決であった。

 郵政法案に「反対」した議員が、ちゃっかり、「賛成」に回ったのである。

 その意見180度転換の論理や如何。

 衆参両院の変節者代表に登場していただこう。

 衆院議員では、やはり野田聖子議員に、おでましいただかなければなるまい。

 衆院本会議で賛成に回った「理由」を、聖子センセーは、こうHP上で弁明する。

 「郵政改革は進めるべき。ただし、郵政民営化6法案には問題がある」という私の信念は今でも変わっていません。しかし、総選挙を挟み、法案反対の意味は全く異なるものになりました。総選挙前、本会議での反対によって法案を廃案にする可能性があったからこそ私は青票を投じ、別に提出していた対案を軸に郵政改革を進めることを目指しました。

 総選挙後、状況は一変しました。与党が圧倒的多数を占める国会で、私が再び反対しても法案成立を阻止することはできません。法案に修正をかけることさえできないのが現実です。私は法案の不備を将来的に是正し、よりよい郵政改革に結びつけるにはどうしたらよいのか、支持者の考えや思いにも再び、耳を傾けさせていただきました。無論、自民党員たる議員として民主党の対案に賛同する考えはありません。自民党では今回の法案再提出にあたり、政務調査会や総務会において全会一致で了承をとりつけました。私はこれまでも党員として、党の正式決定は最大限尊重し、棄権や欠席ではなく賛意をもって従ってきました。これらあらゆる点を熟慮し、私は郵政民営化法案に賛成することを決断しました。そして、法案反対の野田だからこそ支持してくださった方々からのご批判も甘んじて受けたいと思います。

 
 信念は変わっていない。でも、状況は変わった。だから、法案に賛成した。批判は甘んじて受ける……よくもまぁ、ぬけぬけと言えたものだ。「法案反対の野田だからこそ支持してくださった方々」の「一票の重み」をどう考えているのか?

 開いた口がふさがらないが、参議院における変節漢の代表、中曽根弘文議員になると、さらに深刻である。

 あの風見鶏宰相の「愚息」(康弘氏がまともな政治家、かつ父親であれば、弘文氏を愚息と表現するであろう)らしく、変わり身が速い。

 弘文氏は自分のHP上で、郵政法案に「賛成」票を投じたあとも、堂々と以下の主張を展開している。

 このように解散・総選挙をちらつかせ、真の議論を封殺するようなことは、「再考の府」とも言われる参議院の自由な審議権や独自性を無視し侵害するものであり、二院制を形骸化させ、議会制民主主義を崩壊に導くものであると考える。郵政法案の中身の良し悪しから離れた理由を以って結論を出させられるようでは、立法府は行政府の単なる追認機関となってしまう。
 私は、国民生活と国益、そして議会政治を守り、二院制の下での参議院の使命を充分果たすことこそが重要であると考える。

 ならば、どうして「反対」を撤回したのか?
 最後まで、風向きが変わっても、それがたとえ逆風であっても、信念を貫くのが、空っ風・上州選出の参議院議員の姿ではないのか?

 かくも軽き、議員たちの「一票」。

 その「軽さ」は、国民の「一票」の重みをなめているからにほかならない。

 彼(女)らはしかし、どう変節しようと、赤じゅうたんに立つ限り、責任を問われないことを知っているのだ。

 議会内における政治活動の自由を保障した、国会規則を逆手にとって、清き一票を投じた国民を嘲笑する。  
 
 規則にいわく、「両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない」。

 そう、たしかに、あなたがたは「院外」では責任を問われないだろう。
 

 でも、勘違いしてもらっては困る。

 わたしたちは、「院内」でのあなたたちの責任を問うているのだ。
 

 国民の模範たるべき、政治家としての。

 

 変節議員は、いますぐ辞表を提出すべきである。

郵政法案参院で可決・成立については ⇒

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051014-00000084-mai-pol

野田聖子議員の釈明については ⇒

http://www.noda-seiko.gr.jp/171013.html

中曽根弘文議員の言明については ⇒

http://www.hiro-nakasone.com/com/com06.html

Posted by 大沼安史 at 11:41 午後 | | トラックバック (0)

〔コラム 机の上の空〕 イラク反戦 ノーベル賞受賞 ハロルド・ピンター氏の言葉

 英国の劇作家、ハロルド・ピンター氏(75歳)が、ノーベル文学賞を受賞した。

 東欧から来たユダヤ人の移民の子。ロンドンの東、ハクニーの洋服屋の倅。

 子どもの頃、ユダヤ人迫害を経験したことが、その後の人生を決定づけた。いわれなき差別と抑圧。それに対する内心の抵抗。

 演劇学校に進んで、アイルランドの劇団で役者となり、1957年、最初の戯曲、「部屋」で劇作家としてデビューした。

 「短く、ときに威嚇的な言葉を使って、無力と支配、顔のない国家の圧制をテーマに、探り続けて来た」(ニューヨーク・タイムズ紙)という。

 政治的な立場を鮮明にした人でもある。

 イラク反戦!

 ブレア政権の戦争遂行に反対し、アメリカの暴力的な帝国主義を批判して来た。
 「特別な関係」という詩を書いて、米英両国の同盟が腐朽していくさまを描き出した。

 そういう劇作家がノーベル賞を受賞した。

 即時停戦を求めるその声に、ジョージ・ブッシュら、戦争屋どもは、大言壮語と嘘と脅迫で詰まってしまった耳穴をかっぽじり、姿勢を正して、しっかり聴き入るべきだろう。

 世界は最早、メソポタミアのシアター(戦場)での残虐と悲惨に耐え続けることはできない!

 英国のインディペンデント紙(10月14日付け、電子版)に、ピンター氏がことし、「ウィルフレッド・オーウェン賞」を受賞した際のスピーチの抜粋が載っていた。

 ウィルフレッド・オーウェン(1893-1918年)は、英国の戦争詩人。第一次大戦に参加し、西部戦線で戦死した。

 ピンカー氏は、彼(オーウェン)が生きていたら、イラク侵略をなんと詠うか、と自問し、自らこう答える。

 狼藉、明らかな国家テロ、国際法に対する侮蔑の証明、嘘の上に嘘を重ねた嘘シリーズで鼓舞された恣意的な軍事行動、大掛かりなメディア、大衆の操作…………

 米英がもたらした諸悪を次々に、言葉の舞台へと呼び込んだあと、主役の二人、ブッシュとブレアが鏡のなかで自分たちの姿を見たら、どう見えるか、と続け、最後にこう締め括る。
 

 「わたしは信じています。米英両政府の言動に対する、わたしたちの(彼らに対する)蔑みを、わたしたちの憤りを、わたしたちの吐き気を、わたしたちの恥辱を、ウィルフレッド・オーウェンもまた、あわせ持っている、と」

 その蔑みと憤り、吐き気と恥辱を、日本のわれわれもまた、ともにしなければならない。
 
 
 
 
 

Posted by 大沼安史 at 07:55 午後 3.コラム机の上の空 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 「ザワヒリの手紙は捏造」 「イラクのアルカイダ」が主張

 湾岸ドバイ発のロイター電(電子版)によると、アルカイダのイラク支部を名乗るグループは10月13日、先に米情報当局が公表した、アルカイダNO2のザワヒリからの「手紙」は捏造文書である、との声明を、イスラムサイトに掲示した。
 
 (大沼注)これはあくまで試論に過ぎないが、筆者(大沼)の状況判断によれば、「ザワヒリ書簡」は本物の可能性が高い。

 ザラクァイが率いるテロ集団の「暴走」が、スンニ、シーア両派の対立を制御不可能なまでに先鋭化させている現状は、とりあえず国民投票でイラク新憲法を成立させたい米国の短期的な利益に反するものである。

 そこで、ブッシュ政権としては、国民投票前というタイミングを見計らい、例の「文書」を公開した。

 そうすることで、イラク国内的にはスンニ過激派の動きを抑える一方、アメリカ国内的には、アルカイダがイラクのテロリストと「関係あり」とする、これまでの「主張」を裏付けようとしたのではないか――これが、筆者の推論である。

 ロイター電は ⇒

http://today.reuters.com/news/newsArticle.aspx?type=worldNews&storyID=2005-10-13T160906Z_01_WRI354641_RTRUKOC_0_US-IRAQ-QAEDA-LETTER.xml&archived=False

Posted by 大沼安史 at 09:05 午前 | | トラックバック (0)

2005-10-13

〔NEWS〕 AP電 日本政府 330万ドル イラク警察に供与

 ジャパンタイムズ紙に掲載されたAP電によると、日本政府は自衛隊の駐留先のサマワを管轄するムサンナ県の警察に対し、330万ドルを供与する。

 日本外務省が10月5日に発表した、という。

 ムサンナ警察への供与は、英軍、豪軍の撤退に先立って行われる。

 日本政府の決定は、ムサンナ県側からの要請に応えるもの。供与する資金は、現地警察官の訓練などに充てる。

 詳しくは ⇒ 

http://www.japantimes.co.jp/cgi-bin/getarticle.pl5?nn20051013b8.htm

Posted by 大沼安史 at 05:22 午後 | | トラックバック (0)

〔コラム 机の上の空〕 低学力の「神の国」に、舟、いまだ来たらず

 中国が有人宇宙船「神舟6号」の打ち上げに成功した。天空に飛び立った2人の宇宙飛行士の無事の帰還を祈ろう。

 「神舟」、神の舟。ネーミングもいい。神の舟に乗って、飛翔する、2人の中国人。宇宙服姿の写真を見て、孫悟空を連想した。

 アジア発の有人宇宙飛行。まさに快挙である。

 中国の科学技術の精華を見る思いがする。

 もともと中国は古来、科学が発達した国だった。火薬がその格好の例である。
 「神舟」打ち上げ成功は、新たなる中国文明の夜明けを告げる歴史的出来事といえるかも知れない。

 それに比べて、わが日本は情けない。

 恰幅のいい総理大臣が「日本は神の国」だ、なんて言って威張っていたのに、有人の舟を空に飛ばすことさえできない。

 文部科学省所管の「宇宙航空研究開発機構」(JAXA)が、豪州の実験場から「小型超音速実験機」なるものを打ち上げて、喜んでいるありさま。

 レベルが違いすぎる。

 責任官庁たる文科省は、いったい何をしているのだろう。莫大な税金を使っているのだから、少しは責任を感じてもらいたいものだ。

 そう、有人飛行船打ち上げレースに遅れを取ったのは、あなたがたの力不足のせいだ。

 あなたがたの言葉を使えば、「学力不足」。
 もっと端的に言えば「低学力」。

 有人宇宙船を開発するだけの、知的・技術的レベルに達していない。

 子どもたちの「低学力」ばかり問題にしないで、自分たちの無能ぶりを少しは反省してもらいたいものだ。

 米航空宇宙局(NASA)のHPを見たら、「神舟6号」の打ち上げ成功を喜ぶ、グリフィン長官の声明が発表されていた。

 「中国は人類の宇宙飛行を可能とした、いくつかのエリートの国の仲間であることを立証した」と。

 日本のJAXAのHPにも、文科省のHPにも、13日の午前9時時点で、「神舟」打ち上げ成功に関する声明は載っていない。

 「低学力」の「神の国」に舟がなくても、礼儀くらいは欲しかった。
 
 米航空宇宙局のコメントは ⇒ 

http://www.nasa.gov/home/hqnews/2005/oct/HQ_05343_Griffin_China_statement.txt

Posted by 大沼安史 at 10:19 午前 3.コラム机の上の空 | | トラックバック (0)

2005-10-12

〔NEWS〕 アルカイダNO2 「ザワヒリからの手紙」を読む

 米国諜報網のトップに立つ、ネグロポンティ情報長官のウェブサイトに、アルカイダのNO2であるザワヒリ容疑者から、「メソポタミアのアルカイダ」を名乗る、在イラクのテロリスト・リーダー、ザラクァイに宛てた書簡とされる文書が掲示された。

 米政府高官からのブリーフィングを受け、米マスコミが10月12日に一斉に報じた。

 ニューヨーク・タイムズ紙もまた、この文書が「初めて明らかになった、ザワヒリからザラクァイあての手紙」であると断じている。

 本当だろうか?
 各紙の報道を検証し、ウェブサイトに載った、「無修正」(政府高官)の書簡の英訳全文に目を通してみた。
 
 まず、米国がこの「書簡」をどのような経緯で入手したかについて、政府高官は「イラクにおける反テロ作戦行動のなかで手に入れたもの」とだけ述べた。

 「書簡」がザラクァイあてのものであることについて同高官は、「それは絶対間違いない」と断言した。しかし、米国の情報当局が、どのような経過でそうした結論にたどり着いたか、については口を噤んだ(ワシントン・ポスト紙)。

 ということはすなわち、ザワヒリからのザラクァイあての手紙なるものは、あくまでも米国の主張に基づくもの。それ以外の何ものでもない、ということである。

 そうした前提を踏まえた上で、「書簡」の内容を検討すると、「7月9日」付けの日付が記されたこの書簡は、ニューヨーク・タイムズ紙が指摘するように、驚くほど「静かで、繊細な言葉」で綴られていることである。情勢の分析・展望も、実にしっかりと冷静に述べられている。

 書簡について報道した米マスコミは、発信者がアルカイダNO2のザワヒリであることについて一様に疑問をさしはさんでいないが(あて先のザラクァイについては、ワシントン・ポスト紙がほんとうにそうなのかと疑問を投げかけている)、それも、むべなるかなの内容である。

 さて、この「書簡」の情勢分析で驚かされたのは、「米軍がイラクを間もなく撤退する」と予測していることである。

 「われわれの予測を超える速度で、物事は進展するかもしれない。ベトナムの崩壊後のことを知るべきである」と。

 アメリカは出ていく。問題はそのあとにどう備えるか。

 「アメリカ人や国連が撤退後の空白を埋める陰謀」をめぐらす前に、われわれは準備を始めなければならない。「われわれは、戦闘・戦争と平行して、フィールドワークを始めなければならない」と、ザワヒリは警告しているのである。「それが何より重要なことである」と。

 そのために何をなすべきか?
 ザワヒリは、そこでアフガニスタンの教訓を持ち出す。「タリバンが犯した誤りを繰り返してはならない」と釘をさすのだ。

 タリバンはアフガンの民衆を代表するものでなかったので、アフガンの民衆はタリバンを捨てた、と。

 タリバンのような狭隘な路線をとってはいけない。「同盟と協力、あらゆる意見と影響力を持つリーダーたちの結集による政治的なアクション」をとる必要がある。ザワヒリはそう繰り返し強調するのである。

 同盟と協力、あらゆる意見と影響力を持つリーダーたちの結集とは具体的にはどういうことか。

 それは、スンニ派、シーア派の仲間割れは止めにしろ、ということである。

 ザラクァイらスンニ派テロリストたちに向かって、もうシーア派に対するテロは止めなさいと言っているのだ。

 シーア派の一般民衆を殺害し、その場面をビデオで流して何になる。われわれにとって大事なことは「民衆たちの支持」であり、「われわれイスラム戦士(ムジャヒディン)は、民衆が承認・支持しない、いかなる行動もとってはならない」。これがザワヒリの「書簡」の核心にあるメッセージである。

 それどころかザワヒリは、「英語の諺にあるように、木の葉に隠れた者には樹は見えない」、イラクの同胞よ、現実を直視しろ、という警告さえしているのである。

 この書簡が、米情報当局が言うように、ザラクァイに宛てたものであるならば、それはアルカイダによる「指令文書」というよりも、「戒め」あるいは「訴え」の手紙と言ったほうが、むしろ実態に近い。

 「メソポタミアのアルカイダ」を名乗るザラクァイ一派の暴走に歯止めをかけようとする、必死の思いさえ感じられる手紙のトーンである。

 先述の通り、米国情報当局は、このザワヒリの書簡をザラクァイ宛てのものと主張し、そのことによって、アルカイダとザラクァイの連携、「9・11」と「イラク戦争」の関連性を浮き彫りにしようとしているわけだが、ザラクァイとアルカイダとの密接な「共謀」なり「共闘」関係は、公開された「書簡」のどこからも見えてこない。

 実態はマ逆。ザワヒリが書簡で何度も言っているように、アルカイダはイラク情勢を「遠くから」見ているだけなのだ。

 「書簡」の結びに、ザワヒリのこんな言葉がある。
 あなたがもし、(大沼注・バグダッドの西にある、武装抵抗勢力が一時立てこもった都市である)ファルージャに行くなら、ザラクァイによろしく言ってくれ、と。
 ネグロポンティ長官がアルカイダとザラクァイとの関係を証明する「動かぬ証拠」として公開したこの「書簡」は、結局のところ、両者の疎遠な仲と考え方の違いを際立たせる、仲介者にあてたものでしかないわけだ。

 アルカイダのザワヒリたちは、書簡にもあるように「(衛星放送の)アルジャジーラも見えない」(たぶんアフガンの)某所において、ザラクァイたちの行動に胸を痛め、その動機に疑問を投げかけているのだろう。

 シーア派のイラク人を殺戮するお前らは、イラクのタリバンではないか?と。
 もしそうでなけば、お前たちは、どこの回し者なのだ?と。

 ザラヒリたちの目は鋭い。

 書簡の全文は⇒ 

http://www.dni.gov/release_letter_101105.html

Posted by 大沼安史 at 05:46 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS 続報〕 「戦争のポルノ」サイト 開設者 逮捕さる

 イラクの戦地から送信された、残酷な写真を掲載していたポルノ・サイトの米国人開設者が逮捕された。 

 逮捕されたのは、フロリダ州在住のクリス・ウィルソン氏。 同氏の身柄を拘束した同州ポルク郡のシェリフは、逮捕理由について、ポルノ写真が問題であって、HP掲載の「戦場写真」とは無関係としている。

 これについて同氏の弁護士は、アメリカには数万のポルノサイトがあるのに、同氏だけが逮捕されたのは、氏のサイトにイラクやアフガンの米兵が撮影した収録されているためであり、不当な狙い撃ちだとしている。

 (大沼注)氏のサイトには、血まみれの人間の頭部がボールのなかに置いてある、といったひどい写真が数百枚、掲載されている、といわれる。 いずれも、HPの会員サービスを受けるため、米兵が戦場から送信したものだ。 

 戦争の真実が、映像として流出しては困る。それが当局側の本音なのだろう。 戦争をさせたい人は、見せたがらないものである。   

Posted by 大沼安史 at 10:29 午前 | | トラックバック (0)

2005-10-11

〔NEWS〕 バグダッドの盗賊 イラク前国防相らに逮捕状 10億ドルを着服

 YaHooニュースが10月11日に報じたAP電によると、イラク政府は同日までに、前国防相ら閣僚5人を含む前政府高官28人が、軍事調達費1億ドルを着服したとして、逮捕状を用意し、追及に乗り出した。

 米国が後ろ盾になって樹立したアラウィ前政権幹部による不正事件で、容疑者の多くはすでにヨルダンなどに逃亡しているものと見られる。

(大沼注) 「10億ドル蒸発」事件は、米国による傀儡政権のスキャンダルとして、かねて噂されていたが、シーア派、クルド人による新政権によって、今回、ようやく明らかにされた。

 イラク復興事業のブッシュ政権関係企業による「山分け」といい、今回の盗人騒ぎといい、アメリカの掲げる「イラク戦争の大義」なるものの実態が、透けて見える。

 イラクの流血の戦場に舞う、ハゲタカの群れ……。

 英紙報道によれば、問題の「1億ドルは、どこに消えたか、まったくの謎だそうだ。

 YaHooニュースは ⇒

http://news.yahoo.com/s/ap/20051011/ap_on_re_mi_ea/iraq;_ylt=AvtCJKHM23sQ34gTC_i7Auis0NUE;_ylu=X3oDMTA2Z2szazkxBHNlYwN0bQ--

Posted by 大沼安史 at 05:48 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS 至急電〕 イラク英軍 500人を撤収

 英ガーディアン紙(電子版)が10月10日に報じたところによると、英国のライド国防相は同日、イラクに駐留する英軍のうち、500人を来月(11月)までに撤退させると語った。

 現在、バスラなどイラク南部に駐留する英軍は8500人。

 このうちの6%、500人を撤収する。

(大沼注)本BLOGですでに報じたたように、英国は来年5月に向け、駐留イラク軍主力の撤退に向け、検討・準備に入っている(オブザーバー紙報道)。

 今回の「500人撤退」は、「主力撤退」に先立つ部分撤退の開始とも言えるが、イラク南部ではシーア派住民の間で、英軍撤退を求める声が高まっており、今回の発表は憲法制定の国民投票を前に、そうした現地の不満なり反発をかわす狙いもあると見られる。

 しかし、全体の6%の規模に過ぎないとはいえ、英軍が撤退を開始することは、ブッシュ政権のイラク政策にとって、大きな打撃となるのは必至。

 英軍撤退を阻むため、イラク南部に影響力を持つイランとの絡みで、米側が何らかの軍事アクションに出る恐れがますます強まったかたちだ。

 イラク駐留英軍の動向は、サマワの自衛隊の活動とも密接に関係するものだけに、日本政府としても対応を迫られるだろう。

 撤退する英軍500人がサマワ方面に配置された部隊であるかを含め、日本の主流マスコミの取材に期待したい。

 ガーディアン紙の報道は ⇒ 
 

http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1589047,00.html

Posted by 大沼安史 at 05:16 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 ルー村長は生きていた! 「中国のガンジー」 生存を確認

 殴打によって殺害されたのではないかと世界中の人々が心配していた、中国の草の根民主化運動のシンボル的存在である、ルー・バングリュエさん(34歳)の生存が確認された。
 

 ルーさんはことし8月、中国南部・広東に近い村で、村人により、腐敗した共産党官僚に代わって、村長に選出された。

 ガンジーを崇拝する非暴力主義者で、近隣の村の民主化運動を支援するなど、農村部に民主主義を根付かせる運動に携わっている。

 そのルーさんが、同行していた英国の新聞、ガーディアン紙特派員の目の前で、車から引きずり出され、暴行を加えられたのは、10月9日。

 その日、村長選挙の投票が行われるタイシという村に入ろうとしたときだった。

 タイシ村もまたルーさんの村と同様、党の官僚による汚職や不正が横行し、村人による抗議行動が続いていた。

 ルーさんはそのタイシ村の人びとを支援しており、現場にガーディアン紙特派員を案内する途中だった。

 ルーさんに対する殴る蹴るの暴行を目のあたりにしたガーディアン紙のジョフ・ワルト記者は、警察に一時拘束されたあと、一部始終を翌10日の同紙紙面で報道した。

 ワルト記者が最後に見たのは、道路の溝に意識不明で横たわるルーさんの姿。

 同記者はルーさんが死んだのではないかと思い、「彼らは命がなくなるまで殴り続けた」と報じていた。

 ルーさんの生存は、同じワルト記者が確認し、11日付けの同紙で明らかにした。

 ルーさんは地元の病院に運ばれたあと、自宅まで車で搬送された。

 当局が救急活動をしたのは、西側報道機関の目を意識してのことらしい。

 (大沼・注)

 ガーディアン紙(電子版)に載った記事にはルーさんの写真もついている。

   ⇒  http://www.guardian.co.uk/international/story/0,,1588521,00.html

 やせっぽっちで、どこにそんな強さがあるのか、わからない、フツーの人だ。

 1989年の天安門事件では、北京の大学のエリートたちが立ち上がった。

 そしていま、地方の農村のフツーの人が権力に立ち向かっている。

 このBLOGでは、こうした中国の民衆の闘いにも注目し、随時、レポートしていくことにしよう。
  
 

Posted by 大沼安史 at 03:42 午後 | | トラックバック (0)

2005-10-10

〔コラム 机の上の空〕 日高六郎氏の『戦争のなかで考えたこと』

 風邪がぶり返し、のどが痛む。朝、寝床のなかで、読みたかった本を読み出した。

 社会学者、日高六郎氏の『戦争のなかで考えたこと』(筑摩書房)。

 読み終えて、感想を書いておこうと思い、布団のなかから這い出した。
 

 中国の青島で育って、日中戦争の行方を見守り、東大の助手として敗戦の日を迎えるまでの、日高氏の回想録である。
 

 大事なことを、たくさん教えていただいた。日高氏が忘れなかったことのいくつかが、わたしにとっても、忘れえぬものになった。

 氏の体験と思索の一部が、戦後生まれのわたしのなかに、薬のようにしみわたった気がした。

 たとえば、1937年7月。旧制東京高校の生徒だった日高氏は、七夕の7日、下関から青島へ向かう船に乗った。4回目の帰省。

 翌日、その船内でガリ版刷りの「号外」が配られる。前日7日早朝、北京郊外で起きた盧溝橋事件を知らせるものだった。
 

 甲板に出た日高青年は、手すりにもたれ、じっと海を見つめる、ひとりの中国人留学生の姿に気づいて、声をかける。
 

 中国に帰る中国人の若者と、中国の日本人居留地に戻る日高青年。
 甲板のベンチでの二人の対話は、日没まで続いた。
 

 「7月8日の太陽は、やっと雲間からあらわれて、黄海に落ちていく。水平線に近づくにつれて、その円形は3倍ほどにふくらみ、やがてその光は直視できるほどに弱まり、少しずつ水面下に落ちた。北京郊外では、日中の若者が戦っているのかもしれない。ベンチの上の2人の若者は、お互いの運命の異同を知っていた」
 

 再会を約束したが、二度と会うことはなかった。
 

 日高氏はさらにこう書く。
 「彼はすぐ抗日戦線に入るための準備をしたのかもしれない。戦争は人間を苦しめる。しかし、戦争をしかけられた国の若者は、より積極的に苦しみを引きうけた」
 

 船上での出会いと別れ。一度きりに終わった対話。
 

 それはささやかで、儚いものでしかなかったかもしれない。しかし、日本の若者と中国の若者が、日中戦争の勃発という、歴史の転換点にあって、率直な話し合いを、黄海を行く船の上で、成し遂げていた事実は、日高氏の証言が出た以上――そしてそれを読む者がいる以上、消えはしない。
 

 忘れてはいけないし、そう思った瞬間、すでに忘れられないものになっている、語り継ぐべき場面の描写である。
 

 あるいは、戦争が終わると同時にアジアの各地で神宮、忠魂碑の類が、ひとつ残らず、地元の人びとの手で破壊された意味をめぐる、日高氏の指摘。

 「敗戦となった年の秋、青島の忠魂碑と青島神社は解体撤去されたという。……大日本帝国と日本軍の象徴は完全に消滅した。青島でそのように処分されたのは、このふたつの建造物だけである」

 「その意味は、精神的侵略をゆるさないということにつきる。S先生(大沼注 青島の中国人の先生)の言葉を借りるならば、中国人の心を不作法・無礼に傷つけていた日本の象徴を、中国の土地に残すことを許さなかったということである」

 これなども、忘れえぬ、忘れてはならぬ言葉だ。

 アジアの人びと、とりわけ中国の人びとが、どのような歴史的視野のなかで、「靖国」というものを焦点づけてみているか、日高氏のこの指摘を読んで、初めてわかったような気がした。

 その他、

 壮大な青島の忠魂碑と神社が、日本軍による阿片密売資金により造営されたという疑惑。(大沼注 これは、佐野眞一氏の『阿片王』ですでに暴かれている)

 南京攻略前にすでに、中国人の死体の山を、軍艦に積み込み、海に捨てに行っていた事実(海軍軍人の証言)。

 等など、日高氏の「記憶」のひとつひとつが、読後の心に居残って、離れようとしない。

 当然のことながら、日高氏にとって、彼自身「戦争のなかで考えたこと」に「戦後」はなかったはずだ。それはいまに生きる歴史として、絶えず甦り続けて来たのだろう。

 その記憶をさらに再生していく。
 それが、この本の読者であるわたしたちの務めである。

 風邪のおかげで、大事な一冊がまた増えた。

 
 

 
 
 
 

 
 

Posted by 大沼安史 at 01:03 午後 3.コラム机の上の空 | | トラックバック (0)

2005-10-09

〔いんさいど世界〕 2005年 イグ・ノーベル賞      発表!

 2005年、「イグ・ノーベル(Ig Nobel)賞」の授賞式が10月6日、米国のハーバード大学で行われた。

 本家、ノーベル賞に対抗(?)して、1991年度に始まった同賞も、ことしで15回目。愉快で大真面目な、そしてときにはピリッと風刺が効いた研究業績に贈られるこの賞、いまや世界の注目の的だ。

 ユーモア科学誌『ありえない研究年報』が主催するイベントで、イグ・ノーベルのイグ(Ig)とは、「~ではない」の意味。「NO-ペル賞」という洒落である。
 ちなみに、イグ・ノーベルに似た、イグノーブル(ignoble)という英語もあるが、こちらは「不名誉な」の意味。

 そこで早速、2005年の晴れの受賞者たちの紹介に入るとするが、栄養学部門で授賞した、われらが同胞、「ドクター中松」氏については、すでに日本で報道済みであり、省略させていただくことにする。(彼の授賞理由に関心のある方は、末尾に掲げたアドレスをクリックしてください)

 さて、ことしのイグ・ノーベル賞物理学部門の栄誉は、オーストラリア・クィーンズ大学の研究者2人(うち1人は研究を開始した故人)の上に輝いた。

 凝結したタール(あの石油のタール)が滴となって落下するまでの時間を測定するという、まさに粘り強い研究業績が高く評価された。

 1927年から始まった実験で、タールの塊が漏斗の先から、ひとつの滴となって落下するまでの平均時間は「約9年」であることが確認されたという。
 論文によれば、最新の落下は2000年11月28日に起きた。8滴目の点滴だった。

 あの凝結した黒いタールが滴になって落ちる! うーん、地球の重力って凄い!

 2005年「医学賞」は、米国ミズーリ州のグレッグ・ミラー氏に贈られた。
 「ニューティクル」なるものの発明と、その実用化が高く評価された。

 そのミラー氏に対する授賞理由を、発表文で知って唖然とした。
 ミラーさんというお方、股(転換ミスではありません)また、モノ凄いものを発明したものである。

 この「ニューティクル」なる代物(まさに「代物」です。その意味はすぐお分かりになるでしょう)、ワンちゃんやネコちゃんなど、ペットの動物たちがお付けになる(正確には、付けさせられる)ものだそうだ。

 それも股の間に。それも、オスだけが……。しかも、代(理)物……。

 科学心に富んだ読者諸兄であれば、すでにご賢察のこととは存じますが、「わたし、ほんとにワカンナ~イ」などとほざくカマトト娘どももいるらしいので、そういう彼女らにキツイ一撃を食らわす意味で、ここははっきりと、真理・真実の名において、事実をしっかり、書きおくこととする。

 そうです、「ニューティクル」って、男の股ぐらにのみ存在する、あのタマタマ(これを英語でテンティクルといいます)の代理物。

 あたらしい、おニューのタマタマ(テンティクル)、だから、「ニューティクル」。

 さらに言えば、この「ニュー」にはもうひとつの「ニュータリング」の「ニュー」が引っ掛けられている。
 Neutering ……すなわち「去勢」。

 もうこれ以上、説明するまでもないことだが、ミラー氏が発明した「ニューティクル」とは、去勢したオスのペットたちのための、代理タマタマなのだ。
 シリコン製だそう。

 いくら犬猫とはいえ、股ぐらが涼しいのは、男らしさまで消えてしまったようで寂しいもの。ウラ悲しさの極みである。そういうオトコの子たちのために、ミラー氏はシリコン・タマタマを開発した。

 パイプカット手術より割安なのが受け、1995年以来、全世界でなんと15万匹が、この恩恵をタマわっているそうだ。日本ではどうなってるんだろう?

 さて、続きましては「平和賞」。
 ことしは、英国のニューカッスル大学の研究者2人に贈られた。

 イラク戦争が続いている、いまの地球上に、どんな「平和賞」があり得るのか……などとブサクサ言いつつ、授賞理由を読んでタマげた(物理学賞のショックの余韻ということで勘弁してください)。

 あの「スターウォーズ」のスペクタクルな戦闘シーンを、イナゴたちに見せて、どのような映像に視覚的な反応を示すか、実験・解析を続けて来たそうだ。

 その結果、イナゴたちの脳神経の反応で分かった衝撃の新事実とは何か。

 イナゴって、自分に向かって衝突しようとして来る物体にのみ、視覚的に反応し、それ以外はすべて無視してしまう、ってことが分かったそうだ。

 これじゃぁ、衝撃の真実じゃなくて、衝突の新事実だよね。

 研究者たちは、このイナゴの反応特性をエンジニアリングに活かせるのではないか、と日夜、研究に励んでいるそうだが、平和といえばたしかにこんな平和なこと、ないよね。
 これってたしかに、「平和賞」もの。

 あの沖縄「密約」返還の日本の宰相に「平和賞」を贈ってしまった、本家のノーベル賞より、こっちの方がホンモノ、よほどマトモな気がする。

 「経済学賞」は、マサチューセッツ工科大学のガウリ・ナンダ氏に贈られた。
 氏のHPにアクセスすると、すばらしく美しい女性と判明!(ますます、テレビのナレーションみたいになって来ちゃった。ところで、ガウリって、ミサイルの名前にもなった、「火」という意味のヒンヅー語じゃなかったっけ。とすると、彼女はインド系?)
 

 ガウリ嬢への授賞理由は、ある特殊な目覚まし時計を発明したこと。

 ベルが鳴ると同時に動き出し、逃げ回って、ベッドの下などに隠れてしまう。

 ベルを止めるには、どんなに眠くてもベットから起きだし、見つけ出さないとダメ。そのころにはすっかり目が覚めている仕掛けだ。

 ガウリ嬢のHPにその写真が載っているが、茶色のモルモットみたいな動物のかたち。両サイドに小さな車輪がついていて、かわいい。目覚ましというより、ベッドサイドのペットって感じだ。

 これがどうして「経済学賞」に?
 それはね、早起きは3文の得って、日本でも言うじゃない!! 経済活性化は逃げ隠れ目覚ましから、ってわけ。

 その他、「カエルの発する悪臭研究」(「生物学賞」)「人間はシロップと水の中のどちらで速く泳げるか、研究」(「化学賞」)など、愉快・痛快な研究が授賞リストに載っているが、ことしの「文学賞」には、BLOGジャーナリストの端くれとして、考えさせられた。

 石油権益を背景とした独裁政治が続く、アフリカ・ナイジェリアの政治腐敗告発サイト、「ナイジェリア偽造メール・ギャラリー」が、晴れの栄誉に輝いたのだ。

 「偽造」と銘打ってはいるが、実はナイジェリアの現実に対する、パロディーによる風刺。

 亡命ナイジェリア人らが開設しているサイトには、たとえば「【極秘提案】 独裁者が残した、1850万ドルの秘密預金口座のパスワードを、わたしだけが知っています。引き出す方法をご教授しますが、いかがですか」といった、ほんものまがいの「偽造メール」が掲載されている。

 なるほど、こういうレジスタンスもあるのだな、と感心させられた。

 真実を顕わにする虚構の事実。
 笑いが引き裂く、隠蔽のカバー。

 日本でも、「偽造秘密文書サイト」なんてものができたら、面白いかも、でも「怪文書」がどっと集まって来たら困るな、などと、思わず、空想に耽ってしまった。

 
 ★ イグ・ノーベル賞のサイトは  ⇒

                        http://www.improb.com/ig/ig-top.html

 ★ ドクター中松氏の授賞については、以下を参照してください。

              http://www.asahi.com/national/update/1007/TKY200510060344.html

              http://news.goo.ne.jp/news/kyodo/kokusai/20051007/20051007a3880.html

Posted by 大沼安史 at 04:07 午後 1.いんさいど世界 | | トラックバック (0)

2005-10-08

〔NEWS〕 「平和の母」、帰る

 「平和の母」こと、シンディー・シーハンさんが、イラク反戦運動の激動の嵐をくぐり抜け、サンフランシスコ北郊の自宅に帰った。

 テキサス州クロフォードのブッシュ大統領の牧場前で8月、26日間に及ぶ抗議行動を続けたあと、9月24日には、首都ワシントンでの30万人デモンストレーションの先頭に立った。
 そんなシンディーさんの帰宅を地元の人たちがどう受け止めるか、ちょっと気になっていたが、地元紙のサンフランシスコ・クロニクル紙の10月6日の報道によると、彼女の帰郷は、「ヒーローの帰還」として歓迎されたという。

 それを聞いて、安心した。
 英雄、必ずしも、ふるさとに容れられず。そういうこともありかなと、心配していたが、杞憂に終わった。

 シンディーさんは5日、シスコに近いオークランドの映画館で開かれた反戦集会に出席し、スピーチをした。

 8日にはロサンゼルスでの「静かなる平和行進」に参加する。

 シンディーさんは、彼女が反戦活動しているさなか、夫が離婚訴訟を起こすという悲劇に見舞われた。

 そういう不幸に向き合っての帰郷。

 「みなさん、わたしに言ってくれるの。シンディー、やってくれてありうがとう、よく帰って来たねって」

 地元の人びとのそういう一言が、彼女にとっての支え、励ましになっているようだ。
 
 シンディーさんは、7日、ネットを通じて、「絶望から希望へ」というエッセイを発表した。

 「いつか、わたしたちの世界に、平和と愛と、非暴力による紛争解決の道が生まれる。そういう希望とともに生きること、それがすなわち、この世に在る、良きあり方なのです」
 

Posted by 大沼安史 at 10:10 午後 | | トラックバック (0)

2005-10-07

〔NEWS 解説〕 大統領 かく語りき 「10・6ブッシュ演説」を読み解く

 ブッシュ米大統領が10月13日、首都ワシントンで開かれた、ネオコン系のシンクタンク、NED(The National Endowment for Democracy)の集会で演説した。

 米国内における支持率急落、対外的な威信の下落、イラク戦争の泥沼化、「カトリーナ」後遺症のなかで、ブッシュ大統領はどのような「弁明」をしたのか。

 ホワイトハウスが「重大演説」と予告していた大統領のスピーチを、ワシントン・ポスト紙が収録したトランスクリプト(全文)で点検してみた。

 ブッシュ大統領として「最長」のギネスもの演説だった今回の「10・6 対テロ戦争」スピーチは、残念なことに、案の定、これまで以上に、きわめて好戦的なトーンに貫かれていた。

 瀬戸際に追い詰められたネズミがネコを威嚇するように、米国民と世界に対して、まるで妄想に取りつかれた者の如く、「イスラム・ファシズム」の「恐怖」をふりまき、「完勝」するまで、アメリカは戦い続ける、と言い放った。

 世界はこういう男を、史上最強国の指導者としている。わたしたちは、かくも悲しく、恐ろしい、時代に生きているのだ。

 あの一時は親しみさえ感じさせた、テキサス男、ジョージ・ブッシュJr.のイメージは、どこに消えたのか?

 大統領のスピーチは、「脅迫」に満ちていた。

 たとえば、イスラム過激派のネットワークは、イラクを根城に、穏健な諸国の政権を転覆し、ついには「イスラム帝国」をつくろうとしている、との言い回し。

 そしてその帝国は「(西は)スペインから(東は)インドネシア」に達する、というご教示。

 つまりは、イスラム過激派に、そういう恐ろしいものを黙ってつくらせていいのか、という脅しである。

 (大統領の「インドネシア」への言及は、バリ島でのテロを踏まえてのものだろうが、それにしても、絶妙のタイミングで「バリ島テロ」が起きたものだ……)

 大統領はさらにこう指摘して、脅しの追い討ちをかける。

 ビンラディンやザラクァイは、スターリンやヒトラー、ポルポト並みの者どもであるから、放っておいたら、たいへんなことになる、というのだ。

 戦時中の日本の戦争指導者の名が出なかったのはせめてもの救い(?)だが、ビンラディンはともかく、あのザラクァイをヒトラーと同列視しているのには驚いた。

 ザラクァイなるヨルダン人を、アメリカのCIAの回し者だとフツーに思っているアラブ人が聞いたら、腰を抜かしてしまうではないか? (あるいは爆笑してしまう?……)

 ビンラディンやザラクァイらについて、大統領はこう解説を加える。

 「ある人はこれを、邪悪なイスラム過激主義という。あるいは、軍事的な聖戦主義とも。そしてさらにある人は、イスラム・ファシズムと呼ぶ」

 「イスラム・ファシズム」(?)――すごい造語が飛び出したものだ。ヒトラーも、聞いてビックリの新語である。

 大統領はこれに止まらず、以前、どこかで聞いたことのある、脅しをかける。

 イランに対する警告として「(それを手にしたら)躊躇なく使うであろう、不法な体制やテロリストの同盟者が、大量破壊兵器を持つことを断固として拒否する」と言い切ったのだ。

 「大量破壊兵器」?、そう、あのイラク戦争の開戦理由になった、あの「WMD」。

 イラク戦争ぐらいで何をガタガタ言っている? イランでは(サダム・フセインが開発を放棄した)WMD計画がまさに進行中。これを片付けしまわなければ、安心して眠れないんだよ、核がイスラム過激派の手にわたったら、どうなるんだ、という脅迫である。

 二番煎じの「WMD脅し」まで持ち出すあたり、よほど追い込まれてのことと、ついつい同情したくもなったが、あの「9・11」以降、これまで少なくとも10回、アルカイダのテロ計画を未然に食い止めたというくだりを読んで、背筋に寒気を覚えた。

 ほんとうなのか? ほんとうだったら、ブッシュ政権の「脅し」を、もっと真剣に受け止めるべきではないか、という反省心が芽生えたのである。

 そこで、ブッシュ大統領の演説にあわせ、ホワイトハウスが発表した「テロ未遂事件リスト」に目を通してみた。そして、それに対する米マスコミの点検報道をチェックしてみた。

 安堵すると同時に、「またか」と怒りがこみ上げて来た。

 ロサンゼルス・タイムズ紙の報道(10月7日付け、電子版、Bush Linkes War on Terror to Cold War)によれば、リストに載った「アメリカの都市に対する3件のテロ計画」について、連邦政府司法当局の複数の高官は、匿名を条件に、同紙に対して、「そのような陰謀の証拠をまったくつかんでいない」と言明した、という。

 さらに「2002年の米国西海岸、2003年の東海岸に対する空からの(第2派)体当たりテロ」については、「計画が阻止された事実をまったくもって知らない」と、明言しているありさま。

 どうしてそうした根拠のない「テロ計画」を、ブッシュ大統領のホワイトハウスがリストに載せたか、という同紙の問いに対し、ある反テロリズム担当者は、こう答えたという。

 「誰しも、自分流の数え方がありますから」

 何をか言わんや、である。

 イラク戦争開始以来、NEDにおけるブッシュ大統領の演説は、今回が2回目。前回、2003年6月のNED20周年記念式典での演説は、「デモクラシー」を世界に広げていくのだという、「前向き」というか、「希望」を喚起するトーンだった。

 それが今回は、「恐怖」を煽りたてる内容に。

 それは朝日の夕刊(7日付け、4版)のブッシュ演説紹介記事の本記(下記のリンクでも電子版を読むことができます)の見出しにもあるように「危機感あおり支持ねらう」ものであったことは確かだが、それにしても度の過ぎる、妄想的・扇情的な、まさに「重大演説」であったといわざるを得ない。

 まさか、とは思うが、ブッシュ大統領にはもしかしたら、パラノイア的な傾向があるのだろうか?

 今回の「10・6演説」と相前後して、ロンドン発の、あっと驚くニュースが世界を駆け巡った。

 英国BBC放送のパレスチナ・イスラエル問題の特集ドキュメンタリー番組のなかで、2003年6月、ブッシュ大統領がパレスチナの外相らに語ったという、「神がかり発言」が流れた。

 ナビル外相は、ブッシュ大統領はみんなの前でたしかにこう言ったと証言した。

 「わたしは神から下った使命に動かされている。神は言い給うた。『ジョージよ、アフガンに行ってテロリストと戦いなさい』。そこでわたしは、行って戦った。すると、神が言われた。『ジョージ、イラクにいって圧制をなくしなさい』。で、わたしは行って、戦った。そしていま、わたしは再び、神の言葉を聴く思いがしている。『パレスチナ人のため国を得なさい。イスラエルの安全を得なさい。そして中東に平和を』。わたしは神によって、それをなすであろう」

 ブッシュ大統領、かく語りき……。

 これまた、今回の「10・6演説」に並んで、歴史に残る「名言」といわねばなるまい。 

 いや、ニーチェも驚く、スーパーマン的な「妄言」として……。 
 

★ ブッシュ演説 朝日(電子版) 本記
 ⇒  http://www.asahi.com/international/update/1007/002.html

★ 朝日(同)解説 「危機感あおる」
 ⇒  http://www.asahi.com/international/update/1007/008.html

★ 朝日関連記事(同)「テロ阻止 10件以上」

 ⇒  http://www.asahi.com/international/update/1007/007.html

Posted by 大沼安史 at 10:12 午後 | | トラックバック (0)

〔教育改革情報〕 ハリケーン被災の子らに、チャータースクールを臨時開校

 ハリケーン「カトリーナ」の被災者が避難する米テキサス州ヒューストン市の教育委員会は、閉校した公立校の空き校舎を、被災家庭の子どもたちのための、臨時のチャータースクールとして活用することを決めた。

 地元紙、ヒューストン・クロニクルが10月1日に報じた。

 新設されるチャータースクールの名は、「NOW・カレッジ・プレップ」。N(ニュー)O(オルリーンズ)W(ウエスト)……ニューオルリーンズの西の、大学進学を目指す学校、という意味。

 委託先は、ヒューストンを発祥の地として、全米にチャータースクールを45校、展開している教育NPO・KIPP(知識は力、プログラム)。

 K-8(幼稚園から第8学年まで)の子どもたち600人を受け入れる。すでに400人が入学の意思表示をしている。

 教師になるのは、大学新卒のボランティアたち。

 開設期限はとりあえず、来年8月までの今年度いっぱい。

 ヒューストン市教委はその後も、運営委託先を選考し直して、チャータースクールとして存続させる方針だ。
 

Posted by 大沼安史 at 07:23 午前 2.教育改革情報 | | トラックバック (0)

〔教育改革情報〕 被災地のチャータースクール 再建・新設・拡張を支援

 ハリケーン被災地の米ルイジアナ州で、連邦政府がチャータースクールの再建・新設・拡張による、公教育復興支援に乗り出す。

 同州のバトン・ルージュからの情報によると、連邦政府は2900万ドルを支出し、ハリケーンでダメージを受けたチャータースクール11校を再建するほか、あらたに10校、設ける。

 さらに、5校の既存チャータースクールを拡張し、被災家庭の子どもたちを受け入れる。

 新設のチャータースクールは遅くとも、年明けの1月には開校する。

 バトン・ルージュではすでに、地区センターに米国赤十字社が開設した避難民のシェルターに、チャータースクールが設けられている。

Posted by 大沼安史 at 07:19 午前 2.教育改革情報 | | トラックバック (0)

2005-10-06

〔NEWS〕 CIA長官 「9・11」を結果的に招いた職員らを「罰せず」 

 米CIA(中央情報局)のポーター・ゴス長官は10月5日、声明を発表し、「9・11」同時多発テロを結果的に招いたCIA職員らを罰しない方針を明らかにした。

 ロサンゼルス・タイムズ紙の報道によると、ことしの始めにまとまった、CIAの秘密内部調査報告書では、テネット前長官をはじめ、少なくとも11人の職員について、彼らの責任を追及する委員会の設置を求めていた。

 ゴス長官の今回の声明は、この委員会の設置すら認めようとしないものだ。

 声明のなかで長官は「個人を特定することで士気が殺がれる」と、身内をかばう理由を述べている。

 「9・11」を未然に防ぐことに失敗したCIAの関係者の責任を追及する声は、犠牲者の遺族や連邦議会内部で高まっていた。

 これと平行してCIA内部でもヘルガーソン監察監による内部調査が行われ、400ページもの秘密報告書にまとめられている。
 

Posted by 大沼安史 at 06:01 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 ペンタゴンのモグラ イスラエル向けスパイ活動、認める

  イスラエル向けスパイ活動で起訴されたペンタゴンのモール(モグラ)、米国防総省元アナリスト、ラリー・フランクリン被告は10月5日、バージニア州アレキサンドリアの連邦裁判所での罪状認否で、自らの罪を認めた。

 ワシントン・ポスト紙の報道によると、フランクリン被告はイスラエルの対米工作組織であるAIPACの幹部ロビイスト2人に対する機密情報の提供を認めた。

 被告はさらに、今回初めて、在ワシントンのイスラエル大使館の外交官に直接、情報を渡していたことも明らかにした。

 イスラエル側に漏洩された機密情報には、「イラクにおける中東某国の活動」のほか、「ある国による兵器のテスト」に関するものが含まれている。

 この日の罪状認否でフランクリン被告は、イスラエルのロビイストに「イランに関係する情報を提供した」と、陳述し始めた。同被告の弁護士はそこで発言を遮った。

 漏洩の動機について被告は、機密情報を“裏チャンネル”を通じ、NSC(米国家安全保障会議)の高官らに流すことで、米国の対外政策に影響力を行使できるかも知れないと思った、と述べた。
 

Posted by 大沼安史 at 05:33 午後 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 シスコで新作オペラ上演、「ドクター・アトミック」、核開発をめぐる人間劇

 米サンフランシスコで10月5日、新作オペラ、「ドクター・アトミック」の上演が始まった。

 地元紙のサンフランシスコ・クロニクルや、ニューヨーク・タイムズ紙などによると、原爆を開発した「マンハッタン・プロジェクト」に関係した科学者らが織り成す、ヒューマンドラマだそうだ。

 1日にプレミア公演が行われた。

 1945年のニューメキシコの核実験場が舞台。

 シスコ近郊にあるカリフォルニア州立大学バークリー校から、米政府に呼ばれ、マンハッタン計画を参加して、主導的な役割を果たしたオッペンハイマー博士が、オペラの主人公。

 ジェラルド・フィンレー扮するオッペンハイマー博士に、その妻のキッティーや、核開発に執念を燃やすエドワード・テラー博士らが絡む筋立てだ。

 音楽は、ピューリッツァー賞を受賞したジョン・アダムズ。プロデューサーは。ピーター・セラーズ。

 2時間半に及ぶ舞台は、砂漠の実験場で、史上初の核爆発に成功したところで終わる。

 原爆実験に成功すれば、それが日本人に対して使用されることは避けられない。オッペンハイマーらは、そうした「道徳的危機」に直面し、苦しむ。

 22日まで。
 詳しくは、「サンフランシスコ・オペラ」のHPへ。
 http://www.sfopera.com/

 

(大沼注)オペラが好きな小泉首相にひとこと。文化庁のイベントとして、来年の夏、ヒロシマ、ナガサキで公演してもらってはいかがですか?

Posted by 大沼安史 at 09:45 午前 | | トラックバック (1)

2005-10-05

〔NEWS〕 「平和の母」 活動を再開

 イラク反戦運動のシンボル、「平和の母」こと、シンディー・シーハンさんが活動を再開した。
 10月3日は、米アリゾナ州のフェニックスでの集会で、州兵をイラクから帰還させるよう、州知事に呼びかけた。
 シンディーさんらが新たに始めた反戦キャンペーンの名は「もう、嘘はやめて」。
 こんご、全米各州の知事らに州兵の引き揚げを求める活動を続ける。

Posted by 大沼安史 at 09:23 午前 | | トラックバック (0)

2005-10-04

〔NEWS〕 イラク+カトリーナ 2正面作戦、惨敗 ペンタゴンが秘密報告書

 ハリケーン・カトリーナ問題を検証する米国防総省(ペンタゴン)の秘密報告書の内容が明らかになった。英インディペンデント紙が10月3日にスクープ報道した。
 国防長官の官房が米陸軍大学の前教授らに依頼し、ハリケーンが浮き彫りにした米軍の問題点を総括した。
 それによると、カトリーナは第二次大戦後初めて、米軍が2正面で戦う想定に近い状況を生み出したが、結果は「惨憺たるものだった」。
 「計画、適切な訓練の失敗はアフガニスタン、イラクにおける米軍の取り組みを悩ませて来たが、その失敗がアメリカ本土に根付こうとしている」
 ――と、痛烈に指摘している。
 

Posted by 大沼安史 at 11:43 午前 | | トラックバック (0)

〔NEWS解説〕 第2のウォーターゲート事件に? CIAエージェント身分漏洩事件(パルメゲート事件) ブッシュ大統領に直接関与疑惑 10月中に「Xデー」の恐れ

 10月2日に全米放映された、ABCテレビのニュース討論番組、「ジス・ウィーク」で、同テレビの看板記者であるジョージ・ステファノポーラス氏が、CIAエージェント身分漏洩事件(パルメゲート事件)にブッシュ大統領、チェイニー副大統領が直接関わっていた、との見方を示した。

 同事件に詳しい情報源が、同記者に対して明らかにしたという。
 ブログ新聞の「ハフィントン・ポスト」が同日、報じた。

 「パルメゲート」事件とは、イラク戦争開戦前、イラクのWMD(大量破壊兵器)開発・保有疑惑の根拠とされた「ニジェール・ウラン疑惑」をめぐり、同疑惑が捏造であることを告発した元米外交官の妻、バレリー・パルメさんの、CIAエージェントとしての身分が、ブッシュ政権筋の意図的な情報漏洩で、暴露されたスキャンダル。

 ニューヨーク・タイムズのジュディス・ミラー記者らの証言で、漏洩したのは、チェイニー副大統領の首席補佐官である、リビィー氏らであることが明るみに出ていた。

 ABCの花形であるステファノポーラス記者の発言は、リビィー氏らの情報漏洩工作に関する謀議の一部に、正副大統領が加わっていたという衝撃的なもの。

 ブッシュ大統領自身からも1時間以上にわたって事情聴取したといわれる、事件捜査の総指揮官、フィッツジェラルド特別検察官の今後の動きがきわめて注目される。

 同特別検察官の任期は、今月(10月)28日。これまで2年間にわたって捜査を続けてきたフィッツジェラルド氏が「ブッシュ政権」の犯罪立件に果たして踏み切るかどうかが、米国の内政面の最大の焦点になって来た。

 この点に関する、ワシントン・ポスト紙のベテラン、ウォルター・ピンカス記者らの報道(10月2日付け)は、「パルメゲート事件」の構図を知る上で、示唆的である。

 ピンカス記者らによれば、ジュデス・ミラー記者が名指ししたリビィー氏だけでなく、ブッシュ大統領の首席補佐官であるカール・ローブ氏の、漏洩に果した役割もますます明らかになっているという。

 正副大統領の首席補佐官が情報漏洩の中心にいたことがハッキリしたとなれば、次にくるのは、それぞれのボス、すなわち、ブッシュ、チェイニー両氏の関与の度合いである。

 こうした点に関し、フィッツジェラルド特別検察官が証拠をどこまで握っているのか、については、ピンカス記者らも詰め切っておらず、なお「ミステリー」だとしている。

 ただ、ピンカス記者らは、かりに特別検察官が立件に踏み切る場合、「情報アイデンティティー保護法」を適用するのでなく、一般的な「犯罪謀議」として事件を組み立てるのではないか、との観測を紹介している。前者の場合、CIAエージェントがどのような機密活動に従事しているかを、漏洩者が認識していなければらならず、その点の立証が難しいことから、後者を選ぶのではないか、という見方だ。後者なら、謀議を企てた者の意図に犯罪性があれば、漏洩行為そのものに犯罪性がなくても立件できるという。

 問題は、こうした政治的な苦境のなかで、ブッシュ政権が政治的な指導力を維持するため、どのような巻き返し策を図るかだが、内政的な手詰まりを対外的に解決しようとする可能性も否定できない。

 だから、この10月中に、なんらかの「Xデー」的展開が起こりうる、と警戒した方がいい。
 「モニカゲート」で追い詰められたクリントン政権が、イラクを巡航ミサイルで攻撃して国民の目を逸らした、あのやり方である。

 今月(10月)の「予定」のうち、ブッシュ政権にとって最も気がかりなのは、15日にイラクで行われる予定の憲法制定の国民投票である。これが目論みどおり、うまく行かないと、イラク戦争そのもの正統性の根拠が崩れることになりかねない。
 この国民投票が混乱し、状況がさらに混沌化するとなれば、ブッシュ政権として、「次の一手」で事態の打開を図る誘惑にかられるだろう。

 「次の一手」は、いくつか考えられる。

 ひとつは、シリアへの侵攻である。
 米軍はシリアを武装勢力の基地と非難し、イラクの対イラク国境に戦力を増強している。
 シリアの関与疑惑もある、ことし2月にベイルートで起きた、レバノンのハリリ首相暗殺事件の、国連調査団の報告書が、この12日にまとまる予定(遅れるとの見通しもある)。
 この調査結果が暗殺の黒幕としてシリアを名指すことなれば、米軍のシリア侵攻に新たな名目が生まれる。

 以上が、ブッシュ政権は「シリア」への戦線拡大で、内政面の苦境脱出を図るのではないか、という説の根拠である。

 このシリア侵攻説について筆者(大沼)は、かりにあったとしても、イラク国境付近で限定的・局地的なものにとどまるのではないか、と考えている。

 イスラエル紙「ハーレツ」の報道(10月3日付け)によれば、米国とイスラエル当局者が、シリアのアサド体制を打倒したあとに据える、新たな指導者を誰にすべきか協議しているが、親米・親イスラエル政策をとる候補者はおらず、結局のところ、アサド大統領の力を弱める程度に抑える程度の暫定的な結論しか出ていないらしい。

 軍事力によるシリア政権打倒がないとすると、次に考えられる「次の一手」は、対イラン攻撃である。核開発を中止させる名目で、核施設を空爆する筋書きだ。

 米軍筋に強い、米紙「ワシントン・タイムズ」(9月30日付け)によれば、イスラエルの超党派の議員団がこのほどワシントンを訪れ、米軍と同盟国による対イラン軍事行動を迫った。もちろん、米軍が攻撃しなければ、1981年にイラクのオシラク原子炉を破壊したように、イスラエル単独でも行う、という強い意思表示があったらしい。

 この対イラン攻撃は、イランの勢力圏である、バスラを中心としたイラク南部から英軍主力の撤退を検討している英国のブレア政権を思いとどまらせる意味でも、ブッシュ政権にとって「使いで」のある「次の一手」になるだろう。

 ブッシュ政権が対イラン攻撃にふみきれば、まさに天下大乱、石油価格はさらに暴騰し、世界経済は大きな打撃を受けることだろう。

 「パルメゲート」は、ブッシュ政権の崩壊につながる、第二の「ウォーターゲート」になるのか。

 イラク戦争が泥沼化するなかで、米軍による対イラン攻撃はあるのか。

 2005年の、この10月という月が、大きな歴史の岐路であることだけは間違いない。
 
 
 

Posted by 大沼安史 at 04:24 午前 | | トラックバック (1)

2005-10-03

〔NEWS〕 〈9・24〉首都ワシントン反戦デモ会場で生物兵器バクテリアを検出

 9月24日、米国の首都ワシントンで行われたイラク反戦デモの主会場のひとつで、生物兵器に使われる野兎病のバクテリアが検出されていたことがわかった。フランスのAFP通信と米ワシントン・ポスト紙が10月2日に報道した。

 それによると、野兎病の病原菌は、デモ会場のひとつ、「ナショナル・モール」に設置されている米国土安全保障省のセンサー6基が感知した。

 同モールには同日、反戦抗議行動参加者数万人が集合していたほか、ブッシュ大統領夫人も参加した「ナショナル・ブック・フェアー」も行われていた。

 いまのところ、発症者は確認されていない。

 ワシントン・ポスト紙は、病原菌の意図的な散布では恐らくなく、自然環境的な要因によるものとの、政府関係者の見方を示している。

 AFPは、米政府当局者がなお、警戒態勢にあると報じている。

 野兎病は致死性が高く、抗生物質で適切な治療をしなければならない。
 
 (大沼注)米国では〈9・11〉のあと、まるで追い討ちのように炭素菌事件が発生、米国民の恐怖を煽ったことがある。そのことを想起させる事件だ。

Posted by 大沼安史 at 04:42 午後 | | トラックバック (0)

2005-10-02

〔いんさいど世界〕 戦争のポルノグラフィー

 ちょっと躊躇したが、やっぱり、書くことにした。

  英紙ガーディアン(電子版、9月28日付け)に、「新・戦争のポルノグラフィー」という見出しのついた記事が出ていた。

 アメリカのフロリダに住むクリス・ウィルソン氏が、(法的な問題をクリアするため)オランダで開設するWEBサイトのことを紹介した記事だ。

 このポルノ・サイトがいま、世界中の関心の的になっているらしい。

 このサイトには、「数百枚」の「戦争のポルノグラフィー」がポスティングされているという。

 明らかに、米軍の兵士がイラクやアフガニスタンからポスティングした「証拠写真」だそうだ。

 何の「証拠」かというと、兵士たちが戦地にいる証拠写真。
 クレジット・カードを使いにくい兵士たちのため、証拠の写真と引き換えに、ポルノ・サイトへの会員登録を認めているのだそうだ。

 エロ写真ではない。残虐この上ない、戦争の証拠写真ぞろい。 

 「これまで見たなかで、もっとも恐怖に満ちたサイト」と、ガーディアン紙の記者は書いている。

 自分の目でも確かめようと、サイトにアクセスしたが、途中で意欲をなくした。

 というより、怖気づいた。

 わたし(大沼)はもともと気が弱くて、その種の映像を直視できない。
 どうしてもだめだ。

 戦争のポルノとは、戦場というインフェルノ(地獄)に咲いた毒の花であるのか?

 「死体写真」の送信と引き換えに「セックス写真」を眺める、戦地の兵士たち。

 その荒んだ気持ち、やりきれなさを思う。

 ★ 問題のポルノ・サイトは以下の通り。(18歳以上の方のみ)

       http://www.nowthatsfuckedup.com/

 
 

Posted by 大沼安史 at 07:03 午後 1.いんさいど世界 | | トラックバック (0)

〔NEWS〕 イスラム宗教者、誘拐事件で、伊捜査当局 米外交官に逮捕状 ローマの米国大使館、直接関与の疑い

 イタリアの捜査当局が、ローマの米大使館に勤務していた女性外交官に対する逮捕状を出した。

  2003年2月に起きた、エジプト人のイスラム宗教者、アブ・オマール師誘拐事件に関与した疑い。

 米ロサンゼルス・タイムズ紙が9月30日に報じた。
 

 この女性外交官はその後、転勤して、現在は南米にいる。外交官の職務がCIAのエージェントとしてのカバー(隠れ蓑)であったかどうか不明だが、この女性は事件当時、単なるスタッフではなく、米国務省の正式の外交官として、ローマ大使館に勤めていた。

 オマール師の誘拐事件は、イタリアのミラノで亡命生活をしていたオマール師を、CIAミラノ支局の支局長の指揮の下、誘拐し、アヴィアノ空軍基地から、民間のジェット機で空路、ドイツ経由でエジプトに連行したもの。

 オマール師はエジプトの刑務所から、ミラノの夫人に電話でコンタクトをとったあと、消息不明となっている。

 夫人への電話でオマール師は、拷問を受け、イスラム過激派の情報をとるスパイになるよう強要されていると訴えた。

 イタリア捜査当局は、自らの目の前で演じられた誘拐劇に激怒し、この夏、CIA支局長を含む米国人関係者19人に対する逮捕状を発行し、捜査を続けていた。

 昨年までローマ大使館に在勤していた女性外交官は、今回、新たに逮捕状が出た3人のうちの1人。 誘拐作戦をコーディネートし、直接、加わっていたという。

(大沼注)米国によるイスラム関係者の「誘拐劇」は、全世界規模で行われた、といわれる。日本では、そういう事実がなかったか、気になるところだ。マスコミの確認報道をお願いしたい。

 上記のイタリアの事件では米国のローマ大使館が司令塔的な役割を果したようだが、米国の在日(東京)大使館をめぐり、最近、こんなことがわかったので、紹介しておきたい。

 英字紙、ジャパン・タイムズ紙が10月1日に報じたところによると、米国政府が1998年以降、すでに8年間も、東京の大使館所在地(日本の国有地)の地代を「滞納」しているのだそうだ。

 日米両政府の地代改定交渉が98年に決裂し、そのままになっている。

 それまでの地代は、年間250万円。そのレートで計算しても、この8年間で積みあがった米国政府による「滞納」額は、2000万円に達する。

 社民党の参院議員に対し、日本の政府が資料を公開して明るみに出た。
 
 

 

Posted by 大沼安史 at 05:35 午後 | | トラックバック (0)

2005-10-01

〔いんさいど世界〕 ロバート・フィスク記者の「ビンラディン会見記」

 10月1日付けの英インディペンデント紙(電子版)に、ロバート・フィスク記者の「ビンラディン会見記」が掲載された。

  同氏の新著、『文明ための偉大なる戦争(The Great War For Civilisation )』からの、最初の抜粋である。

 有料のフル・ヴァージョンをダウンロードし、早速、読んでみた。

 中東問題にかけては右に出るもののいない、西側ナンバーワンのジャーナリストだけあって、まさに第一級の資料的価値ある記事だった。

 ベテラン記者の冷静な目で、ビンラディンの素顔に、しっかり迫っている。

 フィスク記者はビンラディンに3回、会って取材している。最初は1993年12月、アフリカのスーダンで。2回目は96年6月、3回目は97年3月、いずれもアフガニスタンの山中で。

 相手のビンラディンについては今更、説明するまでもないだろう。

 ここでは、フィクス記者の「会見記」で教えられたポイントを――われわれ日本人としても知っておいた方がいいことだけを、現在進行中のイラク戦争やテロとの関係で記しておく。

 まず最初に挙げるべきは、ビンラディンが、イスラム内部の抗争を嫌っていた、という事実である。

 ビンラディンは旧ソ連が侵攻したアフガンで戦い、ソ連撤退後にサウジに引き揚げるが、フィスク記者によれば、スンニ派とシーア派の対立に発する、イスラムの同胞の分裂、抗争に嫌気がさしての帰国だったという。

 96年6月の会見のとき、アフガン某所の山中は雷雨で、夜空を閃光が切り裂いていた。その光を、ビンラディンは、ムジャヒディン(イスラム戦士)同士の兄弟相撃つ砲火と信じて、落ち着きを失ったという。

 ビンラディンがもし、そういう一枚岩的なイスラムの結束を求める人であるなら、「メソポタミアのアルカイダ」を名乗り、イラクでシーア派同胞の殺害を続ける、あの「ザラクァイ」一派とは、縁もゆかりもないはずである。

 つまり、あのザラクアァイ率いるテロリスト・フループとは、ビンラディンの「アルカイダ」の名を語りながら、まったく別の行動原理で動いている集団ではないか、という疑いが、フィスク記者の証言により、ますます強まったわけだ。

 これはアラブの消息筋が言う「ザラクァイ米CIA操り人形説」ともつながる見方である。

 第二に注目すべきは、ビンラディンがアメリカのみを「敵」(ただし、サウド家に支配された現在のサウジアラビアはアメリカと一体化しているので、これも敵である)とみなしていた事実だ。

 アルカイダによるサウジ国内での対米テロについて、ビンラディンはフィスク記者にこう語っている。
 「……彼ら(イスラムの戦士たち)は主たる敵を攻撃した。それはアメリカである。彼らは第二の敵を殺さなかった。サウジアラビアの軍や警察にいる兄弟たちを……わたしはこのアドバイスを英国の政府に贈る」

 敵はアメリカのみ。第一の敵はアメリカで、第二(セカンダリー)の敵は、敵ではない。96年時点において、ビンラディンはそう語っていたのである。

 その考えにいまなお変化がないとしたら(もちろん、これは確かめようのないことだが)、マドリッドやロンドンのテロは、いったい何者の仕業になるのか?

 フィスク記者が書く、3回目(いまのところ最後)、97年3月の会見の場面は、実に印象的だ。

 フィスク記者がベイルートから携えてきた、レバノンのアラブ紙を、石油ランプの下で、側近とともに食い入るように読み続けるビンラディン。

 これが、アメリカが宣伝する「世界のテロ・センター」の実際の姿だと、フィスク記者は書いている。

 別れ際、フィスク記者は、アルカイダの持つTOYOTAの車のヘッドライトの光をあてて、愛用のニコンのカメラでビンラディンの写真を3枚、撮った。

 ベイルートに戻って現像したその写真は、まるで「紫と黄の幽霊」のようだったと、フィスク記者は語る。

 ビンラディンは果たして、いまなお、生きているのか?
 生きているなら、フィスク記者と4回目の会見を是非ともしてほしいものだ。

 その際、フィスク記者はきっと、こう尋ねるはずだ。
 マドリッドやロンドンのテロは、あなたたちの仕業ですか? イラクでテロ活動を続けるザラクァイというヨルダン人を知っていますか?――と。

 フィスク記者はたぶん、ビンラディンがどう答えるか、すでに知っている…………。

 

Posted by 大沼安史 at 03:43 午後 1.いんさいど世界 | | トラックバック (0)