〔教育改革情報コラム 夢の一枝 ②〕 フィンランド・デンマーク・日本
今朝(10月23日)の新聞を見て、うれしくなった。寝床で読み終わり、曇りガラスの窓を開けると、青空だった。気分爽快になった。
朝刊(朝日)には、フィンランドの教育ルポが載っていた。大島大輔さんという記者が現地を訪ねて書いた報告記事だ。
読みながら、なるほど、なるほど、と、ひとり頷いていた。
朝日の読者には教育関係者が多いというから、いまごろ、きっと、大勢の日本の学校の先生たちも読んでいるはずだ。
みんな、うらやましがっていることだろう。
フィンランドは、OECD(経済協力開発機構)の国際学力調査(PISA、2000年・2003年実施)で、世界トップを行く「高学力の国」。
大島記者の報告によれば、北欧のこの「森と湖の国」では、
・教科書も授業メソッドも学校が選ぶ。
・国のカリキュラムは削りこまれて、いまやガイドライン的なものに。自治体と学校は、このカリキュラムに基づいて、自前の「指導要領」をそれぞれつくっている
・ヘルシンキ市内の小中一貫校の4年生のクラスの週間の時間割には、教科が書き込まれていない×印の箇所が11ヵ所もある。全体の4割が×印。この×印のコマには、こどもたちの理解状況に応じて、やりたい教科をはめこむ。
・全国学力テストも行っているが、一定数を抽出して実施し、その結果も全国平均を公表するだけ。学校のランクづけはしない。
―― のだそうだ。
「低学力」の日本と真逆。
まるで「倒立した鏡像」を見ているようだ。
学校の自治、教育の自由。
文科省の「統制教育」で息の根をとめられていたものが、この国にはある。
そのことを、この記事であらためて知って、うれしくなった。
思わず、深呼吸したくなるような、酸素をいっぱいふくんだ、フィンランドからの新しい風……。
この記事を、文科省の人たちがどう受け止めるのか、知りたいとも思った。
「低学力」を克服するため、全国学力テストを、任意抽出ではなく、小6、中3の全員に対し、一人も残さず、悉皆調査で実施する、その意味はどこにあるんだ、と聞きたくもなった。
教室を酸欠状態にして、教える・学ぶ喜びを根扱ぎにし、結果的に「低学力」をもたらしておいて、いまさら「学テ」もクソもないだろう。
「統制教育」のこの国は、テスト、テストで明け暮れる、「試験の国」でもある。大学の入試センター試験を含め、膨大なテストの山を築いているのだから、この国の教育のどこに問題があるのかぐらい、とうに知っていなければらないはずだ。
日本にとっていま最も大事なことは、「学力」を調査することではない。そんなことは、すでにPISAで、わかっていることでないか。
調査すべきは「教育力」――この国の「低学力」をもたらした「低教育力」である。
いったい何が、この国の学力を低下させているか、文科省の責任問題も含め、その「低教育力」を問うことである。
何が問題か、学び取ることである。
これ、すなわち「学ぶ力」――。
文科省が「学ぶ」ことを放棄して、どうして子どもたちにだけ、「低学力」を問えるのか?
先日の地震で、部屋の壁に積んでいた本の「柱」が崩れ、探していた1冊が偶然、出てきた。
PISAの最初の調査(2000年)を受け、デンマーク政府が実施した点検調査報告書『デンマーク PISA2000からの教訓』(OECD刊)である。
デンマークも日本と同様、「世界トップクラス」の教育力を自認していたが、PISAの第1回調査で、実は「高教育力」の国ではないことがわかった。
たとえば読解力(平均点)でデンマーク(497点)は、フィンランド(546点)はもちろん、スウェーデン(516点)、ノルウェー(506点)を下回り、OECD全体の平均(500点)にも届かなかった。
内村鑑三の『デンマルク国の話』(岩波文庫)にもあるように、日本と同じく、デンマークは無資源国。人材だけが資源とあって、公教育に力を入れ、その「高い教育力」を自らの誇りとして来た。
それが、PISAで、このありさま。
そのショックのほどは、日本以上のものだったろう。
しかし、デンマーク政府は偉かった。人権と福祉のこの小国の文部省はさすがだった。
なぜ、自分の国の教育はダメになったのか、国外の研究者たちの力も借りて、原因を突き止めようとしたのである。
その、結果が、この点検調査報告書の『デンマーク PISA2000からの教訓』だった。
内村鑑三が讃えたデンマルク国の政府には、「学ぶ力」が残っていたのだ。
翻って日本の文科省の役人たちに、デンマークのような自己批判力、自己責任能力はあるのだろうか。
諸君らに、自分たちが統括している日本の教育を、国際的な視野のなかで見つめなおす、デンマークのような気概はありや。
来年、なにがなんでも「学テ」を全国の全小・中学校で行うというなら、せめて同時に、全国の小6、中3に対して、無記名のアンケート調査を実施し、この国の教育の何が問題なのか、どこが悪いのか、学習の当事者である子どもたちの意見を聞いてほしい。
その結果が「低評価」であれば、その点につき、教育行政を改善していく。
そのぐらいのことは、是非ともしてもらいたいものだ。
そこにこそ、「低学力」克服を目指す「教育力向上」の道がある。
Posted by 大沼安史 at 10:42 午前 2.教育改革情報 | Permalink
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